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「変質」と「影響」を遠ざけた議論

 何で弁護士や司法修習生の、「生活が苦しい」とか、「食っていかれない」なんてことを問題にしなければならないんだ、という声を今でも聞きます。あくまで個人が好きで選んだ道として、「自己責任」が当然のように言われますし、「嫌ならばやめればよろしい」という話にもなります。おまけに、弁護士については、「資格は生涯食える保証ではない」といった、お決まりの心得違い論も出されます。

 「改革」が、こうした現状をどこまで想定し、志望者を含めて社会にそれをどこまで発信していたのかという問題をひとまず脇に置けば、自らの自由な選択であることも、「資格」についての言い分も、その通りということになるかもしれません。ただ、問題はその先。果たして、だから「改革」が生んでいるこの現状でよし、あるいはこの現状を生んでいる「改革」でよし、ということになるのか、ということです。

 なぜならば、志望者は個人の自由な選択と、「自己責任」を考えた結果として、「賢明」にも、どんどん法曹界から遠ざかりつつある。法科大学院と「給費制」廃止によって、法曹への資質の有無とは無関係に、経済的条件を満たすものしか、この世界を目指さないし、目指せない。原因と結果は、冒頭の弁護士・司法修習生に投げかけられた言い分にのっかって、はっきりと示されています。そのうえで、弁護士・司法修習生の声を、私たち社会には関係ない、彼らの身勝手な言い分のように扱えるのか、という話です。

 結論からいうと、「改革」をめぐるこの点での話は、不思議なくらいずっとかみ合わず、ずっと社会を思考停止に導いたままのような印象を受けます。冒頭の否定的な言い分の、先の論拠は、主に「そこから先はお前らがなんとかしろ」的な努力論、「やってやれないことはない」「やれている奴もいる」論 (「『実現可能性』に後押しされた『改革』の現実」) に突っ込んだままのように見えるのです。

 いわゆる「金持ちしかなれない」論も同様です。「給費制」論議では、「金持ち」以外も大丈夫という建て前に導かれた印象がありますが、法科大学院とともに負担が敬遠を生んでいるのは明らかです。その上に立てば「金持ちだけでなにが悪い」に行きつくことにならざるを得ないはずですが、そこを否定論者が真っ向から勝負するわけでもない。
 
 先ごろ、横浜弁護士会主催の「給費制」問題のシンポジウムで、「お金のない人が(司法試験や司法修習から)去って行ったら、自分たちがその分だけ有利になってラッキーだ」という同期法科大学院進学者の声を紹介した志望者の発言が話題になりました(弁護士ドットコムNEWS「ど う な の 司 法 改 革 通 信」Vol.67)。「おカネのない人」が去り、「裕福な人」だけが、資質とは関係なく、この世界をチャレンジできる結果の先に、この進学者が口にしたのは、「自分のことしか考えない弁護士が増える」不安でした。「裕福な人」=「自分のことしか考えない」とは限らないとしても、少なくとも彼が言ったことは、機会保障についてチャレンジできずに可哀想とか不当という、志望者目線の擁護論ではなく、その先の、社会的な影響を視野に入れた、制度が人材を徐々に変えてしまうことそのものへの不安だったというべきです。

  「給費制」存置あるいは復活を求める側の主張は、残念ながら、弁護士や志望者個人への影響に置き換える前記言い分を突き抜けて、この社会的な影響を伝え切れてこなかった、といわざるを得ません。「食えない」「金持ちしか」論の先にある法曹の変質がもたらすものについて、判断停止にたどりついている前記論拠すら跳ね返せていない。その一つの大きな原因として、「改革」推進派の大マスコミの論調があることは否めません。この影響について重視し、問題意識を覚醒させるような扱いをしていない、ということです。

 これによって、法曹界が変質していく、人材の偏重が判断や彼らの「選択」の偏重を生み、その不利益を公平という意味において、現実的に社会の一定の層が徐々に、そしてこれまでよりも被り始める――。こうしたことをはっきりと伝えられた国民が、弁護士を経済的に追い詰める結果となる政策をどうしても必要と考えたり、「給費制」で支払われる国費を無駄なコストと果たして考えるのかは疑問です。

 ただ、そうはいっても、前記ずっとかみ合わず、思考停止のような状況が続くのであれば、この先の結論がはっきり社会に伝わるのはもっと先のことではないか、という声を、最近、弁護士の間でよく聞きます。つまり、このまま法曹界から人材が去り、偏った人材確保が進み、彼らが社会に放出され、その実害を現実のものとして利用者市民を通した社会が体現して、初めて分かる。ああ、あれは弁護士や志望者目線の擁護論ではなかったのだ、と。

 もちろん、これを現実論とも「仕方がない」という悲観論ともいうことができます。ただ、それ以前に、その間に実害を被るかもしれない利用者市民としては、「伝えられなかった」で納得できる話なのかは問いかけてみる必要があります。

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