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『工芸青花』創刊インタビュー 菅野康晴(新潮社『工芸青花』編集長)6/8「ほのかに『手』を感じる。その『ほのかさ』が好ましい。」

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2014年11月20日、新潮社より『工芸青花(せいか)』という新しい雑誌が創刊されました。公式サイトを見てみると、「会費20,000円」「1,000部限定」「定価8,000円」という、新潮社が出版してきた雑誌では見たことのない単語が目に飛び込んできます。高額な値段設定や会員制など画期的なコンセプトにもかかわらず、会員数は順調に伸びていると言います。
そんな『工芸青花』の編集長を務めるのが、『芸術新潮』や「とんぼの本シリーズ」で美術や工芸、骨董を中心とした企画を手がけてきた菅野康晴さんです。
多くの出版社が読者の心をつかむ本作りに苦心する中、いま新雑誌を創刊する理由、そして『工芸青花』へのこだわり、出版や編集にかける思いをお聞きしてきました。

【以下からの続きです】
1/8「これだけ本が余っている時代に、今までは屋上屋を架すようなことをしていた。」
2/8「この身軽かつ心細い“個人商店”の感覚。」
3/8「これまで続けてきたことを、一冊の本に同居させる。」
4/8「物の魅力を稀釈せず、そのまま伝える本でありたい。」
5/8「両者の違いを知ってしまったので、後戻りはできませんでした。」

1冊1冊違う本ができあがる

―――触り心地がいいといえば、表紙は布張りなんですね。

菅野:麻布です。綿よりも手ざわりがよいように思うし、かつての古美術の本、たとえば収集家の私家版などは麻布が使ってあることが多いので、そこも踏襲したかったのです。創刊号は生成りのような白ですが、2号目は紺にします。白と青を交互にしてゆくつもりです。

 背表紙の文字と表1の文様は箔押です。布張りで箔押の本は私が入社したころはまだわりと作られていたように思いますが、いまは新刊ではめったに見ません。コストがかかるからです。でも『青花』は、本の固有の物質性、工芸性を取りもどしたいと思って始めたことでもあるので、布や箔の物質感が欠かせなかった。ざらざら、でこぼこしているから、さわっているうちに本が「物」でもあることを否応なく思い出してもらえるのではないかと。知りあいの子で4歳の男の子が、『青花』をてのひらでなでながら、「これいいねー」といっていた、という話を聞いたときは嬉しかったです。

 布も箔も1冊ごとに少しずつ表情が異なります。布目とか、箔のかすれとか。シリアルナンバーを入れている時点ですでにそうですが、それだけでなく、1,000部作っていても、物として見れば同じものはありません。手仕事の器がそうであるように。だから『青花』を手にしてくれた人には、「この」本が「そこ」にあることの偶然にも思いを向けてもらえたらよいなとも思っています。

 表1の文様は、毎回、誌面に掲載した物から、文様になりそうなところを抜きだそうと思っています。いわゆるキリヌキをしているだけで、かたちも配置も加工していません。創刊号の文様はちょっとモダンで、マティスの切絵にでもありそうですが、日本の古いものです。その種明かしは本のなかではしておらず──会員の方には送付の際の手紙でお伝えしていますが──、サイトや販売店で買ってくださった方は、よければ探してみてください。

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―――1冊8,000円という値段も、このこだわりをお聞きしたら納得してしまいます。

菅野:「青花」のロゴは中国の書家・欧陽詢(おうようじゅん/557−641)作の碑文「九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんめい)」から採りました。欧陽詢は虞世南(ぐせいなん/558-638)、褚遂良(ちょすいりょう/597-658)とともに初唐三大家のひとりで、とくに楷書に秀でたとされる人です。ロゴも古い文字から採りたいと思っていて、当初は明恵や光悦の手紙など、日本の書から探してみたのですが、しっくりきませんでした。途中で、骨格がしっかりした書のほうがよいだろうと気づいて、楷書から探すことにしました。
 楷書の成立は行書や草書よりも後で、書家の石川九楊さんによれば、石に刻まれた文字を、毛筆で写した書体とのことです。その間接性、不自由性がまさに工芸的な気がして、工芸をあつかう本にはふさわしいと思いました。しかも初唐のころはまだ楷書の書体も固まりきっていないというか、宋代のころの楷書にくらべて、書き手や作品によってゆらぎがあります。フリーではなく、型があり、でもその型の中にゆらぎがみえる。ほのかに「手」を感じる。その「ほのかさ」が好ましい。
 タイプデザイナーの岡澤慶秀さんに、採字した2字をロゴとして整えてもらったのですが、じつは虞世南と褚遂良の楷書でも作ってもらいました。三大家による「青花」を見比べるなんて贅沢なことで、意見も分かれましたが、これはもう好みで、欧陽詢にしました。『青花』の刊行前のことですが、あるギャラリーで書家の方に会ったとき、初対面だったので名乗ると、「あ、あのロゴ、九成宮醴泉銘でしょう?」といいあてられたのには驚きました。知りあいの知りあいで、Facebookでロゴを見かけたそうです。

―――そうした菅野さんのこだわりが多くの人に伝わって、『青花』を求める人が増えた場合は、増刷や部数を増やすことなども視野に入れていますか?

菅野:『青花』は前提として「青花の会」の会員に送付する会誌ですが、会員以外の人にも見てもらいたいと思って、自分のサイトでも販売したり、お店に卸したりもしています。それらをあわせて1,000部です。本の製作・販売だけでなく催事や物販もやるので、今の私たちでは1,000という数が精一杯だと思っています。

―――「青花の会」のたくさんある活動のなかで、雑誌『工芸 青花』は菅野さんの意識の中で何%くらいでしょう。

菅野:催事の企画は木村宗慎さんにおまかせしているところもあるし、事務的なことは長田くんも担当してくれているので、私は『工芸青花』の仕事が主かもしれません。ただし催事も物販も、『青花』の記事から派生することが多いし、これからもそうなると思うので、はっきりとは分けられません。もちろん木村さんには『青花』の取材・編集段階でも深く関わっていただいています。要するに、みんなでやる、なんでもやる、という感じですね

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『工芸青花』編集長・菅野康晴さん

7/8「本も器も催事の参加券も、商品としての差はつけない。」へ続きます

インタビュー&テキスト:榊原すずみ
(2014年11月5日、新潮社にて)

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