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オンライン興信所の「Checkr」

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現在米国では、雇用者の70%がバックグラウンドチェックを行っているそうだ。これはECサイトも例外ではなく、Uberのドライバーによるレイプ被害がインドとボストンで立て続けに起きた事件がクローズアップされるなど、採用時の前歴・身元調査は欠かせないものとなってきた。

しかし、身元調査はあまりIT化が進んでこなかった業界のひとつだ。そのため雇用者は「興信所に依頼」というようなアナログな手法に頼り、多くの時間やコストを費やす必要がある。

ここに商機を見いだし、前歴チェックの半自動化を売りに注目を集めているのが、今回ご紹介する「Checkr」だ。同サイトでは身元を調べたい仕事への応募者の簡単な情報をフォームに入れるだけの簡単な作業で、PDF1枚にまとめられた調査結果をおおよそ2日以内に受け取ることができ、その手続きの簡易さや報告書が送られるまでのスピーディーさが魅力となっている。

同サイトは2014年5月にサンフランシスコでロンチし、これまでに合計912万ドル(約11億円)の投資を獲得している。現在、全米の50州すべてとカナダ、英国でサービスを提供し、顧客はiCracked、Instacart、Homejoy、Doordashなど40社ほどで、LyftやUberとも商談中だという。

身元調査レポートはPDF20ページにも。これでは業務が止まってしまう!

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Checkrの共同創業者はDaniel Yanisse(以下ヤニス)氏。フランスの大学を卒業後、シリコンバレーでソフトウェアエンジニアとして数社で働いてきた人物だ。同氏はCheckrを創業する前には配送に対応していない小売店に代わって配送代行を行うサービス「Deliv」に1年ほど在籍していた。

Delivでは配送スタッフをクラウドソーシングしており、引っ越しや運搬業者といったプロのドライバーのみでなく、学生や主婦が担当することもある。さまざまな経歴・職種を持つ人々が入ってくることから、同サイトではドライバーの前歴チェックは欠かせなかった。

ところが犯罪歴や運転免許の履歴はデータベースで一発検索というわけにはいかず、それぞれ公的機関に当たって調べる必要がある。そのため専任の担当者を設けるか、興信所にでも依頼するしか手はない。

"調査会社から受け取る身元調査レポートはPDF20ページにもなるので読むだけでもひと苦労です。そのせいで、前歴チェックには多くの時間がかかっていました"
 - ヤニス氏

これは、あらゆる工程でIT化の進んだ企業活動に残された超アナログのボトルネックだ。前歴チェックをスムーズにするサービスには間違いなく需要があると考えたヤニス氏は同僚のJonathan Perichon(以下、ペリション)氏とアイディアを語り合い、2人で起業したこの問題を解決しうるサービスをはじめることになった。

重要なのは、企業の担当者が簡単な操作で依頼でき、答えが早く返ってきて、PDF1枚に内容が収まっていることだが、ヤニス氏らはともにソフトウェアエンジニアだったことから、必要なインターフェイスや情報処理の手順をこれまでの経験から導き出せた。

2014年5月に「Checkr」を起ち上げると、夏には早くもYコンビネーター・セッションに参加。多くのスタートアップを成功に導いてきたプレゼンの晴れ舞台で12万ドル(約1445万円)のシード投資を受けたことが名刺代わりになり、顧客獲得に役立った。

8月末にはYコンビネーターのデモでヤニス氏がオンライン支払いを簡単で安全なものにしたStripeを引き合いに出して「(我が社も)インターネットの安全層を目指します」と発表。これが投資会社Accel Partnersの心をとらえ、900万ドル(約10億8400万円)のシリーズA投資をもたらしたのだった。

必要事項を入力するだけで、1時間から数日でPDF1枚のレポートを返信

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Checkrの魅力は、テクノロジーでプロセスを効率化したことにより、これまであった興信所などの既存業者よりも迅速に調査レポートを提出してくれることにある。なお同サービスの利用はスタッフ採用、テナント審査、カーシェアリングなどにおける調査に限定されている。これはランダムな消費者のチェックなどの乱用を防ぐためだ。

