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「極論」とどう向き合うか。

今年に入ってから、日経紙で、冨山和彦・経営共創基盤最高責任者(CEO)の「高等教育機関に関する問題提起」が度々取り上げられている。

まず、1月19日付の「エコノフォーカス」で、「稼げる大卒 どう育てる」という見出しを掲げ、大卒者の人数増加と求人ニーズのミスマッチを指摘する記事の中で、

「ごく一部のトップ校以外はL型大学と位置づけ、職業訓練校にする議論も必要」

「マイケル・ポーターでなく弥生会計ソフトの使い方を教えるべきだ」

といった例に代表される冨山氏の主張を図表まで付けて紹介したかと思えば*1、1月28日付の「働きかたNext」というコラムの中では、冨山氏自身にインタビューして、再び、

『G型』と『L型』という雇用市場の違いに合わせて、大学も分けるべき」

という「持論」を、“本人の言”として再び語らせている。

(おそらく提唱されたご本人も十分分かっておられるだろうが)さすがにこれだけ尖った意見だと、日経紙と言えども安易に飛びつくわけにはいかないのだろう、いずれの記事も、記者自身のコメントと冨山氏の主張との距離感は、微妙なままに留まっているが、最近の雇用法制をめぐる諸々の問題や、大学改革の話とも絡む話だけに、しばらくは、この主張が、一つの「極」として、あちこちで取り上げられることになるのだと思われる。

当然のことながら、上記のような意見に対しては、賛否両論あるわけで、ネット上ではむしろ批判の方が目立つ。

そもそも「G型」、「L型」の発想の根底にある「Gの世界」と「Lの世界」の区分自体、そんなに単純なものではないわけで、「グローバル経済圏」と誰もが認める業界の会社ですら、そこで働いて、会社を支えている人々の多くは、ここでいう「L型」の人々だ(でなければ、組織は回らない)、ということが、看過されてしまっているように見える以上*2、多少はマッチョ志向を持っている自分とて、さすがに、これに全面的に乗っかる気にはなれない*3

ただ、大学進学率が急上昇した結果、就職しようとする人々の「自己定義」と、就職してから必要となる「役割」との間にギャップが大きくなっている、という現実、そして、一部の大学は、上記のような提言を受けるまでもなく「職業訓練校」化している、という現実*4がある中で、冨山氏が投げた石を「ただの極論」と切り捨てるのは、決して簡単なことではない。

個人的には、「会計ソフトの使い方」だとか、「道路交通法の勉強」のために、わざわざ4年という貴重な時間と、「大学」という貴重なハードを使う必要はないと思っているし、大学の入学定員をバッサリ半分くらいに減らして、「高卒+職業訓練校」ルートの求職者のボリュームを増やす方がよほど話は早いと思うのだが、「時計の針を逆戻りさせることが難しい」ということであれば、「学問の府」としての大学と、そうでない大学を分ける、という方向性も、当然出てきてしまうだろう。

俗に「上位校」と言われる学校であっても、エリート教育に徹することなど到底できていない、という、今の大学の中途半端さは、長年、指摘されてきているところだけに、大学人が「目指すべき姿」を自ら提示できなければ、“実務のニーズ”に引っ張られて姿を変容させる方向に向かったとしても、それはやむを得ないこと、と言われても仕方ない。

自分は、大学が積極的に「職業訓練」を行う、なんてことは想像もできなかった時代の間だし、むしろ、そこから離れたところにある、もっと大きな何か、を掴みたくて教室に向かった学生だったから、今、立場が変わっても、「企業に入ってくる学生が、大学で即物的な知識を詰め込んできていること」なんて、全く期待してはいない*5

だから、心情としては、冨山氏が唱えるような方向で大学が変わることには、純粋な寂しさを感じる。

だが、それが、世の中の求める方向性であり、当の学生自身が望む方向なのだとしたら、それを誰が止められようか・・・という思いもあるわけで、後は目をつむって、成り行きを見守るしかない。

ここは、せめて、「声の大きさ」で負けないような、説得的な反論を、大学人の側から期待したいところなのだが・・・。

*1:ちなみに、元のプレゼン資料は、http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/10/23/1352719_4.pdfから見ることができる。

*2:これは、「日本のグローバル企業」に限った話ではなく、欧州の企業などにも通じる話で、現地企業の中堅クラスのマネージャーなんかの話を聞いていると、日本人以上に「日本人的」な感覚を持っているように感じる時もある。少なくとも、「グローバル企業、グローバル業界の人間は、皆、『グローバルマッチョ』だ」というのは、ただの思い込みに過ぎない。

*3:ホワイトカラーエグゼンプションの議論等とも共通するところはあるのだが、一握りのエリートだけで構成され、それだけで完結する(接触するカウンターパートも含めて、同じような人種の人間の中だけで話がすんでしまう)特殊な環境(コンサルとか投資銀行といったあたりが典型だろうが、それだけに限られない。)に長く身を置いてしまうと、どうしても、「事業」や「組織」がどうやって回っているのか、という『森』の部分が見えなくなってしまうのかなぁ・・・と思ったりもする(冨山氏に関して言えば、そんなことは百も承知であえて「極論」を述べられているのだろうが、それに無留保に追従するような意見に接すると、ちょっと危うさを感じてしまう)。

*4:大学自身が「実用的資格」の取得を売りにしているケースもあれば、大学自体は伝統的なアカデミック路線を踏襲しているのに、学生の方がそれについていっていない、というケースもある。

*5:就職の面接で、「大学で学んだこと」を聞いて、こせこせとした資格の勉強の話なんて始めたら、それこそ即座に“不採用”の心証を固める。それくらいクラシックなマインドの持ち主である。

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