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「マーケットデザイン」って知ってますか?

最近は、朝の情報番組で言い争いをしたり、夜のニュース番組で専門分野が全く異なるピケティ『21世紀の資本』を解説(1月21日の「放送後記」参照)したりと、いったい何をやっているのか自分でも分からなくなりつつありますが、本業はあくまでミクロ経済理論の研究です!

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というわけで、初心にかえる(?)意味も込めて、自分の研究分野を改めてご紹介したいと思います。(以下、学内向けに用意していた約2000字の原稿になります)

「マーケットデザイン」って知ってますか?
~経済学が切りひらく仕組み作りの科学~

大阪大学大学院経済学研究科
安田洋祐 | 准教授


「マーケット(市場)」の「デザイン(設計)」を意味するマーケットデザインは、近年急速に発展している経済学の分野である。伝統的な経済学が、既存の市場や制度を与えられたものとしてとらえ、その機能を解明することに注力してきたのに対して、マーケットデザインでは、イチから制度を設計、あるいは変更することを対象とするのが特徴だ。人びとの動機(インセンティブ)に基づいて経済現象を解明する、という経済学の分析手法を生かして、現実の制度設計や市場の失敗を克服する具体的な仕組みを研究・提案している。2012年には、この分野の第一人者であるアルビン・ロスと、ロイド・シャプレーにノーベル経済学賞が授与された。

理論を補完するために、工学的なアプローチがしばしば用いられる、というのもマーケットデザインの大きな特徴である。単純に数理モデルを構築するだけでなく、提案された仕組みがうまく機能するかどうかをより客観的にテストするため、被験者を集めて新しい仕組みを仮想的にプレイさせる実験や、コンピュータによる数値シミュレーションなどを積極的におこなっている。さまざまな角度から事前チェックを重ねることで、机上の空論に陥るのを防ぐことができる。

さらに特筆すべき点として、この十数年ほどで、マーケットデザインを通じて提案された具体的な制度が、ほぼそのままの形で現実に応用され始めている、という現象があげられる。すでに世界各国で実施されている、電波周波数帯を割り当てる電波オークション、臨床研修医マッチング、公立学校の学校選択制、臓器移植の交換プログラムなどがその代表例である。臨床研修医マッチングは、医学部を卒業したばかりの研修医とその配属先の病院を中央集権的にマッチさせる。日本でも2004年に導入され、毎年約8000人を超える研修医が、この制度を通じて病院へと配属されている。各学生は自分が研修を希望する病院のリストを、各病院は自分たちが採用したい学生のリストをそれぞれ優先順位をつけて(インターネットを通じて)提出すれば良い。あとは、ノーベル賞を受賞した「安定マッチングの理論」にもとづいて、お互いの満足度をもっとも高めるマッチング結果が自動的に導かれる。学生、病院の双方にとってメリットが大きい仕組みなのである。

研修医マッチングで用いられている具体的な仕組みは、その特徴から「受入保留方式」と呼ばれ、提出された病院と学生たちのリストをもとに、以下の手順を踏んで配属先を決定するものだ。

<受入保留方式の手順>
1. 各学生が第1希望の病院にいっせいに申し込む
2. 各病院は、定員の範囲内で優先順位がより高い学生を暫定的に受け入れ(受け入れた学生たちをいったん保留し)、残りを拒否する
3. 各学生は拒否されるたびに次に希望順位の高い病院に申し込む
4. 各病院は、定員に空きがある、あるいは今まで受け入れていた学生よりも優先順位が高い学生が来るたびに受け入れ、残りを拒否する

上の作業を、拒否される学生がいなくなるまで続けると、最終的なマッチング結果が必ず「安定性」と呼ばれる望ましい性質を満たすことが知られている。安定性とは、たとえマッチング結果から(個人や)学生と病院のペアが逸脱したとしても、決して彼らが当初の結果と比べて得をすることがない、という性質を指す。ざっくり言うと、すべての参加者にとって「自分の手が届く中でベストな相手とマッチしている」という状況だ。つまり、受入保留方式を使うことによって、すべての研修医が「配属可能な中で最も希望順位の高い病院に配属」され、すべての病院が「受け入れ可能な中で最も優先順位が高い学生たちを受け入れる」、という望ましいマッチングが必ず実現するのだ。

さらに、受入保留方式のもとでは、個々の学生は正直に自分の希望順位を正直に提出するのが、他の参加者の申告内容といっさい関係なく、常に最適であることも保証されている。たとえば、第二希望の病院を戦略的に第一希望と偽って申告しても、絶対に得することができない。結果の効率性や公平性だけでなく、インセンティブの観点からも優れた仕組みなのである。

現在までに、マーケットデザインが大きな成功を収めてきた応用例は、オークション設計とマッチング・メカニズムのふたつである。オークション設計はお金のやりとりを通じた経済活動、マッチング・メカニズムはお金を直接使わない経済活動のデザインを扱っている。上述した例が示しているように、「マーケット」をデザインするといっても、金銭の授受を伴う狭い意味での市場だけを対象とするわけではない。むしろ、より広い「交換の場」のマッチングについて議論することができるのが強みだ。今後も、マーケットデザインの活用は徐々に広がり、わたしたちの身近な生活に浸透していくだろう。ぜひ、この新しい分野に注目して欲しい。

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