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近藤誠氏は対談を持ちかける前に論文を書くべきだ

産経ニュースに、近藤誠氏の子宮頸癌についての週刊誌記事、およびその記事に対する産婦人科医たちの反論についての記事が掲載された。

■【日本の議論】「病院は金のためなら平気で子宮を奪う」異端医師・近藤誠氏の週刊誌記事に「産科婦人科学会」怒り心頭(1/4ページ) - 産経ニュース

産経ニュースで言及された産婦人科医たちの反論はウェブ上でも読めるため、リンクしておく。

■大阪大学医学部産婦人科 |患者様へのご案内

■週刊誌がひどい|宋美玄オフィシャルブログ「~オンナの健康ラボ~」Powered by Ameba


本エントリーは、近藤誠氏の子宮頸癌に関する主張が誤っていることを理解している読者が対象である。詳細は上記リンク先を参照していただきたい。ご質問がある方はコメント欄でリンクしていただけたら回答する用意がある。

本エントリーの趣旨は、間違った主張に対する対応策についてである。産経ニュースによれば、近藤誠氏は批判に対し、「対談を持ちかけよう」としている。

 こうした批判の声に対し、近藤氏はどう答えるのか。産経新聞の取材に対し、近藤氏は「関心をもっていただき、ありがとうございます。光栄です。ただ、現在、某誌に木村氏との対談を持ちかけようと考えておりますので、現時点でコメントすることは控えさせていただきます」とメールで回答を寄せた。

宋美玄先生のところにも対談話が持ちかけられたそうである*1。子宮頸癌とは別件であるが、やはり近藤誠氏に批判的な本を出版した長尾和宏医師に対しても、「長尾先生、対談で決着を!」と近藤誠氏は対談を持ちかけている*2

医学的、あるいは科学的な論点について専門家同士で意見が対立した場合、議論を戦わせる場は学会や専門誌が通常である。マスメディアの設ける場での対談というのはほとんどない。なぜ近藤誠氏は、自説を論文等で学会で発表せず、対談しようとするのであろうか。

近藤誠氏が本当に自説が正しいと信じ、患者さんを助けたいと思っているのであれば、日本だけではなく世界中の専門家相手に情報を発信するべきではないのか。しかし、近藤誠氏は、専門家相手に自説が通用しないことを承知しているものと思われる。だから対談にこだわるのではないか。

専門家相手には通用しなくても、非専門家を聴衆とし、時間制限のある対談では、医学的に根拠のない主張も通りやすい。たとえば、2014年6月29日に放送された、<BSフジサンデースペシャル>『ニッポンの選択』「がんを放置する医師 vs がんを手術する医師」というテレビ番組において、近藤誠氏は出典が間違っている上に、不適切な比較を行った図を提示した(■近藤誠氏による乳がんの生存曲線のインチキを解説してみる)。専門誌に投稿したら掲載される前に誤りを指摘されるであろうが、対談の場で即座に図の誤りを指摘するのは困難である。

視聴者は必ずしも医学的事実を吟味するのではなく、印象に引っ張られることもある。「がんを手術する医師」として、テレビ番組に出演した藤田保健衛生大学病院の消化器外科教授・宇山一朗医師は最善を尽くしたと思う。近藤誠氏のデタラメな主張に対し、感情的にならず冷静に、誠実に対応した。医学的には宇山医師のほうが圧倒的に正しい。しかし、「引き分け」に見えた視聴者も多くいただろう。

視聴者が見るのは、中立な司会者と、二人の「専門家」である。実際には近藤誠氏の主張に批判的な専門家がほとんどなのだが、視聴者には見えない。デタラメでも自信を持って「専門家」が断言すれば信用してしまう視聴者もいる。こうしたことを考えると、対談という方法は近藤誠氏が主張するような間違った言説に対する対応策としてはあまりよろしくないと思われる。

どこかでこうした議論を聞いたような覚えがあったが、創造論に対する進化生物学者たちの対応であった。アメリカ合衆国を中心に、宗教的な理由を背景に進化論を否定し創造論を推奨する勢力が存在する。創造論者の主張は専門家相手には通用しない。そのため、創造論者たちは学会や専門誌では自説を主張しない。一般書や、あるいは「公開討論」に主張の場を求める。

進化生物学者であるリチャード・ドーキンスと、同じく進化生物学者であるスティーヴン・ジェイ・グールドとの間の書簡が『悪魔に仕える牧師』に収録されている。両者ともに創造論者からの対談を要求されていた。以下は、ドーキンスからグールドに送られた手紙である。


■悪魔に仕える牧師 リチャード・ドーキンス (著), 垂水 雄二 (翻訳)

私たちは、たえず創造論者との公開討論にかかわるよう勧誘されます。そのなかには、婉曲な「インテリジェント・デザイン理論家」という名で仮装した現代の創造論者も含まれます。私たちはつねに、一つの決定的な理由のゆえに拒否します。もしその理由を公に述べることが許されれば、私たちの手紙は、同じように勧誘に悩まされている他の進化科学者にとって役に立つのではないかと期待しています。

そのような討論会で誰が「勝つ」のかという疑問は問題ではありません。勝利は、そうした人々がほんとうに望んでいることではないのです。彼らが求めている”大当たり”は、まず何より、本物の科学者と同じ演壇に立つことが許されるという認知にほかならないのです。このことは、何も知らない傍観者に、そこに、対等の条件のもとで論争することに真に値する材料があるに違いないと思わせることになるでしょう。(P387)

ドーキンスとグールドは、公開討論の内容がどうであれ、公開討論が行われたという事実が「自分勝手な宣伝や労せずして学問的な体面を得ようとする恥知らずな探求」を利するがゆえに公開討論を拒否している。論争そのものを拒否しているわけではない。ドーキンスは、創造論者から意義のある主張が提起されれば喜んで論争に応じる、とも書いている。それは公開討論でなくても可能である。「対談で決着を」と提案するのは科学者の態度ではない。

非専門家への情報提供は必要だ。それはグールドやドーキンスがやったように本を通じてか、現代なら木村正教授や宋美玄先生がやったようにブログを通じた情報発信でもいいだろう。

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