- 2015年02月04日 13:21
ジャーナリストが危険になったのはネットのせいだ!
「紛争地に入る記者は、車や防弾チョッキに<PRESS>と書いて身分を明らかにしていたのは、そんなに昔のことじゃない。それは、安全のためだった」と書くのはニューヨークに本拠のある国際組織CPJ(Committee to Protect Journalists:ジャーナリスト保護委員会)のJoel Simon専務理事です。
しかし、昨今は、「イスラム国」だけでなく、各地でジャーナリストが拘束され、殺害されるケースが相次いでいます。「PRESS」の看板の威光は消滅したどころか、かえって危険なシンボルになったのか、最近ではテレビ映像でも見かけません。
この重大な変化はなぜ生じたのか。それについての一つの衝撃的な答えをSimon氏は提示します。「インターネットの普及が原因だ」と。
この見解は、日本人ジャーナリスト殺害に先立つ、フランスの風刺新聞社シャルリー・エブド襲撃事件を契機に書かれ、ロサンゼルスタイムスに掲載された一文で示されたものですが、示唆に富むものなので紹介します。
もちろん、Simon氏はインターネットの効用を否定しているわけではありません。
<インターネットの出現は、ニュース収集と世界の読者への拡散方法を完璧に変えた。この新しいシステムにはとても大きな利点がある。ニュースは国境を容易に超え、抑圧的な政府が検閲したりコントロールすることを困難にしたのだ>
それは、表現の自由の観点からは好ましいことですが、一方で、ジャーナリストに重大な影響を及ぼしているというのです。
その一例が、紛争地に危険を承知で取材に入る場合。以前なら、「Press」を名乗れば安全でした。なぜ、安全だったのか。それは、戦闘を繰り広げる紛争当事者にとってジャーナリストは有益な存在だったからだ、とSimon氏。
それは、紛争地帯に入ってきたジャーナリストの独占的な報道を通じて、紛争当事者が自らが信じる”大義”を世界に伝えられたからだそうです。一昔前までは。
「ところが今日、イスラム国やメキシコの麻薬カルテルといった暴力グループは、そうした目的をインターネットとソーシャルメディアで果たしている。しかも、とても上手に。もう、紛争地帯に入ってきて発信するジャーナリストはいなくても困らない。ジャーナリストは(身代金の取れる)捕虜にするか、死刑執行の小道具にするほうが、より有用になったのだ」
この脈絡で、今どきは「PRESS」と名乗ることは標的になるようなものだと言うのです。さらにこれに加えて、ニュース業界の費用削減の流れの中で、ニュース収集の最前線は、地元記者やフリーランス記者に頼る部分が増大しているが、彼らは、かって本社から派遣された「特派員」のように、大組織の支援を受けられない脆弱な存在だとも指摘します。それで事件に巻き込まれやすくなっているというわけです。
繰り返しますが、これは後藤健二さんの殺害事件以前に書かれたものですが、なんだか事件の背景、結末を包括的に見通していたような感じがして驚かされました。
米国の伝統的な大手報道機関は、経営難からカネのかかる海外支局をどんどん縮小しているようです。ますます、紛争地の報道は身を守ることに脆弱なフリージャーナリストに頼ることになるのでしょう。日本のマスコミもその傾向を強めているようですから、リスクは高まるばかり。
その一方で、新聞など既存マスコミを追い詰めている新興デジタルメディアは、カネがかかりリスクのある紛争地取材などに見向きもしません。それどころか、自前取材をするところもほんの僅かで、多くは外部からニュースを収集し、アルゴリズムで整理し、モバイルに発信するビジネスでのし上がって巨利を得ている状況があります。
かって英Guradian紙でデジタル担当を務め、現在は米コロンビア大学のデジタルジャーナリズムセンターのEmily Bell所長は、古巣Guardianへ掲載するブログ記事でこの状況をこう皮肉ります。
「新興デジタルメディアは、本質的に悪質なビジネスをしているわけではないし、そうするのが邪悪なわけではない。紛争地域の報道は単に彼らのビジネスモデルに関係がないというだけだ」
とはいえ、かっては健全な経営が健全なジャーナリズムを育んだことを指摘し、この仕組が壊れたのをどう修復するかが重要だとします。しかし「それを解決するカネはベンチャーキャピタルにはあるが、それは、”クリック”を増やせる人だけに存在する」と嘆きます。
Bell所長は昨年11月にもオックスフォード大学ロイター研究所での<Silicon Valley and Journalism: Make up or Break up?(シリコンバレー:和解か決裂か)>と題する講演で、「メディア空間はシリコンバレーの企業に支配されている。彼らにはジャーナリズムの社会的責任にはなんの関心もない」と同じように嘆きました。
Bell所長によると、先月、スイス・ダボスで開かれたWorld Economic Forum(ダボス会議)でも、シャルリー・エブド襲撃事件を受けて「表現の自由」を巡る熱い議論があったそうです。しかし、ジャーナリストのリスクが高まっている流れを食い止める妥当な仕組みがないことを確認するにとどまったとか。
インターネットが結果としてジャーナリストの危険度を高めることになっているとすれば、ネットの大いなる推進役、グーグルやフェイスブックに代表されるシリコンバレー企業とどんな協力がありうるのかはこれからの重い課題に見えます。



