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ハンセン病差別を思う

今や“多くの病気の中のひとつ”
ハンセン病 差別を後世の教訓に


 「世界ハンセン病の日」(1月最終日曜日・25日)に合わせ、国際シンポジウムや写真展、街頭キャンペーンなど多彩な催しが展開された。今回は偏見・差別の撤廃を訴える10回目のグローバル・アピールが東京で発表されたこともあって国内の関心も高く、天皇、皇后両陛下も28日、アピール宣言式典に出席した内外の回復者を御所に招き懇談されるなど異例の対応をされた。

▼両陛下、回復者とご懇談

 進行すると末梢神経や皮膚が冒され、手足の指や顔面が変形するハンセン病は有史以来、「業病」などとして恐れられてきた。しかし1980年代、3つの薬を併用する新しい治療法(MDT)が開発されたことで、「不治の病」から「治る病気」となり、世界で約1600万人の患者が回復、現在の患者数は20万人前後と推定されている。日本では全国13カ所の国立療養所で1750人前後の回復者が暮らすが、新たな患者の報告例はないようだ。



       立ハンセン病療養所、大島青松園(香川県)=「世界ハンセン病の日」関連企画、
       富永夏子写真展「ハンセン病を考えることは人間を考えること」から。「あの島か
       ら出ることが許されないとしたら、あなたはどうしますか?」のコメントを付し、
       偏見・差別の実態を問い掛けている。

 早期に発見すれば完全に治癒し、その限りでハンセン病は今や「多くの病気の中のひとつ」に過ぎない。にもかかわらず、回復後も「元患者」として引き続き差別続くところにハンセン病の特殊性があり、患者が最も多いインドでは回復者やその家族が結婚や教育、就職などで依然、深刻な差別を受けている。

 ハンセン病は長い時間をかけて症状が進行し、指や顔に変形をもたらし、視力を奪う。MDTの開発まで有効な治療法はなく、有史以来、染み付いた恐怖に加え、近世、各国が採った隔離政策が余計、偏見を加速した。明治時代に隔離政策が始まった日本は大正初期にハンセン病患者への優生手術、いわゆる断種も始まり、昭和に入っても「無らい県運動」の名の下、人口中絶の対象にハンセン病を明記した優生保護法が成立するなど、1996年に「らい予防法」が廃止されるまで徹底した根絶策がとられた。

 「治る病気」、「多くの病気の中のひとつ」となった現在も深刻な差別が続く現状は、人類が引き継いできた「負の遺産」の根深さを示す。ハンセン病に対する偏見・差別は、社会のあらゆるところに存在する偏見・差別の原点でもある。患者・回復者が受けてきた悲惨な歴史は、あらゆる差別をなくすための教訓として人々に共有され、後世に引き継がれた時、ようやく意義を持つ。

 式典関連のシンポジウムでも「悲惨な歴史は人類が持つ偏見をなくすための財産」、「ウネスコの世界記憶遺産として広く後世に伝えるべきだ」といった声が出席者から出された。その通りだと思う。未知の病気は今後も必ず登場し、治療法が確立しなければ人類はパニックに陥り、新たな差別を生む。最近のエボラ熱騒ぎも、そのひとつであろう。何千年にも及んだハンセン病差別から、人類が学ぶべき教訓は多い。

 それにしても両陛下の手厚いご対応は関係者にも驚きだったようだ。両陛下はこれまでも全国立療養所を訪問されるなどハンセン病に強い関心を持たれ、世界ハンセン病の日に先立つ13日には、WHO(世界保健機関)のハンセン病制圧大使を務め、今回のグローバル・アピール宣言式典を主催した笹川陽平日本財団会長から直接、ハンセン病の現状などについて、ご進講を受けられた。

 28日には国内や米国、フィリッピン、インドネシアなどから式典に出席した内外の回復者8人を御所に招かれ、一人ひとりと握手し、励ましの言葉を掛けられた。全員が「前向きに生きていく力をいただいた」、「自分の国では有り得ない事態」などと感動を語り、インドのハンセン病回復者協会(APAL)のヴァガヴァタリ・ナルサッパ会長は「これまで家族からも社会からも手を握られることはなかった。両陛下から握手してもらった瞬間、すべての痛みが消えた」と感激の表情を浮かべた。

 筆者は記者時代も皇室を担当した経験はなく、近年の皇室情勢にも疎い。しかし今回は、皇室が持つ重みとでもいうのだろうか、形容しがたい存在感を垣間見る思いがした。(了)

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