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- 2015年01月20日 09:44
正当防衛を認めるべきなのはどのような場合か 正当防衛に関する雑感
札幌地裁では、以下の事案に対して正当防衛の成立を認め無罪判決を下しました。以下、この事件をきっかけに普段、正当防衛について私が考えていることの雑感です。従って、あくまで私見です。
「男性刺した内縁の妻、正当防衛で無罪判決」(読売新聞2015年1月17日)
〈1〉被告は暴力を受け続ける中、部屋から2回逃げようとして失敗した
〈2〉体格差がある男性から約15分間、顔などを殴られ続けた
〈3〉より危険の少ない道具を選ぶ余裕がなかった
これが大きく報道されるのは、従来であれば正当防衛の成立を否定し、過剰防衛として有罪判決が下されていたであろうことです。
特に〈3〉のより危険の少なく道具というような場合、例えば包丁は手にしたとしてもいきなり刺すのではなく、相手に包丁を向けてみて、それでも襲いかかってくるのでなければ、いきなり刺した行為が「過剰」というような評価をされるということです。
しかし、殴られていることを防ぐ手段が他にあるかといえば、多分、ありません。
ここでの視点で重要なことは、その人の行為時の立場に立って、何ができたのか、ということであって、後から考えて、「こうもできた」とか「ああもできた」とかいう論法は間違いだということです。
そのため当然のことながら、当時の行為としてはやむを得なかったという評価ができれば正当防衛の成立を認めるべき、ということになります。
ここで大事なことは、刑事訴訟の大原則である疑わしきは罰せずという大原則が適用されるということです。この点、裁判所は正当防衛の要件としての厳格な解釈に固執していたため、結果責任を問われていることと等しかったのではないかと思われます。
この案件で、包丁を向けただけで止めていたらどうなっていたのか、ということでもあります。もしかしたら逆に包丁を取り上げられて殺されていたかもしれません。
暴力を振るってくる相手に対して、体格差もあればなおさら防ぎようがないということになります。
殴られているだけで生命を奪うことになるのは均衡を失するというような評価もされることがあります。
しかし、少なくともただ殴られているだけと言っても、実は打ち所が悪ければ死に至るのです。傷害致死事件も結構、起きていますが、殺意がなしとされているから(立証できないから)殺人ではなく、傷害致死とされていますが、実際には人を殴れば死に至る危険は高く(だから傷害致死罪があるのですが)、その態様によっては死の危険があること自体は否定しようがないのです。特に頭部や腹部への暴力は死の危険と隣り合わせだということを忘れてはなりません。
そうであれば、今回、無罪とした判断の正当性は優に認められると思います。
2007年の事件でしたが、15歳の少女が男に車の中で監禁された事件があり、その少女はその男を刺し殺しました。男はわいせつ目的の誘拐です。
地検は正当防衛として起訴しませんでしたが、当時は異例とされていました。要は画期的な判断とされたということです。
しかし、正当防衛の成立を認めるのは当然です。少女は監禁されており、生命まで支配されているのです。監禁の保護法益は身体の自由だからなんていう机上の議論は意味がありません。監禁されている立場に立てば、当然のことながら生きて帰れるのかという危機的な状況に陥っているのです。
しかも、強姦した後に殺害する事件も少なくない中では、監禁されているかどうかも重要ではなく、相手の支配下にあれば足りるということになります。
少なくとも強姦被害から身を守るために、加害者に対して刃物で突き刺すこと自体、やむを得ない行為といえます。もっとも最初から急所を刺すのはどうかという問題はありますが、しかし、現実にはそこまで落ち着いて狙える人などほとんどいないであろうということと、仮に敢えて急所を外す「余裕」があったとしても、それがかえって引き金となって相手方に刃物を奪われ、殺されかねない状況に陥ります。
いずれにしても強姦を防ぐためには命がけということになります。
このような防衛行為が殺人罪に問われる、過剰防衛とされれば(執行猶予がつくとは思われますが)殺人罪で有罪になることをどのように考えるのかということです。
個別具体的な事情のもとで考えるということにはなりますが、事後的にみて安易に逃げられたでしょ、などというのは被害を受けることを我慢しろと言っているようなものです。
それから正当防衛というよりは正当行為にならないのかという問題もあります。
街中で、因縁をつけられ、殴られたらどうしますか。
殴り返したら、双方が暴行(あるいは傷害)ということになりかねません。特にやり返したことによって相手の方がより大きな傷害を負ったような場合です。
その暴力行為を防ぐためのものであれば、正当防衛といえる場合も出てきますが、しかし、やり返すでは正当防衛が認められることは困難です。
そこで暴行罪の現行犯で逮捕するという方法もあります。
刑事訴訟法213条は、「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」と規定しています。
正当行為ということになりますが、身柄拘束を前提にしていますから、ある程度の有形力の行使は認められていますが、結局、相手よりも腕力に劣っていれば、事実上、無理です。
上記のようなDV、強姦事件でも、法律上は「現行犯逮捕」は可能ですが、しかし、現実問題としては、体力差などから、それは絶対に無理ということが前提になっています。なぜなら、体力差で適っているなら、加害行為を排除したり、逃げたりすることが可能だからです。
従って、体力差などからは絶対に逃れられない、ということを前提にしたとき、現実にその被害を防ぐ方法はあるのかが問われているわけです。
さて、その答えはあるのでしょうか。個別具体的な事情の元で、その当時、その行為者の立場に立っての答えでなければ意味がありません。
