記事

クレイグ・モド×内沼晋太郎 『ぼくらの時代の本』刊行記念イベントレポート(前編) 「電子が絶対に勝つわけでもないし、紙が死ぬわけでもないし、」

2014年12月15日、メディアの枠を超えた本作りの経験を綴るクレイグ・モドによるエッセイ『ぼくらの時代の本』がボイジャーより刊行されました。その刊行当日に代官山T-SITE内Anjinにて行われた刊行記念イベントには、平日にもかかわらず120人以上が訪れました。その中で行われたDOTPLACE編集長・内沼晋太郎とのトークの模様を抜粋してレポートします!

書かれていることを体現している本

リンク先を見る

(左から/敬称略)クレイグ・モド、内沼晋太郎

内沼晋太郎(以下、内沼):今日はみなさんのお手元にこの本『ぼくらの時代の本』があると思うんですけど、こういうイベントで、全員の手元に同じ本があるという状況はあまりないと思うんです。なので、今日はこの本をめくりながらみなさんと話ができるといいなと思っています。

クレイグ・モド(以下、クレイグ):東京で行う本の出版記念イベントは今まで10回ぐらい経験しているんですが、ほとんどの場合、その会場では誰も本を買ってくれない(笑)。こういう状況は本当に珍しいので、できればみなさんが本を頭の上に上げた写真を撮りたいんですが……

内沼:本を高く上げてください!

リンク先を見る

リンク先を見る

内沼:ありがとうございます。

クレイグ:この本の中にはいろんな秘密があります。イラストや図版を使って、本文中では説明されていない情報を本の中に織り込んだりすることを、(本を作る側も)楽しんでいるところがある。ここに収録されたエッセイたちは過去にもいろんなところで出版(公開)されているものなんだけれど、そのときよりもこの本の中ではいろいろ遊んでいるんです。

内沼:今朝、DOTPLACEというウェブマガジンにこの本についてのテキストを僕が書いたんですが……この本に載ってるテキストはもう既にみんなウェブ上で読んでいるわけですよね。つまり、DOTPLACEにもこの本のほとんどの内容はあらかじめ上がっているし、その内容だってもともと、クレイグのサイトで過去に英語で発表されていたエッセイの翻訳でもある。この本の中でも「ウェブに中身を公開してしまった方が本も売れる」ということは具体的に書かれているけれど、『ぼくらの時代の本』はすでに、本の中で書かれている内容を完全に体現しているんです。

クレイグ:そういう風に考えていただければありがたいですね。

内沼:それが何よりもこの本の面白い部分なんじゃないかと思います。

リンク先を見る

本のタイトルが「ぼくらの時代の本」に決まる前は……

内沼:最初はこの本のタイトルも違う案が出ていましたよね。

クレイグ:「本をハックせよ」というタイトルでした。

内沼:「ハックせよ」はちょっと違うかなって?

クレイグ:「ハックしようとはしていないよな」と思って。

 実はこの本は(2014年の)3月にボイジャーさんと作りましょうという話になったんですが、この本の中のエッセイは結構前に書いたもので、当時は書き終えて疲れていたこともあって、あんまり読み返したくないと感じていて。だけどそれらが編集されて、デザインされて、イラストを新しく足したり前書きを書き直したりすると、まったく新しいものが生まれてびっくりしたんです。

 僕が、(その時その時の)時代に対して、5年前からずーっと考え続けてきたことがこの本の中には入ってます。本の置かれている状況がどう変わってきているのかを、僕はすごく近く――特にアメリカ――で見てきました。その変化を見ていると、電子が絶対に勝つわけでもないし、紙が死ぬわけでもないし、それぞれの良さがあることに気づきます。例えば5年前だったら、当時はiPadが登場して「これで紙はもう終わりだ」みたいなことを言っていた人が結構いたけれど、2012年と2013年の電子本の売り上げを比較すると、実際はほぼ上がっていないんです。

内沼:横ばいということかな。

クレイグ:そう。やっぱり紙の良さはみんな忘れていないと思っていて。今は紙の本を作ろうと思えば、10年前よりも100倍簡単に誰にでも作ることができるし、電子の本だって誰でも出版できるようになっている。そういう時代です。すごく自由度が上がってきたと思うんです。

