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- 2014年12月29日 22:07
2014年の政治思想
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年の瀬ですので,一昨年・昨年と同様,政治思想書の収穫を振り返ります.今年も内容に踏み込んだ紹介をする余裕がありませんので,備忘として研究の動向をメモしたものだとご了解ください.
なお偶然来訪された初学者の方などのために一言しますが,どういう研究が刊行されているかをきちんと知るには,学会誌の書評欄などにあたるのが確実です.刊行されてから学会誌に書評・紹介が載るまでにはタイムラグがあるものの,政治思想分野の主要な研究は,日本政治学会『年報政治学』(「学界展望」では論文も紹介),日本政治思想学会『政治思想研究』,社会思想史学会『社会思想史研究』の書評欄を眺めれば知ることができます.また,法学に関係する研究であれば『法律時報』毎年12月号の学界回顧で採り上げられることがありますし,人文・思想書は月曜社のブログで詳しく紹介されています.東京財団の政治外交検証プロジェクトは,政治外交史・国際関係を中心にしながらも,政治学・社会科学の幅広い新刊図書リストを作成・公開しています.
さて,以下便宜的に10点を挙げながら,関連する書籍に触れていきます.
今年最大のトピックは,この分野で初となる講座が発刊・完結したことでしょう(詳細目次はこちらから).昨年のこの企画記事で,テキスト類の充実化を指して「この分野の基礎がさらに厚みを増す」と書きましたが,本講座に凝縮されている研究蓄積を乗り越えていくのも大変そうです(完結記念シンポジウムでは,何年後かに同じ講座を新しく出すことへの希望も聞かれました).
基礎の厚みということで言えば,主だった思想家の概説+主著の抜粋から成る,杉田敦/川崎修 (編) 『西洋政治思想資料集』法政大学出版局が出版されたことも大きいでしょう.ほかに,上記講座とほぼ同じ時期を扱った単著通史として,坂本達哉『社会思想の歴史――マキアヴェリからロールズまで』名古屋大学出版会を見逃せません.古典の邦訳として,ホッブズ『ビヒモス』山田園子 (訳), 岩波書店(岩波文庫)が初めて出版されたこともニュースでした.レオ・シュトラウス『政治哲学とは何であるのか? とその他の諸研究』飯島昇蔵ほか (訳), 早稲田大学出版部もここで挙げておきます.
上記講座にも寄稿している著者による博論の書籍化です.18世紀フランスを扱っていますが,統治が直面する諸問題という観点において,現代にひきつけて読むことができるかと思います.
啓蒙つながりで言えば田中秀夫先生が昨年に引き続きご活躍で,田中秀夫『スコットランド啓蒙とは何か――近代社会の原理』ミネルヴァ書房に加え,大部の編著,田中秀夫 (編) 『野蛮と啓蒙――経済思想史からの接近』京都大学学術出版会を出されています.
欧米思想史ではほかに,柴田平三郎『トマス・アクィナスの政治思想』岩波書店,宇羽野明子『政治的寛容』有斐閣,原田健二朗『ケンブリッジ・プラトン主義――神学と政治の連関』創文社,桑田学『経済的思考の転回――世紀転換期の科学と統治をめぐる知の系譜』以文社などが目立った研究書でしょうか.論文集では,行安茂 (編) 『イギリス理想主義の展開と河合栄治郎――日本イギリス理想主義学会設立10周年記念論集』世界思想社が目を引きます.
日本政治思想で一冊挙げるとすれば本書でしょう.やはり博論の書籍化ですが,著者は大学院の先輩でもあることから,合評会を開催させて頂きました.本書でもやはり統治が大きなテーマになっており,山陽の思想を通じて政治への反省を迫られるという意味で,現代との接続が可能です.
ほかに,論争の歴史に注目した河野有理 (編) 『近代日本政治思想史――荻生徂徠から網野善彦まで』ナカニシヤ出版が話題を集めました.矢内原事件が当事者にどう見えていたかを検証した将基面貴巳 『言論抑圧――矢内原事件の構図』中央公論新社(中公新書)は,読み物としても面白く,しかし独特の感慨を残します.他の研究書として(政治史と言うべきでしょうが),佐藤健太郎『「平等」理念と政治――大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』吉田書店があります.
