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国・自治体による殺人すすめる日本、脱貧困で凍死防ぐフランスとイギリス-渋谷区ホームレス締め出し

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毎日新聞の記事「東京・渋谷区:宮下公園など3日まで閉鎖 ホームレス締め出し」です。
東京都渋谷区が、宮下公園(渋谷区神宮前)など渋谷駅周辺の区立公園3カ所を26日から来年の1月3日まで終日閉鎖している。ホームレスやその支援団体が公園内での炊き出しや宿泊などで使用しないよう区側が先手を打った格好だが、支援団体側は強く反発している。(中略)ホームレスなど社会的弱者への支援を手がける認定NPO法人もやい(東京都)の大西連理事長は「本来は公的機関が提供すべきセーフティーネットを民間が担っている側面もある。公共空間での煮炊きは法令上『グレーゾーン』とも言えるが、一般市民の立ち入りも禁じた渋谷区の強硬な対応には突出感を禁じ得ない」と苦言を呈す。都市公園などを所管する国土交通省公園緑地・景観課は「そうした例は聞いたことがないが、各自治体の判断に国として言うことはない」としている。宮下公園などでホームレスを支援してきた団体のメンバーは「貧困で行くところがない人々を追い出すのは人権無視」と区を批判、支援活動が円滑にできるよう公園の開放を求めている。
【出典:毎日新聞12/27付「東京・渋谷区:宮下公園など3日まで閉鎖 ホームレス締め出し」

この事態は、都留民子県立広島大学教授の言葉をかりれば、国と自治体による殺人が行われているということだと思います。たとえば、フランスでは、普通の賃貸物件で家賃を滞納していても、冬の間は凍死するなど生命にかかわることになるから追い出してはならない、という法律がありますし、私が企画・編集した唐鎌直義立命館大学教授のインタビューの中でも次のようにイギリスの政策が紹介されています。

 

低所得者向けの家賃補助制度があるイギリス

 イギリスには低所得者向けの家賃補助制度があります。「ハウジング・ベネフィット」(住宅給付)と言いますが、これは1966年に「家賃割戻し制度」としてスタートしました。

 それまでは日本と同じように、生活保護受給者だけに住宅扶助を支給していました。それを止めて、対象をもっと広げたのです。なぜかというと、被保護者に限定された住宅扶助では逆転現象を招いて、保護を受けていない人の生活が悪くなって、対立関係の温床になってしまうからです。それで低所得者に広げていったのです。

 現在は、全世帯の2割ほどがこのハウジング・ベネフィットを受けています。生活保護受給の場合には家賃の100%、それ以外の低所得者には家賃の8割から9割を地方自治体が支給しています。もちろん地方自治体に対しては国が補助しています。家賃の8割を1年間保障されると、月5万円だったとしても年間60万円になる。この制度はイギリスでは所得保障に分類されています。住宅保障という名目ではなくて、所得保障制度の中でやっているところがすばらしいですね。

 

『ハリー・ポッター』はイギリスの生活保護のおかげ

――一人ひとりの国民の潜在能力が生かされないという点で、日本では『ハリー・ポッター』の作者は生まれないということも唐鎌先生は指摘されていますね。
J.K.ローリングさんは離婚母子家庭で、生活保護(イギリスの所得援助)をもらいながら毎日喫茶店に行って、いつも2階の窓側の決まった席で『ハリー・ポッターと賢者の石』を書き続けたわけですね。イギリスだから可能だったのだと思います。日本だったら、母子世帯で30代の母親だったら真っ先に就労支援の対象になります。「毎日、就活しなさい」「月給5万円でも働いた方がマシです」ということになります。

 そして、J.K.ローリングさんは、女性高額納税者の世界ナンバー2にまでなったわけです。イギリス政府は多額の税金をそこから取れたわけで、年間たかだか150万円くらいの生活保護費を出したおかげで、数十億円の税金を取り戻せた。エビでタイを釣るどころの話ではないですよね。そういう機会が、イギリスのように稼働能力者(若者)も受けられる生活保護にしておくと、増えるわけですね。

 最近、イギリスでベストセラーになっている『ボブという名のストリートキャット』という本を読みました。小さいときに両親が離婚し、不幸な生い立ちを背負った薬物中毒のストリートミュージシャンが、ある日、怪我をした雄の野良猫(茶トラ)を助け、ボブと名づけたその愛猫を精神的な支えとして、生活保護制度や住宅給付制度に経済的に支えられながら、薬物中毒から抜け出していくというストーリーの実話本なのです。

 ここでもやはりイギリスの福祉が大きな役割を果たした結果、一人のベストセラー作家が誕生したわけですね。ホームレスを支援する『ビッグイッシュ―』活動の実際面もわかって、非常に面白い本です。
 こうした華々しい成功例は一部かもしれませんが、もっと小さなレベルで、普通の仕事に就いた人もたくさんいるわけです。そこはやはり福祉の果たす役割になっているわけですね。

 

国が生活保護費を100%負担

イギリスの生活保護は国が100%負担しています。日本も、もともと国が8割負担していたのですが、80年代にそれを7割に下げたのです。それに対して地方自治体から不満が噴出して今の75%に戻したのです。75%にしてから20年くらい経過していますが、あと10%国が負担すれば、自治体はかなり負担が軽くなり、給付しやすくなるのですが。本来は自治体の財政に影響がないように、国が全額生活保護の財政を負担すべきです。自治体財政に縛られる現状では消極的にならざるを得ないし、生活保護を積極的に出すケースワーカー自身が周囲から疎まれてしまいます。
 