 このエッセイは、印刷された本の良さと電子書籍の良さ、その両方のバランスをとって書いたものなので、「本をハックせよ」とかそういう感じでもなくて。みんな昔ながらの本の良さを今も変わらず守っているんじゃないか、2000年ごろ(電子書籍が現れる前)と今を比べても、みんなが持っている本への感謝の気持ちや愛情はそんなに以前と変わっていないんじゃないか、と思っているんです。

内沼:当然、長い本の歴史の間で本の形は変わってきましたよね。最初は手書きだったものが、印刷になって、写植になって……技術の進化の一側面としてデジタルの本が出てきて、そして今、ぼくらの時代ではこれが「本」だよ、ということがこの本には書いてあると思うんです。

 かつ、この本の出し方についても、紙版はすごく美しく作って、電子版は機能的に作って、ウェブ上にもテキストはすべて上がっていて。つまり、読みたい人はタダで読むことができるけど、その一方でお金を出してでも欲しいと思うような本を作っていますよね。しかも大きな出版社から出すんじゃなくて、その考え方を理解しているボイジャーという出版社と一緒に作って、届けたい人に届ける。そういう本の佇まい自体に「ぼくら」感があって、とっても良い本になったと思うんです。

クレイグ:しかも、紙版を買うと電子版も無料で手に入るように設定されているので、そのやり方がすごくこの本には合ってると思う。

 だって、紙の本と電子の本の使い方は全然違いますよね。本の中を検索するんだったら電子版のほうが簡単だし、それも結構楽しい。だけど紙の本が手元にあると、(その本の存在を)忘れにくくなる。こういう形でこの本が出ているのが素晴らしいと思います。

リンク先を見る

[後編「本はその土地の文化とつながっていると思います。」へ続きます](2015年1月27日更新予定)

構成:後藤知佳(numabooks) / 写真:祝田久(株式会社ボイジャー)
(2014年12月15日、代官山T-SITE Anjinにて)

リンク先を見る
リンク先を見る

書名  ぼくらの時代の本
著者  クレイグ・モド
訳者  樋口武志/大原ケイ
価格  印刷本:2,000円+税(四六判240頁・縦書、電子本データつき)/電子本:900円+税
版元  ボイジャー
発売日  2014年12月15日(月)
印刷版 取り扱い書店  BinB storeAmazon代官山 蔦屋書店B&B
丸善 丸の内本店/ジュンク堂書店 池袋本店/紀伊國屋書店 新宿本店/ほか全国の主要書店
電子版 取り扱い書店 BinB storeKindleストアiBookstore
達人出版会honto紀伊國屋書店BookWeb 【関連記事】
クレイグ・モド×内沼晋太郎 『ぼくらの時代の本』刊行記念イベントレポート(後編) 「本はその土地の文化とつながっていると思います。」

あわせて読みたい

「書評」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ホロコースト揶揄を報告した防衛副大臣に呆れ 政府のガバナンスは完全崩壊か

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月23日 10:46

  2. 2

    不祥事続く東京五輪 大会理念を理解せず、市民の生活を軽視した組織委員会

    森山たつを / もりぞお

    07月23日 10:25

  3. 3

    累計8700億円「日本一レコードを売った男」酒井政利氏の〝武勇伝〟

    渡邉裕二

    07月23日 13:02

  4. 4

    将来的に車検で印紙払いが廃止 キャッシュレス払いによる一括払いにも対応

    河野太郎

    07月23日 21:36

  5. 5

    「BTSって誰?」今さら知らないとは言えないので、初心者が通ぶれる小ネタ集めてみた

    放送作家の徹夜は2日まで

    07月23日 08:07

  6. 6

    感染爆発は起こらないことが閣議決定されました

    LM-7

    07月23日 22:45

  7. 7

    橋本会長、「選手のプレイブック違反」証拠をお見せします 出場資格を取り消せますか

    田中龍作

    07月23日 08:33

  8. 8

    東京2020オリンピック競技大会の開幕にあたって

    上田令子(東京都議会議員江戸川区選出)

    07月23日 17:52

  9. 9

    五輪の失敗 誘致直後から「復興」の大義名分が迷走していたからか

    片岡 英彦

    07月23日 10:09

  10. 10

    電通・博報堂の価値観のままで、オリパラを乗り切れるか

    篠田 英朗

    07月22日 12:16

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。