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「集団的自衛権」を国民投票に - 小石勝朗

 実現可能性が限りなく低いであろうことは自覚している。「荒唐無稽」と一笑に付されるかもしれない。それでも、私たち主権者の意思が確認されないままに既成事実の積み重ねが進むのを、このまま黙って受け入れることはできない。だから、小さいながらも行動を起こすことにした。

 政府が昨年7月、行使を認めた「集団的自衛権」。その是非を国民投票で問おうという運動である。市民やジャーナリストら数人で、昨年末に準備会を結成した。私も参加している。

 最初に断っておくが、これは集団的自衛権の行使容認に反対するための運動でも、賛成するための運動でもない。「専守防衛の国是を覆し、海外で戦争をできる国になる」との反対論、「日本を取り巻く安全保障環境は厳しく、抑止力につながる」との賛成論のいずれをも、ハナから否定するつもりはない。

 どちらを取るか、「国民みんなで投票して決めましょう」との呼びかけだ。集団的自衛権という国のあり方や国民の生命・財産と密接に関わる重要な事柄について、私たち主権者の意見を直接聞くよう求めていく。

 どうしても納得できないのは、集団的自衛権の行使を認めた、その手法だ。歴代政権は憲法9条の解釈として、集団的自衛権は「所持しているけれど、行使はできない」と説明してきた。憲法学者らの間では、集団的自衛権の行使を認めるのならば憲法9条の改正が必要だ、という意見が強かった。

 しかし、安倍政権が選んだのは「閣議決定による解釈改憲」だった。

 最も問題なのは、そのプロセスにおいて、国民の意思を反映させる機会がなかったことだと思う。

 閣議決定で済ませてしまったのだから、当然、「集団的自衛権の行使を認める」と国民の代表たる国会が議決したわけではない。関連法案がこれから国会に提出・審議されるとはいえ、後付けでしかない。少なくとも「容認するかどうか」の段階で徹底的に議論するのがスジだった。

 昨年12月には衆議院選挙が実施された。安倍首相は自ら争点を「消費増税の延期」「アベノミクスの是非」に設定し、集団的自衛権については積極的に取り上げなかった。選挙で大勝したからといって「公約に掲げた内容はすべて信認された」と捉えてしまう姿勢には、有権者としては首をひねらざるを得ない。

 では、どうすれば良いのか。

 私たちが着目したのは、憲法96条が憲法改正(明文改憲)するかどうかは国民投票で決めると定めていることだ。今回は解釈改憲だけれど、平和主義という憲法の基本原則に関わり、明文改憲に限りなく近い内容でもあるのだから、それに準じた手続き=国民投票をするべきだと立論した。政府にいったん集団的自衛権に関連する法制の整備を凍結してもらい、今年中を目標に国民投票の実施を目指す。

 解釈改憲を安易に認めて良いのか、という議論があることは承知している。しかし、6月まで開会予定の国会で関連法の整備が強行されてしまいかねない状況で何ができるかと考えた時、今から明文改憲の手続きを踏むよう求めるよりも現実的な方法なのだと思う。

 想定している設問は「集団的自衛権の行使を認めることに賛成か、反対か」の1点。投票の結果、「賛成」が多数を占めれば、現在の政府方針の通りに関連する安全保障法制の整備が進められることになる。「反対」が多数を占めれば、閣議決定は撤回され、従来の憲法解釈に戻ることになる。

 国民投票が実現すれば、国民は集団的自衛権を起点として安全保障のあり方や国際情勢、自衛隊の役割などについて、幅広く学び、考え、議論したうえで、自らの1票を投じることになる。私自身、これまでに国内各地の住民投票の現場をいくつも取材し、悩みながらも足元の政治や社会と真剣に向き合う有権者に多数接してきた。国民投票となればさらにスケールが大きくなるから、より広がりが出るだろう。

 そして、最終的にどちらの道が選択されるにせよ、こうしたプロセスを経ることで安全保障に対する国民の意識は高まり、将来へ向けたコンセンサスが醸成される大きなきっかけとなるはずだ。同時に、自分たちが直接決めたことなのだから、主権者たる国民は責任を持って結果を受け入れ、それにふさわしい振る舞いがなされることにもつながるに違いない。

