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忘れられた不競法?〜ファッションデザインの「権利保護」をめぐって

年明け早々から、知財系の記事が目立つ日経紙の法務面。

「知財戦略フロンティア」という特集はシリーズ化するようで、この日も「模倣品に悩むファッション業界」というタイトルで、記事が掲載されていた。

「日本のファッション業界が知的財産戦略を強化し始めた。国内外で当局による模倣品の摘発を積極的に促しているほか、デザインなど知財の権利を行使しやすくする法改正を提言する動きも出ている。」(日本経済新聞2015年1月26日付朝刊・第15面)

記事を読むと、さすがは渋谷高弘編集委員が書かれたもの、ということもあって、

「本来、デザインを保護するはずの意匠権は『ファッションでは活用しにくい』」

「立体商標は会社が自社製品の形状を多額の広告費を使って浸透させるなど長年の努力がなければ認められない」

と、現在の意匠権、商標権の問題点を丁寧に指摘し、

(1)審査を省き1~2カ月で意匠登録できるようにする

(2)保護期間は1~2年だが登録料も安い分野を設ける

といった方向で意匠法改正を目指す、業界関係者の動き等を取りあげている。

無審査で意匠権の保護を認める欧州の法制度なども適宜紹介されており、権利保護強化を求める立場の人々から見れば、心強い後押し記事、ということができるだろう。

だが、自分は、この記事を読んで一つだけ引っかかったことがある。

それは、

「不正競争防止法の存在感があまりにも薄い」

ということだ。

もちろん、記事の中でも、デザイン創作者側で、現在の対応として「不正競争防止法違反」の主張をしていることや、「周知・著名のデザインについての模倣は、不正競争防止法によって罰せられることもある」(これは、不正競争防止法2条1項1号、2号の規律を指しているのだと思われる)ということは紹介されているのだが、残念なことに、本来はこの種のデザイン保護に最もふさわしいものとして設けられている、

「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」

を規制する、不競法2条1項3号の存在には、ほとんど触れられていないのだ・・・。

適用除外条項はあるものの*1、「3年」という期間は、流行サイクルの早いファッション商品にとっては、ちょうど良いくらいの期間だと思うし、意匠権、商標権等の一般的な要件と比べても、そんなに厳しいものではない。

そして、当然ながら、2条1項3号違反行為には、刑事罰の規定もかかってくる。

これまでに公表された裁判例の中で、「3号」に基づいて「権利者」に有利な判断が下された事例が少ないことや、「不正競争防止法違反」といっても、税関、警察の現場の人々が、あまり敏感に反応してくれないことなど、関係者に“これだけでは足りない”と思わせる何かがあるのは確かなのだろう。

しかし、法改正(あるいは新法制定)を行って“実質的に新たな権利を創設する、ということが容易なことではないのは、ここ数年の「画像デザイン」に関する議論を見れば明らかなわけで*2、ましてや、意匠法に「無審査登録制」を導入する、という話になってくると、制度の本質にかかわる問題だけに、なおさら簡単には行かないと思われる*3

それならば、既存の法制度、既存のルールをもう一度しっかり検証して、運用面での改善ができるのであれば、まずそちらから手を付ける、ということを考えても良いのではないか、と思った次第。


おそらく今年も、ファッションに限らず、似たような話がチラホラと出てくるだろうと思うのだけれど、「新しいもの」を創ることだけが、正しい方向性なのかどうか、ということは、常に検証に晒されるべき、だと思うのである。


*1:19条1項5号で、「イ日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」と、「ロ 他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」が適用除外とされている。

*2:物権的効力がある強い権利を新たに創設する場合、それによって生じる萎縮効果等、“反作用”にも目を向けることが不可欠であり、一筋縄で行く話ではないし、制度推進論者の思いのまま一筋縄で行ってもらっても困る・・・というのが、正直な思いである。

*3:特許庁がすんなり支持するとは到底思えないので、現在の産業財産権法とは別枠のもの、と整理せざるを得なくなるかもしれないが、それをやり出すとキリがなくなるし、体系的にも混乱を招く。

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