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太平洋主要国の軍拡がもたらすもの - 岡崎研究所

米シンクタンクAEI(American Enterprise Institute)のオースリン上席研究員が、11月27日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に「太平洋諸国の軍拡」と題する論評で、太平洋地域で軍拡競争が行われているが、それは国際紛争への危険を増やすが、安定に資することもあり得る、と論じています。

 すなわち、豪海軍は11月、最大の軍艦を就役させた。アジアでは能力の高い海・空軍が活動する。これは国際紛争のリスクを高めるが、同時に地域の安定にも資する。

 中国の空母遼寧(5万トン)が注目されている。完全な運用までは時間がかかるが、中国のパワーの象徴であり、マラッカ海峡や尖閣諸島のような紛争で役割を果たすだろう。地域の諸国はこれに対抗する能力を持たず、米国のみがより大きな力を持つ。

 日本はこの状況を変えようとし、2013年、「出雲」を導入した。遼寧の半分のトン数で、ヘリ搭載型ではあるが、計画中の2隻の「出雲」は、改装すれば、短期間で垂直離着型F-35を搭載できる。日本も尖閣諸島周辺にパワー・プロジェクションし得ることになる。

 豪州の空母、「キャンベラ」も公式にはヘリ搭載空母であるが、F-35を搭載するように改装されうる。日米豪の防衛協力は深まってきて、最新の航空機と艦船を使う空・海作戦は見えてきている。

 中国軍の急激な近代化がこの引き金になっている。中国は3隻またはそれ以上の空母建設を計画し、Su-33に基づく戦闘機、ステルス性のJ-31(開発中)の搭載を考えている。米軍事専門家は中国の次世代戦闘機はF-15、F-18と同等であり得ると言う。

 米中が軍事面で均衡になるには何年もかかるが、地域の米国の同盟国は、中国の優位に早く取り組むことになる。日本は、オスプレイ、グローバル・ホーク無人機、早期警戒機を買う決定をしている。日豪は潜水艦で協力し、ベトナムはロシアから潜水艦を買い、インドネシアは韓国と協力して潜水艦を建造している。日本はベトナムとフィリピンに巡視船を供与している。

 これらすべてが中国に東・南シナ海で領土主張をどうしていくか、考えさせるかもしれない。今は地域の国からの脅威はないが、先進的武器が拡散すれば、事情は変わってくる。南沙諸島、尖閣諸島での緊張に鑑みれば、対決になることがあり得る。

 楽観的に考えれば、アジア諸国は防衛力の高まりで中国の野心に対抗する自信を持ち、中国はコストを考え、路線を変更することになる。そうなれば外交や政治の出番が来る。危険な対決より交渉が良いということになる。

 アジアで外交は今日、力を持っていない。しかし、海空での条件変化により、合理性が主流になり、平和的解決が花開くかもしれない、と論じています。

出典:Michael Auslin ‘Pacific Militaries Rising’(Wall Street Journal, November 27, 2014)
URL:http://online.wsj.com/articles/pacific-militaries-rising-1417110029

* * *

 オースリンは、この論説で、アジアでの軍拡の結果、衝突のコストを考え、中国も領土主張を平和的手段で行うように路線転換を行うことがあり得るとしています。オースリン自身も、楽観的に考えればと言っていますが、そういうことになる可能性はそれほど高くないと思われます。

 孫子の兵法では、戦わずして勝つのが最善とされています。中国はサラミ戦術でゆっくりと地歩を築く傾向があります。領土獲得については、目的を変えず、かつコストの高い衝突はできるだけ避け、相手の反発を見極めながら徐々に圧力を強めてくるように思われます。戦術的調整はしますが、路線転換はしない可能性が高く、戦術的調整を路線転換と勘違いしてはいけません。

 中国の領土拡張主義には、こちらも力で対応する準備をしていく必要があります。日米豪が協力していけば、まだそれは可能です。それがバランス・オブ・パワーによる平和につながります。不安定な平和にしかならないかもしれませんが、それしか方法はありません。

 中国が紛争のコストを考え、路線を変えるのであれば、よく見極めてこちらも対応を変えればよいわけです。国際法秩序を守ること、拡張主義はやめることを要求し、さらには軍拡競争に歯止めをかける軍備管理提案をすることなど、知恵はいくらでも出せるでしょう。

 世界の歴史で比較的長期に平和が保たれたのは、勢力均衡による平和(ウィーン会議後の欧州)、核による相互抑止による平和、覇権国の圧倒的武力による平和(パックス・ロマーナや戦後直後のパクス・アメリカーナ)くらいしかなく、これからのアジアの平和は、勢力均衡による平和しかないのではないかと考えます。

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