 集団的自衛権への賛成派、反対派の双方にとっても、国民投票にかけることの意義は大きいと思う。

 集団的自衛権の反対派の中には、マスコミの世論調査をもとに「国民の間では反対が多数を占めている」との主張があるけれど、果たしてそうだろうか。回答に何ら責任を負うおそれもなく気軽に答える世論調査と、結果が自分に跳ね返ってくることを前提に臨む国民投票とでは、重みが違う。たとえば、先の衆院選前の世論調査で「必ず投票に行く」と答えたのは70%(朝日新聞)だったのに、実際の投票率は52.66%にとどまっている。「反対が多数」と言うのならば、選挙と同様の厳正な手続きで行う国民投票によって、国民の意思を数字で正確に表してこそ説得力は増すはずだ。

 デモや集会に人数を集めて閣議決定を撤回させるという反対派の運動論にも、違和感がある。もちろんデモや集会の自由は最大限に尊重するけれど、国民の意思を反映するかどうかの根拠は世論調査以上に希薄だし、デモの規模で政策が変わってしまう世の中なら、かえって危険だ。賛成派がもっと大規模なデモや集会を開けば、それをもって集団的自衛権の行使を認めて構わないことになってしまいかねない。

 集団的自衛権の賛成派にとっても、国民の意思がどこにあるかを明確にしないまま既成事実を積み重ねる手法を続ければ、「ゴリ押し」との批判は避けられないし、民意の支えがしっかりしていない政策は何かの拍子で簡単に破綻しかねない。手続きの正当性を担保し、円滑に進めていくには、今の段階で国民に信を問う手続きをきちんと踏んでおくことが不可欠なのではないだろうか。

 具体的な国民投票の方法としては、「集団的自衛権・国民投票」のための特別法を制定し、「諮問型」の投票を実施することを提案する。

 「諮問型」の国民投票とは、投票結果に直接的な強制力がない方式のこと。国民投票で賛成が多数を占めればただちに憲法が改正される明文改憲の手続き(憲法96条)とは異なり、具体的に投票結果を政策へどう反映させるかは、その後の政治に委ねられる。憲法41条が「国権の最高機関は国会」と定めており、国民投票の結果に国会を超えた自動的な効力を持たせるわけにはいかないためだ。もちろん、実際には国民投票で示された民意を政府や国会が無視することはできず、政治的な拘束力は極めて強いから、投票結果が無駄になることはあり得ない。

 これは個人的な考えだが、時間的な制約があるので、特別法は基本的に憲法改正国民投票法に準ずる内容とする。投票権者の年齢は18歳以上とするが、投票のテーマなどにも鑑みて永住外国人の投票権は認めなくてもやむを得ないかと思う。このあたりの制度設計は、今後、知恵を出し合いながら案を練っていきたい。

 スケジュールとしては、政府が集団的自衛権の関連法案を5月の連休明けに国会に提出する意向を示していることから、4月までには国民投票の実施を求める運動の母体をつくって、有権者や政党への呼びかけを本格化させる必要がある。まあ、今の段階ではどのくらいの賛同が得られるか、見通しは全く立っていないのだけれど…。

 活動の端緒とするべく、2月7日午後6時から東京都豊島区の勤労福祉会館で「勉強会」を企画した(詳しくはこちら)。私たちの意図を説明し、皆さんの疑問に答えつつ、運動の進め方について意見を交わす試みだ。スコットランドで昨年9月に実施された「英国からの独立の是非を問う住民投票」をはじめ、国内外の国民投票や住民投票の事例についても取材経験者が報告する。

 繰り返しになるが、私たちが取り組もうとしているのは、集団的自衛権の行使容認に賛成するための運動でも、反対するための運動でもない。あくまで、憲法9条の解釈~海外での武力行使の可否~という国の軸足を決める営みに、主権者として参画することを求める運動である。集団的自衛権の行使への賛否を超えて、その是非を国民投票で決めることに関心のある方にはぜひご参加いただきたい。

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