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岩田日銀副総裁の無理矢理なロジック

 12月25日の日経新聞の経済教室は「『レジーム転換』が効果発揮」と題されたもので、岩田規久男日銀副総裁が執筆していた。ここでは金融緩和が基本的には想定された効果を発揮しているとしている。

 量的・質的緩和の核心は、積極的な金融緩和によってデフレからの脱却(2%の緩やかなインフレへの移行)は実現できるという、従来とは全く異なる政策レジーム(枠組み)を採用することによって、家計、企業、金融機関などのデフレマインドを払拭し、その行動を根本的に変えようとする点にある(12月25日日経新聞経済教室より引用)。

 デフレもインフレも最終的には貨幣的現象であるというはミルトン・フリードマンなどが提唱したマネタリストの理論で、社会に流通している貨幣の総量が物価の水準を決定するという学説である。学説ではあり、これが結果として正しいものであると証明されているわけではない。日銀の2013年4月の量的・質的緩和は壮大な実験とも称されたように、現在、日本でその実証実験が行われている。

 デフレもインフレも貨幣的現象と単純に決めつけて良いものなのか。もしそうであれば、貨幣の量を調整すれば自動的に物価も上げ下げできることになる。しかし、世の中、そんな単純なものではないのはご承知の通り。貨幣を供給しても使ってくれる人がいなければ、お金が大量に日銀の当座預金に積み上がるだけとなる。むろん、これはただで配れるお金ではなく貸し付ける資金である。借り手とすれば安い金利で借りられるという良い条件がついているだけである。借り手が資金を借りたいとなる環境を作ることがまず大前提となる。そのためにはレジームチェンジによるデフレマインドの変換が必要であると言うが、マインドの変化で何とかなるものではないことも当然であろう。

 岩田副総裁は高橋財政の研究でも知られているが、高橋財政でのレジームチェンジが成功したように見えたのは、日銀による国債の直接引き受けがあったためではない。むしろ、それまでの金輸出禁止などで押さえ込まれていた経済が、金輸出解禁とそれに伴う円安や財政出動、政策金利の引き下げなどにより解き放たれた側面が大きい。しかも、その時代は重化学工業の発展や軍備拡張の時期と重なり、企業にとっては成長する余地が非常に広がっていた。軍備拡張には財政拡大が必要であり、債券市場が整っていない時代背景もあり、日銀による国債引き受けはリスクはあれど、当時の金融市場に精通していた高橋是清であればそのリスクは押さえられるとして取った手段であった。

 岩田副総裁はレジームチェンジが起きて予想インフレが変化した事例として、ここでも物価連動国債を持ってきている。自民党の安倍総裁の「無制限の金融緩和」に言及したことを機会に物価連動国債の市場金利に基づく投資家の予想インフレ率が上昇傾向に転じているとして、予想に変化が生じたとしている。

 物価連動国債を元にしての将来の物価予想はブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)と呼ばれるものである。これについては過去に何度も指摘したが、2012年11月のアベノミクス登場時の物価連動国債は流動性はほとんどない国債であった。リーマンショックによる影響で日本の物価連動国債や15年利付き国債は壊滅的な打撃を受けた。その保有が海外投資家が多く、投げ売り状態となり発行も停止された。毎日、気配はつけられるが、金融機関の債券関係者のさらにそのほんの一部の参加者がつけた、ほとんど流動性のない国債の利回りから算出された、予想インフレ率にどれだけの意味があるというのであろうか。

 さらに岩田副総裁は「投資家の予想インフレ率が上昇傾向に転じている」としていたが、レジームチェンジに匹敵するような変化があったわけではない。たしかにBEIは2013年はじめあたりから上昇基調となり、その年の5月あたりまでその基調は続いた。その後、下落しており、このあたりのBEIのチャートは日経平均に連動している格好となっていた。円安と株価の上昇を背景に、BEIの気配値をつけた担当者が影響されていたに過ぎない。物価連動国債の発行が再開されたことで、日本相互証券などではBEIの2013年10月8日から新発債を元に算出されているが、その後は1%前半で低迷している。その間、大胆な国債買入は続き、日銀のバランスシートは膨らみ続けているが、物価そのものも、予想物価も低迷しているのはなぜなのか。ここで最初の基本部分に戻ることになる。本当にデフレもインフレも貨幣的現象なのであろうかと。

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