同サイトがデータソースとして利用しているものは従来の業者などと同じもの。25ドル(約3000円)のスタンダードプランなら調べたい相手の「社会保障番号が有効か」「住所変更の履歴」「性犯罪者リスト」「テロリスト警戒リスト」「連邦犯罪記録検索」「ひとつの郡(カウンティ)での犯罪記録」の調査と報告を行ってくれる。

35ドル(約4200円)の「プロ」では、スタンダードプランに加えて過去7年間に居住していた全ての郡の検索も行ってくれる。米国でもお役所仕事は横の連携が弱いため、犯罪記録は郡ごとの管理で横断検索することができない。そのため応募者がこれまでに住んだ地域の記録をひとつひとつ当たっていく必要があるため、骨の折れる作業なのだ。

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その他調査項目ごとの個別依頼や項目の追加も可能。追加項目には「州の犯罪記録」「立ち退き命令を受けた記録」「運転免許の記録」があり、それぞれプラス5ドル(約600円)ほどで追加できるようだ。

企業や雇用者が同社に調査を依頼したい時には、上記の項目の中から自社に必要なものを選択するとよい。その後CheckrがWeb APIという仕組みを使ってその企業向けの入力フォームを作ってくれるので、あとは名前と社会保険番号(SSN)などを入力して送信すると、必要な項目を調べてくれるというしくみだ。

調査に要する時間は、内容にもよるが1時間から数日までで、平均しておおむね24時間以内にPDF1枚にまとめられたレポートが返ってくるという。なおレポートの中身は同サイトの説明動画では個人情報とレポート概要、住所変更の履歴、「社会保障番号」「性犯罪者リスト」「連邦犯罪記録」「郡の犯罪記録」の照合結果、運転免許の記録となっていた。

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このようなしくみにより、同サイトは既にInstacart、DoordashとShyp、Homejoyなどの人気サービスを含めた40もの企業をクライアントとして獲得している。同社の成功はシステムの効率性もさることながら、Yコンビネーター・セッションや投資会社Accel Partnersに認められたことも大きかったのではないだろうか。Accel PartnersのRich Wong氏の同サイトに対して、このような評価を行っている。

" 40億ドル(約4800億円)にもなる(身元調査の)市場にテクノロジーで挑むのは正しいアプローチです。我々が近ごろ投資している会社の70%は、ソフトウェアの力で非効率さや出費を削減している企業です。人間には見えないパターンを可視化する。それがビッグデータの力ですから"

また、今後Checkrは米国で信頼性の高い「ライブスキャンシステム」も自分たちのサービスに取り入れようと考えているようだ。

これは指紋認証を行ってFBIの犯罪履歴と照合するもので、教師やタクシ-ドライバー、医療従業者などの職業において利用されているが、高価であることや手続きの煩雑さ、結果が出るまでの時間などがネックだった。Checkrがこのシステムを効率化して提供できるようになれば、より多くの顧客を獲得することになるだろう。

ボトルネック解消効果への期待が高まる

ちょうど昨日、Roostという倉庫のシェアリングサービスを紹介したとき、シェアリングサービスには信頼性が欠かせないと述べた。

実際、今のところシェアリングサービスは安全なサービスとは言えないようだ。Uberのドライバーによるレイプ被害がインドとボストンで立て続けに起きたことが記憶に新しい。同じく急成長したAirbnbでも、利用客に物を盗まれたり、部屋が売春や乱交パーティに使われたりというトラブルが起きている。

Uberのレイプ事件のうち、ボストンのケースでは運転手に犯罪歴はなかったようだが、インドの方では、運転免許がなかったことが判明している。採用審査のずさんさが問われるところだが、逆に考えれば、急拡大で運転手の大量採用が必要になり、手間のかかる審査がないがしろになってしまったとも言える。

その点でCheckrのサービスは大きな可能性を秘めている。採用時の審査が手間なくスピーディにできるようになれば、Uberのようなオンデマンド型スタートアップが急成長によるトラブルを未然に防げ、結果として成長スピードをこれまでより上げられるようになるからだ。

信頼性についてはまだ未知数の部分もあるが、同サイトがこの業界に風穴を開けたのをきっかけに、どの部分をテクノロジーで効率化し、どの部分をより多くの時間を掛けて信頼性のある情報とするかという点も業界全体でブラッシュアップされていくのではないだろうか。

Checkr、信頼性が欠かせないシェアリングエコノミー銘柄のダークホースになるかもしれない。

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