政治理論分野での最大のトピックは(上記講座を抜きにすれば)本書刊行でしょう.経済学や社会学,思想史,あるいは経験的な政治分析など,隣接分野からの多角的な視点によって政治理論のあり方について検討が加えられています.日本政治学会での関連セッションも盛況でした.私の専攻分野でもありますので,可能ならそのうち感想を書きたいと思います.
既発表の論文が中心ではありますが,森政稔『〈政治的なもの〉の遍歴と帰結――新自由主義以後の「政治理論」のために』青土社が出版されたのも大きなニュースでした(こちらも検討したいと思いつつ果たせずにいますので,そのうちに).趣の違うところでは,吉田徹『感情の政治学』講談社(講談社選書メチエ)を挙げられます.感情への注目は色々な分野で今まさに開拓されているさなかのテーマですので,今後の議論の先駆けになる一冊かなと思います.
ほかに,翻訳で著名なものが幾つか出ています.キャロル・ペイトマン『秩序を乱す女たち? ――政治理論とフェミニズム』山田竜作 (訳), 法政大学出版局,マイケル・ウォルツァー『解釈としての社会批判』大川正彦/川本隆史 (訳), 筑摩書房(ちくま学芸文庫),アイリス・マリオン・ヤング『正義への責任』岡野八代/池田直子 (訳), 岩波書店,スティーヴン・マシード『リベラルな徳――公共哲学としてのリベラリズムへ』小川仁志 (訳), 風行社,ロナルド・ドゥオーキン『神なき宗教――「自由」と「平等」をいかに守るか』森村進 (訳), 筑摩書房,ユルゲン・ハーバーマスほか『公共圏に挑戦する宗教――ポスト世俗時代における共棲のために』箱田徹/金城美幸 (訳), 岩波書店,エルネスト・ラクラウ 『現代革命の新たな考察』山本圭 (訳), 法政大学出版局など.
なお偶然来訪された初学者の方などのために一言しますが,どういう研究が刊行されているかをきちんと知るには,学会誌の書評欄などにあたるのが確実です.刊行されてから学会誌に書評・紹介が載るまでにはタイムラグがあるものの,政治思想分野の主要な研究は,日本政治学会『年報政治学』(「学界展望」では論文も紹介),日本政治思想学会『政治思想研究』,社会思想史学会『社会思想史研究』の書評欄を眺めれば知ることができます.また,法学に関係する研究であれば『法律時報』毎年12月号の学界回顧で採り上げられることがありますし,人文・思想書は月曜社のブログで詳しく紹介されています.東京財団の政治外交検証プロジェクトは,政治外交史・国際関係を中心にしながらも,政治学・社会科学の幅広い新刊図書リストを作成・公開しています.
さて,以下便宜的に10点を挙げながら,関連する書籍に触れていきます.
今年最大のトピックは,この分野で初となる講座が発刊・完結したことでしょう(詳細目次はこちらから).昨年のこの企画記事で,テキスト類の充実化を指して「この分野の基礎がさらに厚みを増す」と書きましたが,本講座に凝縮されている研究蓄積を乗り越えていくのも大変そうです(完結記念シンポジウムでは,何年後かに同じ講座を新しく出すことへの希望も聞かれました).
基礎の厚みということで言えば,主だった思想家の概説+主著の抜粋から成る,杉田敦/川崎修 (編) 『西洋政治思想資料集』法政大学出版局が出版されたことも大きいでしょう.ほかに,上記講座とほぼ同じ時期を扱った単著通史として,坂本達哉『社会思想の歴史――マキアヴェリからロールズまで』名古屋大学出版会を見逃せません.古典の邦訳として,ホッブズ『ビヒモス』山田園子 (訳), 岩波書店(岩波文庫)が初めて出版されたこともニュースでした.レオ・シュトラウス『政治哲学とは何であるのか? とその他の諸研究』飯島昇蔵ほか (訳), 早稲田大学出版部もここで挙げておきます.
