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木曽路社メニュー偽装事件報告書-「ないことの証明」はむずかしい

昨日(12月24日)、木曽路さんのブランド牛偽装事件に関する第三者委員会報告書が公表されました(株式会社木曽路におけるメニュー表示の適正化に関する第三者委員会報告書)。3名の第三者委員会委員ならびにアドバイザー、補助者の方々の労作であり、「忘年会シーズンをはずして提出されたのかな?」といった邪推は置いといて、興味深く拝読させていただきました。

先日もブログで書かせていただきましたが、最近の第三者委員会報告書は、「ないことの証明」に苦心するものが多く、本件も「偽装が特定された3店舗以外の店舗では同様の偽装が行われていないこと」、「本件偽装が組織ぐるみで行われたものではないこと」をいかに説得的に報告できるか…という点が重要だと思われます。こういった「ないことの証明」(存在する蓋然性が低いことの証明)は、弁護士よりも会計士さんのほうが得意だと思いますので、会計不正事件ではなくても、本件のように会計士の委員の方が含まれます。委員会の調査スコープも、自ずとそのあたりに絞られます。

さて本件報告書では、「特定された3店舗以外において、同様の偽装がないこと」については社内調査の範囲をさらに深堀した調査がなされたことが示されており、牛肉の仕入管理のずさんさ、という点が強調されています。この点については委員の方々の丹念な調査内容が読み取れます(偽装を繰り返していた4人の料理長の方々はすでに社内処分も終わり、退職されてしまったようですね)。

ただ、当ブログにおけるエントリー「木曽路・メニュー偽装事件-安全よりも安心を提供すべし」で書かせていただいたとおり、「組織ぐるみで行われたものではないこと」を証明するための調査としては、私ならば別の視点から調査をしてみたいです(もちろん私個人の感想です)。同報告書では、店長の偽装への関与は認められなかったと結論付けられていますが、まずどの範囲の店長のヒアリングを行ったのか明らかにされていないので、この点を明らかにするところです。ヒアリングができなかった店長がいれば、そのことを明示したほうがよいのではないかと(たしか事件発覚後の社長会見では「偽装当時の店長のうち2名はすでに退職している」とのことでした)。現店長さんにヒアリングをしても、店長と料理長との一般的な関係についての情報を得ることはできても、事件当時の個々の関係については明らかになりません。仮に「組織ぐるみではないこと」を証明するのであれば、店長へのヒアリングが困難であったとしても、3店舗間の店長に関係性はなかったのか、大阪、神戸、刈谷店の店長の履歴程度は明らかにしたいところです。

つぎに大阪消費者センターと農水省担当者による臨店調査が7月17日に開始され、その後店舗から本部に報告がされたのが8月5日ということですから、その間2週間以上の空白があります。したがって、この調査は定例調査だったのか、それとも非定例調査だったのかという疑問が湧きます。定例であれば本部への報告に時間を要したこともわかりますが、非定例調査であればすぐに本部に連絡は行くはずです。はたして内部告発があったのか、顧客による通報があったのか、それとも定例による臨店調査によって「たまたま」発見されたのか。いずれにせよ企業の自浄能力が発揮されたのか否かを見極めるためには重要なポイントだと考えます。

また、この報告書を読んでも、料理長という立場の人たちが「牛肉偽装」に手を染める動機がよくわかりません。原価管理が優秀な料理人には賞与で反映される、ということが書かれていますが、木曽路のトップクラスの料理長(北新地店のケース)が、指揮命令系統の異なる店長の期待に応えるために偽装に手を染めるのでしょうか。今回の社内調査のように、本部が調査すればあっという間に容易に判明するような偽装を「お客様に喜んでもらうため」にやってしまうものでしょうか。さらに、そのような動機で偽装をする料理長が、北新地店に来る前の名古屋の店舗では、なぜ偽装をやっていなかったのでしょうか(むしろ、私はそっちのほうに興味があります。4人の料理長の人たちが、3店舗以外では松坂牛や佐賀牛に関する偽装をなぜ行わなかったのか、その理由を突き詰めるほうが、再発防止策を考える上でヒントになるのではないかと)。北新地店の料理長が二代続けて偽装を継続していた、という点についても、単純に「料理長に取引先との強い人脈があったので無理を聞いてもらえた」ということでは(なぜ二代目の料理長も偽装ができたのか)十分に説得力のある理由とは思えません。

仮に報告書が認定しているように、4人の料理長による単独不正によるものとするならば、今後は店長による料理長に対する監督体制を確立しなければ、いくらコンプライアンス研修をやったとしても再発を防止することは困難ではないでしょうか。経営本部から(上下関係のない)店長と料理人に別々のミッションが飛んでくるのであれば、コンプライアンスの最終責任者を決めておかないかぎり、ミッションが優先されるものと思います。

店長は「できるだけ営業に出向いて売上を伸ばすこと」、料理人は「できるだけ原価管理を徹底すること」にまい進すれば、どんなにコンプライアンス研修をやったところでコンプライアンスは「二の次」であり、秤にかけてしまいます。家族を支えなければならない社員にとって、これはやむをえないところであり、人はそんなに強い存在ではありません。社員にとって大切なのは、せめて「木曽路」の社員としての看板を背負っている8時間(24時間中)は、個々人の倫理観よりも会社の品位を優先できるだけの誇りをもてるかどうかだと思います。

私の感覚では、118店舗中わずか3店舗だけで偽装が認められたとするならば、そしてそれが技術者(本件では料理長)のみによるコンプライアンス違反ということであれば、それはむしろ上場会社としてコンプライアンス意識の高い企業であり、未然防止のための施策はこれ以上は不要ではないでしょうか。むしろ重要なのは1年半も偽装が続き、消費者センターや農水省の調査がなければ気がつかなかった本部の体質です。売上や利益が個人成績と結び付く外食の世界では、どんなにコンプライアンス研修をやったとしても不正は防げない、というところからリスク管理を見直すべきです。どうすれば不正を発見できるのか・・・という点こそ、今後の再発防止の肝心なところではないでしょうか。

以上、野次馬的に勝手に書き連ねてきましたが、私自身、木曽路の大ファンであり、両親の法事の際には親戚をたくさん連れて、いつも堺泉北店を利用させていただいています。これからも外食の雄としてのブランドを築いていただくためにも、自浄能力を十分に発揮していただきたいと願ってやみません。

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