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NPO法人無国籍ネットワークの代表「日本にも無国籍者がいることを知って。」

世界人権宣言第15条には、「すべての人は、国籍をもつ権利を有する」と明記されています。しかし、その国籍を持たない「無国籍者」が、現在世界中に1000万から1200万人いると言われています。

UNHCRは、「無国籍者の地位に関する条約」採択60周年にあたる2014年、今後10年間で無国籍者をなくすというキャンペーンを開始しました。

無国籍者の研究に従事され、無国籍者を支援するNPO法人「無国籍ネットワーク」の代表も務めている陳天璽(ちんてんじ)さんに、無国籍者についてお話を伺いました。
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無国籍者とはいったいどのような人々でしょうか。
国家と法的に繋がっておらず、国民としてどの国からも認められていない人々のことを指します。国民として認められていないため、どこの国からも保護が受けられていません。

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ハーグでの国際会議での発表の様子

日本にも無国籍者はいるのでしょうか。どうして無国籍者が生まれるのでしょうか。

正確な数字は分かりませんが、日本にも無国籍者の方が多くいると思われます。法律上どの国の国籍も持っていないことが明らかな人もいれば、一方で、形式的には国籍を有していても法の運用から「無国籍状態」におかれている人もいます。

無国籍者になる理由は様々です。たとえば、私の場合、横浜の中華街で生まれ、中華民国(台湾)の国籍と日本の永住権を持っていました。しかし、1972年に日本が中国と国交を回復し、中華民国(台湾)の国籍を日本が認めなくなってしまったので、私たちは、日本に帰化するか、中華人民共和国(中国)の国籍を取得するか、あるいは無国籍になるという選択肢を突然つき付けられることになりました。政治的対立とアイデンティティの問題に翻弄され、私の家族は無国籍になるという選択をしました。

無国籍といえば、ほかにも難民二世の子どもたちのケースがあります。たとえば、ベトナム難民二世の子どもで、日本の在留資格は持っていますが、日本の国籍を取得しておらず、またベトナム大使館にも出生届を出していないため、ベトナム国籍も取得していないという、事実上の無国籍状態になっている方もいます。

また、国際結婚のもとに生まれ、両親の国籍国の法律や生まれた国の法律の衝突、出生登録の漏れによって、無国籍となった人。さらに、国家の崩壊によって国籍を失った人もいます。

無国籍と無戸籍はいったい何が違うのですか。
日本における戸籍とは、日本国籍の身分関係を登録・証明するもので、無戸籍の人は、何らかの理由でこの戸籍登録がされていない人を指します。無国籍と無戸籍は、どちらも法的な身分証明が難しいという点では共通しています。ただ、無戸籍の人は、戸籍がないために身分の確認ができませんが、無国籍ではなく無戸籍と呼ばれるからには、その人があくまでも日本国籍の親から生まれ、日本国籍を持っていると推定されます。一方、日本において、無国籍と言った場合、往々にして、日本国籍以外の親から生まれている人で、国籍を持っていない人もしくはどこの国からも国民と認められていない人を指しています。無戸籍の場合は身分証明が全くありませんが、無国籍の場合、中には、日本政府に外国人として登録され、「在留カード」や「再入国許可書」などに「無国籍」もしくは「○○国籍」と記載された身分証明書を持っている人もいます。

無国籍者の方は自分が無国籍だと知ることはできるのでしょうか。
一般の日本人が自分は日本国籍を持っていると疑わないように、無国籍者でも、自分が無国籍者であると知らない場合が多くあります。日本政府が発行する「在留カード」など身分証明書の国籍欄に具体的な国名が記載されていても、実は、その国の国民として正式に登録されていないことが多くあるのです。たとえば、ベトナム難民二世などは、両親がベトナム国籍を取得しているため、在留カード発行時に、その子もベトナム国籍を取得していると発行者側は推測し記載します。しかし、その子の両親は日本で出産すれば自動的に日本国籍を取得できると考えている人もいれば、日本で出生登録しただけで安心し、国籍取得のための手続きを行っていないままでいる人もいます。

