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河尻亨一「書を持って、街へ出よう ―新宿の昭和な住宅で文化なトークやってみた―」(後編)

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2014年11月1日、新宿御苑の近くのある一軒家を貸し切った計8コマの連続トークショー「Creative Maison」が開催されました。コンテンツや広告の作り手や、現代アーティスト、IT系のスタートアップに関わる人々など、出演者の専門分野や抱えている問題意識は多種多様。DOTPLACEではそのうちのいくつかのトークセッションの模様を抜粋し、短期集中連載としてお送りしていきます。

まずはそのプロローグとして、このイベントの企画をされた河尻亨一さんによる手記をどうぞ!

※本記事は前編・後編の2回に分けてお届けします。

【以下からの続きです】
河尻亨一「書を持って、街へ出よう ―新宿の昭和な住宅で文化なトークやってみた―」(前編)

人間は“シマ”を守りたがる

 「なぜLIVEものなのか?」は本稿の前半でご説明した通りだが、日頃、様々なイベントに参加していて感じることがある。ソーシャルメディアのソーシャルが“社交”の意味であるように、これほど「人と人のつながり」とか「コミュニティ」みたいなことが言われる時代はない。これだけ強調されるということは、それが希薄になってる面が大きいのだろう。足りていれば、ことさら言う必要もないわけだから。

 コミケやオフ会の流れに始まり、街コン、リアル脱出ゲーム、AKBを嚆矢とする“会いに行ける系”のアイドルたち、ニコ動の超会議、ボカロのLIVE、人気漫画の美術展、巨大イカの展示会、自発的に盛り上がり続けるハロウィン、泡パetc――エンタテインメントの世界で見ても、いわゆる“O2O(Online to Offline)”なイベントがいまは花盛りだ。近頃はちょっと収束感もあるが、Facebook経由のミニイベントや勉強会のお誘いもいかに多いことか。こういった傾向がくっきりしてきたのは、2010年代に入ってからである。

 これらはある種、“人や街の編集”とでも言えそうな興味深い試みだ。しかし、その一方で、本当に“交わり”が起きているか? というとちょっと疑問に感じるところもある。コミュニティ同士が孤立しているというか、大小無数の島が散らばっていて、互いの島を行き来しづらい。

 もちろん、私も含めて人間は自分の趣味や専門、つまり“シマ”を守りたい本能みたいなものがあり、その勢力拡大や純度を高めることに力を注いでしまう生き物ではある。似た人が同じような場所に集まることは自然でもあるし、集結することで一層似てきたりもする。ある意味では、これは“仕様のない”話だ。

純粋さの中に一滴の不純物を

 だが、これが社会というものの不思議なところで、同質性があまりに高くなってしまうと、それはそれで楽しくないことが生じるリスクも高まるのである。簡単に言うと、風通しが悪くなる。異なるものとの出会いがなく、新しい発想も生まれにくくなる。人によるのかもしれないが、私のようなものにとって、それはそれでなかなか窮屈な状態だ。村社会とはそういうものだろうが、ネットは使い方によってはそれを加速させる面もある。

 私の専門のご近所で言うと、テックやネットに強い人がメディアのルールや生理を知らず、とんでもないことをやらかして轟沈、みたいな風景をよく見る(逆も多い)。最近で言うと「小4なりすまし騒動」でも、もう少し報道や編集、あるいはまっとうな広告的感覚があれば、たとえ無邪気や善意であっても「政治の文脈に嘘を置くのはヤバいのでは? デザインもこれではユーザーをなめてる印象を与えるかもしれない。それでは多少話題になろうと結局コミュニケーションが成立しない」ということがジャッジできるので、一瞬「いいアイデアだ!」みたいに思いついてしまったとしても、結局それは回避できたりするものだ。「純粋さの中に一滴の不純物があれば…」と感じる出来事である。

 “三角食べ”を推奨するのはそういうことでもあり、言い方を変えれば「遠い島までは難しいにしても、近くの島同士を周回する遊覧船くらいは出したいな」ということである。そもそも私の考えでは、編集者というのは「混ざらないものをなんとか混ぜてみよう」という水と油な努力をやってみるチャレンジャーたちでもある。ほとんどが失敗だが、たまに見たこともないような化学反応が起こるケースもないわけではない。

