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【書評】評価と贈与の経済学/岡田斗司夫・内田樹

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評価と贈与の経済学 (徳間ポケット)

「おじさん的思考」の内田樹と、いまネットでエラいことになっている「おじさん」岡田斗司夫の対談本。

フランス現代思想が専門の内田と、オタキングの岡田で話が合うの? という先入観があるが、「まえがき」で打ち明けているとおり、岡田氏は8歳年上の内田氏の著作の大ファンなんだそうだ。それだけならよくあるリップサービスだが、読んでみるとなるほど、本書の特に前半の方では、ファンが憧れの人を前に、影響を受けて自分が実践していることを目をキラキラさせながら語っているような印象を受ける。

かといって、お互いの意見を尊重しあい、波風たたせずなあなあに終わる悪しき対談本とはちがっていて、意見の対立点は幾重にもある。

たとえば、内田氏が『先生はえらい』以降繰り返す、謎めいた「師匠」の謎めいた言動が「弟子」の学びを誘発させるという主張について、岡田氏はそりゃあんたみたいな秀才の弟子だからできるんじゃね? という具合にやんわり疑問を呈しているが、これなんかは本当に内田氏の著作を読み込んでいるからこそ浮かぶ疑問なんじゃないかと思う。

そうした対立点はあれど、内田がマスメディアの必要性として論じる最低限の「プラットフォーム」(p.23)を二人が共有しているからこそ、その対立点があっても見過ごさず、とことん議論し合っている感がある。


たとえば、以下のくだり。

岡田 なるほど。でも先生、徹底的にぼくの言ってることが正しいって、とりあえずでいいんで思ってみませんか?

内田 え? とりあえずですか(笑)。はい、わかりました。

岡田 はい。そしたらお互いおもしろいと思うんですけど。

内田 お安いご用です。

p.121

引用部が“コミュニケーションについてのコミュニケーション”すなわち「メタコミュニケーション」であることがわかるだろうか。

この前のページまで、絶対に譲ることのないある対立で二人の議論は平行線をたどっていたのである。

けれどここで岡田氏は内田氏に、「とりあえず」その主張をかっこにくくり、こちら側に一度来てみませんか? と提案している。これに内田氏も「とりあえず」と応じて歩み寄り、岡田氏の視座から岡田氏の主張を眺めるのである。

ここまで頑固者で、なおかつ柔軟なおじさんたちを、ぼくは知らない。


対談の内容は広範囲にわたっているが、一言でいえば「新しい共同体像」「新しい家族像」という話題に集約される。

内田氏はレヴィ=ストロースの文化人類学に代表する様な構造主義者のため、いつの時代だって大同小異で基本的に人類は変わらないのだ、という視点に立っている。一方、岡田氏はそういう内田氏の視点を否定しないまでも、(いろんな意味で)実践の人なので大同小異でも「小異」の部分を大切にしようとする。

内田氏はこの対談でもやっぱり語り口が魅力的で、博覧強記で知性的ではあるけれど、反面この人は相当高いレベルのところで実は身体的な経験に依拠している。

これは、二つの意味で危険だ。一つは「身体はしばしばウソをつく」ことであり、もう一つは「再現性がない」ということだ。

たとえば「努力あるいは才能に対する報酬は、いつか必ず来る」なんて話はなるほどとは思わされるが、よくよく考えてみたらそこらの自己啓発本と変わらないところがあって、ぜんぜん科学的ではない。

でもたぶん、内田氏はそれを科学的でないと言われたって、痛くもかゆくもないのだと思う。占いみたいなもので、内田氏と精神分析でいう「転位関係」にある読者や弟子には届き、たぶん実際に効力を発揮しているのだ、彼らの中では。


一方、岡田氏については、主張や作品と実際の人物は分けて考えるべきなのだろうが、直近にあまりに生々しいことがあると、いろいろ勘ぐってしまう箇所も散見される。

内田 「男なんてみんなおなじ」っていうのは若い女の子にはなかなか理解してもらえないけど、どんな男だって一緒に暮らして時間が経てばだんだんおなじようなものになってくるんです。

岡田 そう。ただ、もちろんぼくはカッコして「オレ以外の男は」って言いますけど(笑)。

p.235 強調引用者

ああ、9人にも言ったんだろうなあ、とか

岡田 ひょっとしてモテる男って母親になれるんですかね?

内田 ですね。相手の幼児性を温かく許容することができる男。モテる男ってだいたいそうですよ。だって、相手の幼児性を厳しく批判してモテると思います?

岡田 おっしゃるとおり(笑)。本もそうで、読者の幼児性を批判してしまうと売れないですよね。

pp.236-237 強調引用者

この「おっしゃるとおり」というのは、どういう経験に基づいているのだろう、などと不埒な疑問でドキドキして夜も眠れなくなったことだけは、ここでお伝えしておく。

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