つまり、当事者の多くは、結婚や留学、旅行などの手続きが必要になるまで、自身が実は無国籍あるいは無国籍状態であることを知らずにいます。自らの国籍の問題に直面した際に、はじめて自分が無国籍状態にあると知り、日本への帰化手続きを踏む方もいれば、他の国籍を取得する方など様々な方がいらっしゃいます。

無国籍状態になると、どのような問題が生じるのでしょうか。
無国籍者は、特に結婚や就職などの際に困難に直面することが多いといえます。

日本に居住している外国人の場合、結婚する際に「独身証明書」の提出が求められますが、無国籍状態の場合、どこの大使館からも独身証明書を出してもらうことができません。そのため、無国籍者の中には、法的に結婚することができず、事実婚状態に陥り、その子どもも無国籍になるという負のスパイラルが生まれることがあります。また、無国籍の場合、公務員など政府系の仕事に就くことができません。また無国籍という理由で差別を受けることもあります。

私自身は、ボストンに留学しているときに国連に応募しましたが、当時無国籍者だったために就職することはできませんでした。

また、無国籍状態の方でも、「外国人」として日本で在留資格を持たずに滞在している場合、日本からの退去強制手続きが取られることがありますが、その人を受け入れる国が定まらないということが起こりえます。どこの国からも受け入れられずに不安定な生活をせざるをえないだけでなく、長期間収容される可能性も否めません。在留資格のない無国籍者は、極めて脆弱な立場におかれています。

NPO法人「無国籍ネットワーク」はどのような活動をしているのですか。
無国籍ネットワークは、弁護士や研究者の方々と協力して、無国籍者の法律相談やカウンセリング、調査・研究などをしています。また無国籍の問題に対する認知度を上げるため、冊子を作ったり、シンポジウムや写真展を開催するなどのアドボカシー活動をしています。多方面で、国内だけでなく海外とも協働を進めています。

また「すてねとカフェ」等のイベントを開催し、無国籍者や無国籍の問題に関心のある方々との交流の場を設けています。無国籍者のなかには自身のアイデンティティに関し悩みを抱えている方も多くいるので、当事者同士の交流は非常に重要だと考えています。

今後の課題はなんでしょうか。
日本における無国籍者の多くは、国境を越えることなく、出生国である日本で暮らし続け、当事者自身、自分が無国籍であると知らないケースも少なくありません。また、同じ行政機関でも、部局や担当者によって無国籍に該当するかどうかの解釈や扱い方が異なっています。よって、日本における無国籍者の実態を把握することは極めて困難です。行政は実態把握に努めるとともに、当事者に対し、カウンセリングを行い、どのような選択肢があるのかを明確に提示するべきであると考えます。また無国籍者に関する定義・認識を共有し、手続きや制度を適切に整備することも必要だと思います。

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筑波大学でのシンポジウム

読者の方にお伝えしたいことがあれば教えてください。
無国籍者の存在は、日本ではまだあまり知られておらず、また知っていても、無国籍者は外国人よりも下位であるような、ネガティブなイメージを持っている方が多いと感じています。また、無国籍者であっても在留資格を持っていれば行政サービスを受けることができるので、日常面で実質的な問題はないと考える方がいらっしゃいますが、人生の節目で思わぬ壁に直面することも少なくありません。また、無国籍者の方の多くは自身のアイデンティティ確立に苦労し、どこにも相談できずにいます。

難しい問題だとは思いますが、ぜひ一般の方にも、「国籍」という枠にはまらない無国籍の人々が日本に存在していることを知っていただき同じ社会の一員として存在を認め、つながりを持ってほしいと思います。

NPO法人「無国籍ネットワーク」代表 陳天璽さん プロフィール

1971年 横浜中華街生まれ。筑波大学大学院 国際政治経済学博士、香港中文大学、ハーバード大学客員研究員、日本学術振興会特別研究員、国立民族学博物館を経て、早稲田大学国際教養学部 准教授。華僑華人、無国籍者に関する研究に従事。著書に『華人ディアスポラ』明石書店、『無国籍』新潮社。

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