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ナショナリズムと民主主義:世界史からみた2014年(中)

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しかし、欧米諸国との関係が資源収入の流出や政権中枢との汚職といった負の影響をも誘発したことは、1999年に「強いロシア」を掲げるプーチン大統領の登場を促す一因となったのです。

ロシアの反欧米感情は、昨日今日のものではありません。それは近代以降、「洗練された西欧」から科学技術や思想を受け入れながらも、往々にしてその「狡猾さ」に「してやられ」てきたことへの劣等感の裏返しとして発達した「素朴なロシア」の道徳的優越感を大きな背景としました。

ロシアの文豪レフ・トルストイは、その大著『戦争と平和』(1869)において、ナポレオン率いるフランス軍が接近するなかでのロシア軍の敗走、そしてその後のフランス軍の敗走を、個々の登場人物たちの言動を精緻に描く中で、これらの出来事が合理的に計画立てて行われたわけでないことを描写しました。つまり、トルストイの一つのメッセージは、「西欧で重視される合理的、理性的な判断がいかに当てにならないか」でした。

この考え方を発展させると、何かの出来事が発生した原因に関する合理的説明も、人間の合理性をもって社会を構築するという発想も、それらがいかに理論的に精緻であったとしても、全くナンセンスなものとなります。ここに、(ロシア帝国の植民地だったラトビア出身の)英国の政治哲学者アイザイア・バーリンは、合理性、人間の理性、物質的進歩の価値を重視する西欧を批判・拒絶し、これらに対して純朴な農村的美徳が優越すると捉える、反知性主義、スラブ主義の影響を見出しています。「(トルストイは)合理的手段、つまり良い法の施行や科学知識の普及によって社会を向上させることに対して、…嘲弄的でほとんど冷笑的な不信の念を抱いている」(『ハリネズミと狐』, 1997, 岩波書店, p.109.)。

「普遍」に対する反動としての「特殊」

この観点から現代を振り返ったとき、1990年代の経済的に疲弊していたロシアで、市場経済化の大義のもと、天然資源に欧米企業が群がる状況は、確かに「合理的な判断」によるものだったでしょうが、同時にそれに対する軽蔑をロシアに生んだとしても、不思議ではありません(経営状態の思わしくない会社の足元を見て買収するファンド会社は、それが合理的判断に基づいているとしても「ハゲタカ」と呼ばれますが、それと同じです)。そして、やはり欧米諸国が人権保護を強調してコソボ内戦に介入(1999)し、結果的に「民主的な」住民投票でコソボを(ロシアと友好関係の深い)セルビアから独立させたことは、合理的な価値観で世界を構築する取り組みに対するロシアの懐疑を、さらに増幅させたと捉えることに、無理はありません。

この背景のもとでプーチン大統領が就任して以来、ロシアでは知事選挙の取りやめと中央からの知事派遣が実施されるようになるなど中央集権化が進んだ一方、チェチェンなどのムスリムや同性愛者などに対する弾圧は強化されてきました。さらに、新興財閥オリガルヒが相次いで逮捕されてその資産が国有化された他、プーチン政権の暗部を追求していたジャーナリストが相次いで不審な死を遂げるなど、ロシア政府の強権化は明らかです(六辻彰二, 2011, 『世界の独裁者』, 幻冬舎)。しかし、(少なくとも最近の原油価格下落までは)好調な資源輸出による経済成長を背景に、「強いロシア」を標榜するプーチン大統領に対する支持率は総じて60パーセントを超える水準で推移してきました。つまり、欧米諸国が民主主義をグローバルな価値観として唱道すればするほど、ロシアではナショナリズムが高まりやすくなり、それがプーチン大統領への支持に繋がるという、相乗効果が生まれてきたといえるでしょう。

今年初旬からのウクライナでの政変でも、同様の構図はみられました。ウクライナを含む旧ソ連圏は、いわばロシアにとって「裏庭」でしたが、ここに西欧諸国は昨年、EU加盟を視野に入れたパートナーシップ協定を持ち掛けたのです。いわばウクライナが東西の陣取り合戦の場になったわけです。ロシアは買収、威嚇をもって、ウクライナ政府にEU加盟の道をあきらめさせましたが、これに対して親欧米派の抗議デモがエスカレートし、2月22日に親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領は亡命しました。ところが、首都キエフが無政府状態に近づいていた2月11日、米国議会下院は既に、「民主主義に基づき、外国の影響下から抜け出し、独立を達成しようとする抗議デモを支持する」決議を採択していました。

ここで重要なことは、繰り返

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