もっとも、室内でない場合に、その場に刃物を持っているということが前提になると護身用とはいえ、銃刀法違反になる可能性は大ですが。
「男性刺した内縁の妻、正当防衛で無罪判決」(読売新聞2015年1月17日)
「札幌市西区のアパートで昨年8月、住人の無職男性(当時48歳)から暴力を受けた後に包丁で刺し、死亡させたとして傷害致死罪に問われた」無罪判決の根拠は以下のとおりです。(上記記事より)
〈1〉被告は暴力を受け続ける中、部屋から2回逃げようとして失敗した
〈2〉体格差がある男性から約15分間、顔などを殴られ続けた
〈3〉より危険の少ない道具を選ぶ余裕がなかった
これが大きく報道されるのは、従来であれば正当防衛の成立を否定し、過剰防衛として有罪判決が下されていたであろうことです。
特に〈3〉のより危険の少なく道具というような場合、例えば包丁は手にしたとしてもいきなり刺すのではなく、相手に包丁を向けてみて、それでも襲いかかってくるのでなければ、いきなり刺した行為が「過剰」というような評価をされるということです。
しかし、殴られていることを防ぐ手段が他にあるかといえば、多分、ありません。
ここでの視点で重要なことは、その人の行為時の立場に立って、何ができたのか、ということであって、後から考えて、「こうもできた」とか「ああもできた」とかいう論法は間違いだということです。
そのため当然のことながら、当時の行為としてはやむを得なかったという評価ができれば正当防衛の成立を認めるべき、ということになります。
ここで大事なことは、刑事訴訟の大原則である疑わしきは罰せずという大原則が適用されるということです。この点、裁判所は正当防衛の要件としての厳格な解釈に固執していたため、結果責任を問われていることと等しかったのではないかと思われます。
この案件で、包丁を向けただけで止めていたらどうなっていたのか、ということでもあります。もしかしたら逆に包丁を取り上げられて殺されていたかもしれません。
暴力を振るってくる相手に対して、体格差もあればなおさら防ぎようがないということになります。
殴られているだけで生命を奪うことになるのは均衡を失するというような評価もされることがあります。
しかし、少なくともただ殴られているだけと言っても、実は打ち所が悪ければ死に至るのです。傷害致死事件も結構、起きていますが、殺意がなしとされているから(立証できないから)殺人ではなく、傷害致死とされていますが、実際には人を殴れば死に至る危険は高く(だから傷害致死罪があるのですが)、その態様によっては死の危険があること自体は否定しようがないのです。特に頭部や腹部への暴力は死の危険と隣り合わせだということを忘れてはなりません。
そうであれば、今回、無罪とした判断の正当性は優に認められると思います。
2007年の事件でしたが、15歳の少女が男に車の中で監禁された事件があり、その少女はその男を刺し殺しました。男はわいせつ目的の誘拐です。
地検は正当防衛として起訴しませんでしたが、当時は異例とされていました。要は画期的な判断とされたということです。
しかし、正当防衛の成立を認めるのは当然です。少女は監禁されており、生命まで支配されているのです。監禁の保護法益は身体の自由だからなんていう机上の議論は意味がありません。監禁されている立場に立てば、当然のことながら生きて帰れるのかという危機的な状況に陥っているのです。
しかも、強姦した後に殺害する事件も少なくない中では、監禁されているかどうかも重要ではなく、相手の支配下にあれば足りるということになります。
少なくとも強姦被害から身を守るために、加害者に対して刃物で突き刺すこと自体、やむを得ない行為といえます。もっとも最初から急所を刺すのはどうかという問題はありますが、しかし、現実にはそこまで落ち着いて狙える人などほとんどいないであろうということと、仮に敢えて急所を外す「余裕」があったとしても、それがかえって引き金となって相手方に刃物を奪われ、殺されかねない状況に陥ります。
いずれにしても強姦を防ぐためには命がけということになります。
このような防衛行為が殺人罪に問われる、過剰防衛とされれば(執行猶予がつくとは思われますが)殺人罪で有罪になることをどのように考えるのかということです。
個別具体的な事情のもとで考えるということにはなりますが、事後的にみて安易に逃げられたでしょ、などというのは被害を受けることを我慢しろと言っているようなものです。
それから正当防衛というよりは正当行為にならないのかという問題もあります。
街中で、因縁をつけられ、殴られたらどうしますか。
殴り返したら、双方が暴行(あるいは傷害)ということになりかねません。特にやり返したことによって相手の方がより大きな傷害を負ったような場合です。
その暴力行為を防ぐためのものであれば、正当防衛といえる場合も出てきますが、しかし、やり返すでは正当防衛が認められることは困難です。
そこで暴行罪の現行犯で逮捕するという方法もあります。
刑事訴訟法213条は、「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」と規定しています。
正当行為ということになりますが、身柄拘束を前提にしていますから、ある程度の有形力の行使は認められていますが、結局、相手よりも腕力に劣っていれば、事実上、無理です。
上記のようなDV、強姦事件でも、法律上は「現行犯逮捕」は可能ですが、しかし、現実問題としては、体力差などから、それは絶対に無理ということが前提になっています。なぜなら、体力差で適っているなら、加害行為を排除したり、逃げたりすることが可能だからです。
従って、体力差などからは絶対に逃れられない、ということを前提にしたとき、現実にその被害を防ぐ方法はあるのかが問われているわけです。
さて、その答えはあるのでしょうか。個別具体的な事情の元で、その当時、その行為者の立場に立っての答えでなければ意味がありません。
もっとも、室内でない場合に、その場に刃物を持っているということが前提になると護身用とはいえ、銃刀法違反になる可能性は大ですが。