 「水は水。油は油。ハイ論破~」で終わりがちな昨今だが、実はそのあいだのスキマに私なんかの仕事はある。

 先に述べた「10 over 9 Reading Club」の試みで言うと、メディアの領域とデジタルテクノロジーの領域は、すでに混ざっているように思えて意外と過渡期でもあり、新しい出会いはまだ起こりそうだな、という予感がある。

 参加者の方々には、会場のお家の中を気軽にウロウロして(広くないので)、両方を体験して頂きたいという気持ちがあった。コマーシャルを作ってる人にも、いわゆるスタートアップやウェアラブルに関心を持ってほしいし、その逆のことも起こってほしい。食べてみてお口に合わないようなら、それはそれでよいという話で。

批評としての読書会 ―いまを読み解く楽しみ―

 そして“Reading Club”をうたっている以上、重要なのは読書のフィールドだ。いまっぽい流行のテーマの中に、「本の存在をどう混ぜ込んでいくか?」が工夫のしどころだった。肉と米だけをセットするのではなく、サラダも食べてほしいのである。矢はやはり3本になったほうが折れにくい。

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※編集部注:当日のプログラム一覧(スクリーンショット)。洋室、和室、リビングの3箇所でそれぞれ「コンテンツとコミュニケーション」、「テクノロジーと身体表現」、「読書と教養」を中心としたトークが同時多発的に繰り広げられた

 実際、読書への注目は一部の人たちのあいだで再び高まっている。ここ一年くらいでやたら「教養」ということが言われるようになってきた。読書会や教養ブームはいまに始まったことではないが、手軽すぎるほどに情報が入手しやすくなったことへの反動もあるのか、この領域でもO2O型の催しがさかんになっている。

 本にしても、一人で読んで教養を磨くだけでなく、知ったことをだれかに話してみたいというマインドが高まっているのではないだろうか? そのあたりのことは以下の拙文をお読みいただければ幸いだ。

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20140224/1055417/?rt=nocnt

 ひとつ補足しておきたいのは、10 over 9は読書会ではあるが、読むのは必ずしも書籍だけではないということ。テキストは映像やその他のコンテンツであってもよいと考えており、メディアを限定していない。“読むことの楽しみ”が色んなレイヤーに広がって行くと素敵だと思っている。濱野さんの話ではないが、それもこういった場で訴えるだけでなく、「現場を体験してもらってなんぼ」の考えから今年2月に読書会を作ってみた。小さなコミュニティだが、そのぶん密度が濃くて面白い。

 私自身は正直、紙の書物への愛着が薄い。資料本がたまってくると邪魔な気さえするほどだが、現状では書物は知のツールとしてまだ優れた面も多いと思う。簡単に言うと、ネット上に存在しない知見がストックされている。読書会では古典にも積極的にアタックすることで、埋もれた知恵を掘り起こすプロセスの中から、「現代にふさわしいアウトプットとは何か?」を考えたい。それが10 over 9の役割である。

 寺山修司が「書を捨てよ、町に出よう」と本に書いたのは1967年のこと、つまりいまから約50年前だ。この言葉には、硬直した従来型の活字文化の窮屈さに抗いたい気持ちと新しいメディアと街場のカルチャーの勃興を促したい思いの両方が投影されているのだと思う。つまり、これは当時という時代へのアイロニーであり、批評でもある。

 いまも状況はこれにちょっと似たところがある。しかしアイロニーとしては「書を持って、街に出よう」ということになるだろう。

[書を持って、街へ出よう ―新宿の昭和な住宅で文化なトークやってみた― 了]

★DOTPLACEでは「Creative Maisonトークシリーズ」として、このイベント内で行われたトークを抜粋し、次週から3週にわたってお送りしていく予定です。

LINK 関連リンク

Creative Maisonイベントサイト

10 over 9 Reading Club

PROFILE プロフィール (50音順)

リンク先を見る 河尻亨一(かわじり・こういち)

銀河ライター主宰/東北芸術工科大学客員教授。
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がける。現在は紙メディア・ウェブサイトの編集執筆からイベントの企画、ファシリテーション、企業の戦略およびコンテンツの企画・制作・アドバイスなど。この冬は、ある巨匠デザイナーの評伝執筆に注力。

PRODUCT 関連商品

リンク先を見る 書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)

寺山 修司 (著)
文庫: 332ページ
出版社: 角川書店; 改版
発売日: 2004/6/25

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