記事

南シナ海問題をめぐる中国・フィリピンの主張 - 岡崎研究所

中国がフィリピンとの間での南シナ海紛争仲裁に応じないことについて、ウォールストリート・ジャーナル紙は、12月9日付の社説で「北京はその海洋侵略の怪しげな法的正当化をでっち上げている」と非難しています。

 すなわち、フィリピンは、スカボロー礁から漁民が中国に追い出されたのを受け、2年前に仲裁裁判に訴えたが、中国は、フィリピンの仲裁提訴に対し、仲裁参加を拒否し、フィリピンは交渉による解決という約束に違反した、としている。2009年に中国は、U字型の9点線で南シナ海のほぼ全域を囲む地図を公表し、「議論の余地ない主権」を主張している。

 今回中国は12月15日の中国側弁論の期限を前に、公式ペーパーを出した。これは仲裁の受諾や参加を意味しないとしている。

 中国の言い分は、この紛争は領土主権にかかわり、海洋法の枠外である、したがって仲裁裁判所には管轄権がない、ということである。しかし、そうではない。「海洋法は主権の分配をしない」というのは正しいが、フィリピンが求めているのはそういうことではない。フィリピンはその経済水域(EEZ)内での漁業その他の権利の確認を求めている。中国はスカボロー礁からフィリピンの漁船を追い出し、フィリピンの権利を侵害している。こういう問題の仲裁はまさに海洋法が行うべきことである。

 中国は根拠の薄弱な歴史的主張に依拠している。それは、国民党が1948年に引いた9点線であるが、その9点の経緯度も明らかではない。9点の場所も時期により異なっている。9点線地図発表後、中国は水域全域に主権を主張しているのか、土地だけになのかも明らかにしていない。中国は、戦略的あいまいさを好んでいる。

 フィリピンの仲裁要請だけでは不十分である。中国の侵略は国連仲裁では止まらない。中国は仲裁が進行する間にも、軍のプレゼンスを拡張し、隣国の領土に圧力を加え、新しい島を埋め立てて作るだろう。南シナ海の軍事化はシーレーンを脅かす。米国も隣国も、中国の野心を抑えるために、これまで以上の圧力を中国にかける必要がある、と述べています。

出典:‘China’s Line in the Sea’(Wall Street Journal, December 9, 2014)
http://www.wsj.com/articles/chinas-line-in-the-sea-1418170872

* * *

 この社説は、南シナ海での中国の主権主張を批判している点では評価できます。しかし、フィリピンが提訴した仲裁裁判が、フィリピンの思惑通り成立するかどうかは分かりません。

 社説で取り上げられている、12月7日に中国が発表した公式文書は、(1)フィリピンの問題提起は領土主権にかかわることで、中国に応訴義務があるとは言えない、(2)中国は2006年に境界画定紛争などを強制管轄の例外として条約に従って通知している、(3)フィリピンが交渉を尽くさず仲裁にいきなり訴えたことは国際法違反である、などと論じています。

 上記社説は「スカボロー礁周辺EEZでの漁業権の問題は領土主権問題ではない」と言っていますが、「スカボロー周辺の漁業権の問題も領土主権問題から派生する問題である」との中国側主張にも一理あります。仲裁裁判所が管轄権についてどういう判断をするかは予断を許さず、中国寄りになるか、フィリピン寄りになるかは五分五分と思います。上記社説は、管轄権についての中国側主張を「取るに足らない」ものと扱っていますが、それは、国際法の解釈としては必ずしも正しいものではありません。

 今回の中国のペーパーは、仲裁についての強制管轄の有無に焦点を合わせたもので、9点線やその他の南シナ海での中国の行動を正当化する議論はほとんど含まれていません。中国は9点線で囲まれた地域が領海というのか、経済的水域というのか、はっきりさせていません。「争いのない主権」を持つとか、「歴史的権利」があるなどといわれても、今の海洋法を含む国際法上の概念にうまくあてはまりません。「曖昧なことを言いつつ、現場でプレゼンスを拡大する中国には、もっと厳しく対応すべきである」との社説の結論は、その通りでしょう。中国は、尖閣、中印国境などで領土主張をしていますが、この9点線主張は最も弱い根拠しかない主張と言えます。頻繁に諸事例をとらえ、対抗していくのがよいでしょう。9点線問題は中国の拡張主義を如実に現しているケースであり、ここでは関係各国と協力し、知恵を絞り、封じ込める必要があります。

■関連記事
ベトナムに加えフィリピンとも深まる対立 漁民に振り回される中国当局
座礁船をめぐる中国とフィリピンの対立 領海紛争の新たな火種
南シナ海の石油開発に見る中国の焦燥感と被害者意識
ベトナム衝突事件を仕掛けた中国の「黒幕」
南シナ海で島を建設する中国の「理屈」

あわせて読みたい

「南シナ海」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    コロナ対策は菅内閣にも直結 東京の新規感染者数が5000人超えなら菅内閣はもたない

    田原総一朗

    07月28日 14:43

  2. 2

    東京3000人は五輪強行開催によるモラル崩壊の証。もう誰も自粛しない

    かさこ

    07月28日 08:46

  3. 3

    西村大臣の酒類販売事業者への要請撤回 首相官邸の独断に官僚からも疑問の声

    舛添要一

    07月28日 08:34

  4. 4

    「きれいごとだけでは稼げない」週刊文春が不倫報道をやめない本当の理由

    PRESIDENT Online

    07月28日 12:30

  5. 5

    逮捕されても臆することなく、取材を続けよう〜田原総一朗インタビュー

    田原総一朗

    07月28日 08:07

  6. 6

    テスラのマスク氏、豪邸売払い、500万円の狭小住宅暮らし!

    島田範正

    07月28日 15:45

  7. 7

    上司も部下も知っておきたい 「1on1」を機能させるためのコツ

    ミナベトモミ

    07月28日 12:00

  8. 8

    ロッキンは中止する必要があったのか?〜7 /8の議院運営委員会で西村大臣に質疑を行いました〜

    山田太郎

    07月28日 09:58

  9. 9

    東京都の感染者数が3177人に いよいよ菅政権と小池都政の人災であることは明白

    井上哲士

    07月28日 18:48

  10. 10

    首都圏3県の緊急事態宣言、要請あれば緊張感持って連携=官房長官

    ロイター

    07月28日 20:24

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。