- (2)安藤裕介 『商業・専制・世論――フランス啓蒙の「政治経済学」と統治原理の転換』創文社. リンク先を見る
上記講座にも寄稿している著者による博論の書籍化です.18世紀フランスを扱っていますが,統治が直面する諸問題という観点において,現代にひきつけて読むことができるかと思います.
啓蒙つながりで言えば田中秀夫先生が昨年に引き続きご活躍で,田中秀夫『スコットランド啓蒙とは何か――近代社会の原理』ミネルヴァ書房に加え,大部の編著,田中秀夫 (編) 『野蛮と啓蒙――経済思想史からの接近』京都大学学術出版会を出されています.
欧米思想史ではほかに,柴田平三郎『トマス・アクィナスの政治思想』岩波書店,宇羽野明子『政治的寛容』有斐閣,原田健二朗『ケンブリッジ・プラトン主義――神学と政治の連関』創文社,桑田学『経済的思考の転回――世紀転換期の科学と統治をめぐる知の系譜』以文社などが目立った研究書でしょうか.論文集では,行安茂 (編) 『イギリス理想主義の展開と河合栄治郎――日本イギリス理想主義学会設立10周年記念論集』世界思想社が目を引きます.
- (3)濱野靖一郎『頼山陽の思想――日本における政治学の誕生』東京大学出版会. リンク先を見る
日本政治思想で一冊挙げるとすれば本書でしょう.やはり博論の書籍化ですが,著者は大学院の先輩でもあることから,合評会を開催させて頂きました.本書でもやはり統治が大きなテーマになっており,山陽の思想を通じて政治への反省を迫られるという意味で,現代との接続が可能です.
ほかに,論争の歴史に注目した河野有理 (編) 『近代日本政治思想史――荻生徂徠から網野善彦まで』ナカニシヤ出版が話題を集めました.矢内原事件が当事者にどう見えていたかを検証した将基面貴巳 『言論抑圧――矢内原事件の構図』中央公論新社(中公新書)は,読み物としても面白く,しかし独特の感慨を残します.他の研究書として(政治史と言うべきでしょうが),佐藤健太郎『「平等」理念と政治――大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』吉田書店があります.
政治理論分野での最大のトピックは(上記講座を抜きにすれば)本書刊行でしょう.経済学や社会学,思想史,あるいは経験的な政治分析など,隣接分野からの多角的な視点によって政治理論のあり方について検討が加えられています.日本政治学会での関連セッションも盛況でした.私の専攻分野でもありますので,可能ならそのうち感想を書きたいと思います.
既発表の論文が中心ではありますが,森政稔『〈政治的なもの〉の遍歴と帰結――新自由主義以後の「政治理論」のために』青土社が出版されたのも大きなニュースでした(こちらも検討したいと思いつつ果たせずにいますので,そのうちに).趣の違うところでは,吉田徹『感情の政治学』講談社(講談社選書メチエ)を挙げられます.感情への注目は色々な分野で今まさに開拓されているさなかのテーマですので,今後の議論の先駆けになる一冊かなと思います.
ほかに,翻訳で著名なものが幾つか出ています.キャロル・ペイトマン『秩序を乱す女たち? ――政治理論とフェミニズム』山田竜作 (訳), 法政大学出版局,マイケル・ウォルツァー『解釈としての社会批判』大川正彦/川本隆史 (訳), 筑摩書房(ちくま学芸文庫),アイリス・マリオン・ヤング『正義への責任』岡野八代/池田直子 (訳), 岩波書店,スティーヴン・マシード『リベラルな徳――公共哲学としてのリベラリズムへ』小川仁志 (訳), 風行社,ロナルド・ドゥオーキン『神なき宗教――「自由」と「平等」をいかに守るか』森村進 (訳), 筑摩書房,ユルゲン・ハーバーマスほか『公共圏に挑戦する宗教――ポスト世俗時代における共棲のために』箱田徹/金城美幸 (訳), 岩波書店,エルネスト・ラクラウ 『現代革命の新たな考察』山本圭 (訳), 法政大学出版局など.



