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ナショナリズムと民主主義:世界史からみた2014年(中)

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また、その際にはロシア正教会が中心のロシアとの対比から、カトリック教会が反ロシア・ナショナリズムのシンボルともなりました。

「自分たちを支配する他者」への拒絶からナショナリズムが鼓舞され、その延長線上に「自分たちを支配する他者」と対極にある欧米諸国やその民主主義に親近感をもつ構図は、同様にロシアと距離を置こうとするウクライナの親欧米派市民や、やはり民主的と言い難い大陸中国と自らを差別化するナショナリズムが民主主義の背景となった香港の「雨傘革命」にも共通するといえます。

その一方で、ナショナリズムを背景とする民主主義は、新たな支配関係も生むことにもなりました。例えば、かつてソ連の一部だったラトビアでは、人口の約27パーセントをロシア人が占めます。独立後、人口で過半数を占めるラトビア人はラトビア語を公用語に定め、非ラトビア人は国籍取得にラトビア語試験が課されるため、ロシア系の無国籍者も多数います。2012年、ロシア語を第二公用語にするかを問う国民投票は、人口規模をほぼ反映して、約75パーセントの反対が25パーセントの賛成を上回りました。多くのラトビア人に、かつて支配されたことに由来する反ロシア感情があることは確かですが、これは同時にナショナリズムを背景とする民主主義が文化的な違いを数の力で抑圧しがちなことを改めて示したといえるでしょう。

民主主義の強要に対する反発

一方、欧米諸国による民主主義の強要は、反欧米的な意味でのナショナリズムを鼓舞する場合もありました。

冷戦終結後の欧米諸国は、戦略性に基づいた援助を行っていた冷戦期から一転して、多くの開発途上国に民主化と人権保護を求めるようになりました。これに反した場合、その国は制裁の対象にすらなりました。1989年の天安門事件と、その後の中国に対する各国の援助停止は、その転機だったといえます。この背景のもと、特に援助への依存度が高い国ほど、相次いで民主化に転じたことは、不思議ではありません。例えばアフリカでは、複数政党制を導入していた国は、冷戦終結の1989年には8ヵ国に過ぎませんでしたが、1995年には35ヵ国にまで増加しました。

ただし、「普遍」の強制が「特殊」からの反動を招きやすいことは、「革命の理念」を掲げたナポレオンに占領されたドイツ、イタリア、スペインでナショナリズムが高まったことに象徴されます。民主主義や人権が普遍的な価値をもつとしても、「これが正しいもの、よいものだ」と外部から強制されれば、反発を招きやすくなることもまた確かです。多くの開発途上国にとって、民主主義に普遍的な価値を認めることで、どの国もそれを受け入れるべきと主張し、場合によっては各国の内政に干渉する欧米諸国のスタンスが、植民地時代の歴史を思い起こさせたとしても、不思議ではありません。

19世紀、列強は「文明化」のレトリックで植民地支配を正当化しました。要約すれば、「植民地支配は正しい行いである。なぜなら、アジアやアフリカの『野蛮』で『未開』な連中を『文明化』することが、われわれ文明人の責務であり、その支配のもとで彼らは初めて『文明化』できるのだから」。普遍的な価値を掲げ、それを「相手のため」と強要する宣教師のようなスタンスにおいて、19世紀に文明化を唱道した列強と、20世紀末から民主化を求めるに至った欧米諸国は、ほとんど同じといえます。同様の文脈で、アントニオ・ネグリとマイケル・ハートは、他の選択肢があり得ない世界という意味で、現代世界が〈帝国〉化しているといいます(『〈帝国〉 グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』, 2003, 以文社)。

欧米諸国が民主主義を「グローバルな価値観」と位置づけ、そこからの逸脱を「異端」と扱うようになったことは、そのように名指しされた側からの反発を招き、結果的にナショナリズムを鼓舞する要因になりました

その際、欧米諸国に援助などで依存度の高い貧困国や、イスラームなど固い宗教的価値観が影響力をもつ地域よりむしろ、「欧米諸国の民主化圧力に拒絶反応を示しながらも、他にこれというイデオロギーを掲げることができず、なおかつ抵抗するだけの潜在的な力を備えた国」として、ロシアや中国でナショナリズムが高まったことは、偶然ではありません(イスラームをはじめとする宗教過激派の台頭は1970年代からのものですが、1990年代以降に特に広がったのは、ナショナルな結びつきではないものの、外来の理念やイデオロギーに対する反動という意味で、ほぼ同じといえます)。

ロシアの鬱屈

このうちロシアでは、1991年のソ連崩壊後、民主化と連動した市場経済化のなかで、欧米諸国から民間資本が流入し、これと結びついた新興財閥(オリガルヒ)が天然ガスやマスメディアといった主要産業を握り、米国クリントン政権と良好な関係にあったエリツィン政権のもとで絶大な影響力をもつに至りました。

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