冬期の暖房手当も

この他、イギリスには冬期の暖房手当もあります。低所得者を対象に、生活保護制度が3種類(所得援助、就労家族給付、求職者手当の所得ベース給付)と低年金の高齢者を対象にした年金税額控除があるので、全体では4種類になります。それらの受給者に対して、11月1日から寒冷気候手当(Cold Weather Payment)が毎週支給されます。貧困者が凍える思いをしないように、そういう仕組みがあるのですね。『ボブという名のストリートキャット』の中でも、これを受けられているから、冬の寒い日でも安心と書かれています。

 それ以外に「冬期燃料手当」(Winter Fuel Payment)という高齢者専用の制度もあって、61歳以上の高齢者(具体的には、2013年度は1952年1月5日以前に生まれた人)を対象に、燃料費として一律に100ポンド(約1万7,000円)が支給されます。80歳以上になると2倍の200ポンド(約3万4,000円)になります。これは「61歳以上の高齢者全員にオートマティカリーに支給する」自動的給付なのです。「どんなに支給が遅れても、12月25日までには必ず支給しなければならない」と書かれています。クリスマス給付の意味があるのでしょうね。

 ようするに、高齢者にはこの冬期燃料手当が11月1日から一括支給され、低所得の高齢者には寒冷気候手当が毎週支給されるということになっています。ですから、高齢者が寒さで大変だということはないのです。こういう制度も所得保障制度としてきちんと準備されているのです。昔は15歳未満の子どものいる世帯にも、この冬期燃料手当が支給されていたのですが、最近はなくなったようですので、イギリスも悪くなっている面はありますね。

 私は、日本には「夏期冷房手当」をつくるべきだと主張しています。昨年夏に、高齢者がたくさん熱中症で亡くなりましたね。その時に夏期冷房手当が必要だと思いました。猛暑で人が死ぬのですから、冷房が嫌いというようなレベルの問題ではなく、やはり年金が低く電気代が高いから、冷房が使えないというところに一番大きな問題があるという点を見ないといけないのではないでしょうか。
【唐鎌直義立命館大学教授談】

 ――12月25日までには必ず“クリスマス給付”として、貧困者が凍える思いをしないよう手当が支給されるイギリスと、12月26日に民間団体のセーフティーネットさえも切り裂く日本の国・自治体。そして、国家による殺人をさらに強める生活保護バッシング。以下は以前ブログで紹介した都留民子県立広島大学教授の指摘です。
 

国家による殺人をさらに強める生活保護バッシング

日本は異常で過剰な家族の相互依存関係の状態に落とし込まれ、家族もろとも貧困の淵に沈められる社会にされてしまっている貧困こそ問題とすべきです。

 私は東日本大震災の被災地である東北3県を「福祉特区」にすべきだと思っています。東北3件で160万人。日本の全人口の4.4%です。たとえ東北のすべての人に生活保護を支給しても4.4%ですから、今の日本の生活保護利用率1.6%とあわせてもたった6%に過ぎません。フランスは各種生活保護制度の利用率は9.8%です。フランスは日本の生活保護の6倍以上も支給しているのです。イギリスは24%で日本の15倍です。日本の生活保護の利用率が異常に低いことこそ問題なのです。

 フランスは日本の半分の人口・世帯数ですが、フランスの各種生活保護を受給している世帯数は2010年で328万7,910世帯です。日本の生活保護の受給者が209万人を超えたから増えすぎだなどといった生活保護バッシングがありますが、まったくあべこべで生活保護の受給者が少なすぎて、フランスの2倍もの貧困率となっていることこそが大きな社会問題なのです。

 貧困とは「勤労者が生み出した富が、不平等に分配・再分配され、人間の尊厳を奪われた生活を余儀なくされた状況」です。貧困とはこのただ一点のみが問題なのです。障がい者や母子世帯、失業者、ホームレスなど、「多様な貧困」があるなどと言われますが、それぞれの階層に、私たち働くものが生み出した富がきちんと分配されていないから、それぞれの階層が貧困状態にされてしまうという一点のみが問題なのです。社会保障は「国からのお恵み」などではなく、私たち働くものが生み出した富をきちんと自分たちのために取り返すというだけの話です。社会保障は「貧民へのお恵み」「貧民救済」などではなく、労働者の「権利」なのです。

 人間はそれぞれみんな違った状況に置かれているわけですから、それぞれの貧困の具体的な状況が違うのは当たり前です。しかし本質は「多様な貧困」にあるのではなく、「働くものの大衆的な貧困」にあり、障がい者は「障がいのある労働者」、高齢者は「高齢期の労働者」、母子世帯の母親は「生活と子育てを一身に担う母親労働者」、失業者は「雇用を剥奪された、あるいは不安定就労を余儀なくされた労働者」、ホームレスの人々は「住宅を喪失した失業者・不安定就業者」なのです。

 日本で続発し社会問題にもなっている「孤独死」は、ただ孤独の中で死んでいっているということではありません。生活保護バッシングなどを煽り、貧困を利用して安上がりの労働力を常に確保しようとし続けている「国家による殺人」なのです。
【都留民子県立広島大学教授談、文責=井上伸】

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★「命に関わる」渋谷炊き出し決行 公園使えず歩道脇で(東京新聞12/30)

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国公一般執行委員 井上伸

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