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ホームレスと図書館

 武蔵野市の図書館でもホームレスの人の匂いに困っているとの話しを受けて調べてみた。排除すべきかどうか、図書館だけではなく社会的な課題だ。

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■ホームレスへの自治体の対応

 公共図書館とホームレスの問題は昔からよく聞く問題だ。ホームレスの数は、平成26年調査で全国に男性6929人、女性266人の合計7508人がいる(厚労省ホームレスの実態に関する全国調査より)。最近では減ってきていはいるが、図書館などで匂いが困ることや酒によって騒ぐなどが起きているという。多くの図書館で寝られてしまうので長椅子を行なわないのは、この対策でもあるとされている。統計データを確認できなかったので、図書館でどの程度の問題が起きているかは分からないが、例えば新宿区の場合には、下記のように対応をしている。

『「酒気を帯びた方、異臭を放つ方、及び著しく汚れたり、濡れたりした方の入館はお断りします」と記し、他の利用者の方へ迷惑となる行為は禁止しています。
 また、異臭・悪臭だけでなく、閲覧席で寝ている方についても、他の利用者の閲覧席利用の妨げになるため、職員や警備員が定期的に巡回し、注意をしています。図書の閲覧目的での来館ではなく、他の利用者の方にとって利用の妨害になると思われる場合には、退館するよう促しています。
 さらに、酒気を帯びていたり、大声を出す等、明確に他の利用者の方のご迷惑になる場合は、速やかに退館させています』(新宿区役所公式サイト「よくあるご意見と回答」より抜粋)。

 他にも女性席を設けて、男性が多いというホームレスを排除したり、住所確認をしないと得られない利用カードがないと閲覧スペースが使用できないようにする例がネット検索ではヒットしてくる。余談だが、この女性席には男性差別だとの批判があるという。
 このことを台東区立図書館に確認すると、女性席は50席中の10席に設けているが、貸出しを中心とした図書館であり席が少ないために設けたもの。優先席なので、あくまでもお願いなので男性差別ではない。利用カードがないと閲覧席は調査用のスペースで、他に閲覧スペースはあるので、どれもホームレス対策ではないとの返答だった。

 とはいえ、目的は違うとはいえ、一つの対策となるかもしれない。

■ホームレスを拒めないが

 図書館は、「すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することは、すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である」「すべての国民は、図書館利用に公平な権利をもっており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない」(図書館の自由に関する宣言より。参考:日本図書館協会)との原則があり、ホームレスだからといって利用を拒むことはすべきではない。

 しかし、匂いなどがあれば別問題だ。他の利用者に迷惑をかけることと利用できる権利とは別問題だろう。このため武蔵野市図書館条例第10条にあるように「公の秩序又は善良の風俗を乱すおそれがあるとき」は利用の制限、禁止、退館を命ずることができ、あまりにもひどい場合には出て行ってもらうことが可能となっている。

 だが、ここで重要なのはホームレスかどうかではなく、匂いなど迷惑があるかどうかだ。匂いをなくすることができるかであり、さらにホームレスから抜け出せるかどうかの情報や手段を提供できるかが、図書館には問われる。

■海外での例

 国立国会図書館のサイトにあるカレントアウェアネス・ポータルで調べてみると、アメリカの図書館でも問題となっているが、次のような対策を行う例があるという。

・ノースカロライナ州のGreensboroの図書館では、散髪や食事、血圧測定、職業カウンセリング、などを提供している。
・フィラデルフィア中央図書館では、ホームレスの人たちがスタッフを務めるカフェがあり、また洗面所が洗濯などに使用されないようホームレスの人たちが見回りをする取組みがある。
・フィラデルフィアやサンフランシスコ、ワシントンではソーシャルワーカーを雇用している
 (米国の公共図書館はホームレス問題への取組みの最前線にある)

 他にもカナダのエドモントン図書館が図書館自身で費用を負担しホームレスへ医療保障の補助や住居の紹介、雇用相談、自殺防止ためのサービスなどのアウトリーチサービスのため、2013年で6,000回以上ものやりとりを行い、5つの分館に拡大することも紹介されている。
 (カナダのエドモントン公共図書館、ホームレスへのサービスを5つの分館に拡大する試行を予定)

■図書館のミッションとして

 本人の課題解決を支援するのが図書館のミッションだ。そう考えれば、ホームレスから脱却できる情報や対策を提供することは図書館として必要だろう。
 資金が乏しい研究者や市民に情報を提供し起業支援することも図書館のミッションでもある。このことは、ゼロックスやパンアメリカン航空は図書館で得た情報から企業したことが有名な例であり、仕事を持ち、居住し、税金を多く払ってもらえるようにするのもミッションと考えるべきだ。

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そう考えていくと、ビッグイシュー基金が作成した「路上脱出ガイド」を日比谷図書館などで設置する活動があるが、このようなこともすぐに必要だろう。

 好きでホームレスになっている場合では何ともし難いが、拒み追い出すのではなく、何が問題でどのように対策ができるかが図書館には問われるのだ。

■武蔵野市では

 武蔵野市の図書館の場合はどうか。

 確認してみると、統計データはないが吉祥寺図書館ではここ数ヶ月、利用者からの苦情はない。プレイスでも同様。中央図書館では、月に数回あるが、職員がその旨伝えると館から離れ、次に来館したさいには匂いはなくなっているそうだ。また、居眠りをしているのではなく本を読んでいるため、大きな問題になっていないとしていた。ケースワーカーと連携することで対応できる例を伺ったが、そこまで問題とはなっているようだ。

 古くからある図書館とホームレスの問題。景気とも関係はあるだろう。武蔵野市では、今すぐにホームレスと対策が必要な状況ではないようだが、図書館がそもそもどうあるべきかとも密接に関係する問題でもある。苦情にはならないまでも、問題は知らないところであるのかも知れない。今後も感心を持ち付けたい。同時に情報があればお知らせください。

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