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さらばトリクルダウン経済 オバマの一般教書演説にみる歴史的大転換

ミドルクラス経済の復活策

オバマ米大統領は20日の一般教書演説で「ミドルクラス経済」を復活させるため、格差解消への強い意欲を示した。これは「富める者が富めば、貧しい者にも富が滴り落ちる」というトリクルダウン理論を大転換するものだ。

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オバマ米大統領の一般教書演説(ホワイトハウスのHPより)

レーガン米大統領やサッチャー英首相が主導した新自由主義は、ベルリンの壁崩壊で加速したグローバル経済と金融自由化の追い風を受け、世界経済をものすごい勢いで成長させた。さらにICT(情報通信技術)革命が加わり、アベレージ(平均)の時代を終焉させた。

世界市場はグローバル化とICT化で一つに結ばれ、アベレージではなく、超一流(断トツ)だけを求めるようになった。サッカーで言うと、誰もがクリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシのプレーにひきつけられ、自国の平均的な選手に見向きもしなくなった。

世界中の消費者が米アップルや韓国・サムソンのスマートフォンを買い求める。勝ち組がすべてを手にし、負け組は灰燼に帰する。金融自由化はマネーや信用を飛躍的に膨張させ、リーマン・ショックを招いたものの、金融長者を次々と生み出した。

起きなかったトリクルダウン

トリクルダウンは起こらず、世界のトップ1%への富の集中が進んだ。

経済格差は「過去100年で最悪の水準」とイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は指摘する。しかも世界金融危機後の日米英の中央銀行による量的緩和は不動産や株式などの資産価値を押し上げ、格差を一段と広げてしまった。

格差拡大によるミドルクラスの崩壊は深刻な経済の長期停滞をもたらす。教育の格差がさらなる格差を生み落とす。この流れを断ち切るため、一般教書演説でオバマ大統領が明らかにした主な増税、減税策は次の通りだ。

【増税】

・所得が計50万ドルを超える夫婦へのキャピタルゲイン課税の税率を28%に上げる

・資産が500億ドルを超える金融会社100社への課金

・相続に関する税制優遇を廃止

・10年以上で3200億ドルの税収増となる

【減税】

・共働き世帯に500ドルの税額控除を設ける

・5歳未満の子供を育てる家庭の税額控除を年3千ドル(約35万円)に広げる

・子供がいない家庭にも税額控除を提案

サマーズ氏の見方

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ロンドンで講演するサマーズ元米財務長官(筆者撮影)

一般教書演説に先立ち、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで講演したローレンス・サマーズ元米財務長官は「ミドルクラス経済の政策で民主党と共和党の対立をさらに先鋭化しないか」と質問されて、こう答えた。

「共和党の大統領候補を目指すミット・ロムニー氏も貧困対策を掲げている。ブッシュ前大統領の弟で元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏もミドルクラスの賃金の停滞などを取り上げている」

格差問題は民主党と共和党の共通認識で、大統領選に向け共和党の候補予定者もトリクルダウン理論を擁護する立場は取らないというのだ。

サマーズ氏は「経済構造の変化によって貯蓄と投資のバランスが崩れ、貯蓄余剰・投資不足となったことで、完全雇用に見合う均衡金利(長い目でみて名目短期金利が行き着く先、自然利子率ともいう)が低下した」という仮説「長期停滞論」を説き、注目を集めている。

日本は日銀の黒田バズーカ(質的・量的緩和)で完全雇用に近づいているが、物価上昇で実質金利はマイナスに転じた。日米欧は一様に通常の金融政策で成長を取り戻せなくなっている。

需要を呼び起こせ

サマーズ氏の講演の中で印象に残ったのは「貯蓄余剰・投資不足と一番関係していると思われるのはインフレ率だ」と語ったことだ。

貯蓄が投資に回らないからデフレになるのか、デフレ期待が貯蓄余剰・投資不足を招くのか筆者にはわからないが、日本の場合、こびりついたデフレ・マインドが貯蓄余剰・投資不足を常態化させてしまったことだけは確かだ。

量的緩和は「何もしないよりまし」だが、資産価格の上昇が格差を広げ、ゾンビ企業を生き長らえさせてしまう。当たり前のことだが、中央銀行のバランスシートを限りなく拡大させることはできないのだ。

経済構造の変化がもたらした需要不足を解消するため、サマーズ氏は(1)民間投資を促す規制改革や税制改革(2)貿易協定などを通じた輸出拡大(3)インフラなどの公共投資――といった需要喚起策を掲げている。

筆者はサマーズ氏にぶら下がり取材を敢行し、「安倍晋三首相の経済政策アベノミクスについてひと言聞かせていただけますか」と質問したが、「ノー」と一蹴されてしまった。

レーガン、サッチャーの新自由主義がその役目を終え、ミドルクラスを復活させることで需要を喚起して成長を取り戻す時代がやってくる。オバマ大統領の一般教書演説やサマーズ氏の講演を聞いていて、そんな思いが強くなった。

(おわり)

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