記事
- 2014年12月26日 05:00
着物を売らない呉服屋!?シティバンク出身の「銀座いせよし」美人女将の仕事術 ‐ 榊 裕葵
2/2■顧客に必要ないものは売らない
2つ目の「売らない」の意味は、顧客のためにならないものは売らないということだ。この点については、恥ずかしながら私自身の話を例に挙げたい。
私は一昨年、「絹紅梅」の反物で浴衣を仕立てて頂いた。
絹紅梅とは、複雑な格子織の技法を用いられた絹の反物で、この反物で仕立てた浴衣は風通しが良くて、着心地も大変素晴らしい。また、フォーマル製も兼ね備えており、夏の季節においては着物に準ずるものとされている。
私はこの浴衣を大いに気にいているのだが、何を隠そう、まだまだ着物初心者なので、高貴な絹紅梅のオーラに負けしてしまい、昨年も今年も、なかなか堂々と着こなすことができなかった。
そこで、私は弱気になってしまい、「いせよし」へ出かけ、「やっぱり普通の綿の浴衣も作りたい」と千谷さんにお願いしたのだが、「絹紅梅を堂々と着こなせるようになりましょう」と励ましの言葉をもらって、綿の浴衣は結果的に見送ることとなった。
そのとき、千谷さんは本音ベースでお話をしてくださって、「確かに売れば売っただけお店の売上は増えるから嬉しいのだが、本当にその人が必要としているものだけをお売りして、お客様のためになる商売の仕方をしたい。それが長期的な信頼関係にもつながると思いますから。」と、商売における信念を教えて頂いた。
私の場合は、何か事情があってさらに綿の浴衣が必要というわけではなく、単に気後れをしているだけだから、逃げるのではなくて、逆に絹紅梅の浴衣を着る機会を増やして着こなさなきゃだめだよ、と叱咤激励いただいたわけである。
このように、着物を着てその人がどうなりたいと望んでいるのか、というお客様の気持ちまで汲み取って、本当に必要なものを親身に見繕ってくれるのが「いせよし」のサービスの真髄である。千谷さんは、「着物は気の物」と常々おっしゃっている。
■最高のものしか売らない
3つ目の「売らない」の意味は、中途半端なものは売らないということだ。私はサラリーマン時代から千谷さんと交流をさせて頂いているのだが、当時は自動車関係の会社に勤めていたので、ある食事会の席で千谷さんに次のような話をしたことがある。
「自動車の場合、若い人は、いきなりレクサスやレジェンドのような高級車は買えないので、カローラやフィットといったエントリーモデルの車がある。着物も、一部の工程を機械化したり、簡素化したりして、エントリーモデルの着物を安く販売したら、もっと顧客の裾野を広げられる可能性はないのでしょうか?」
これに対して千谷さんは、きっぱりと否定され、確信に満ちた表情で次のようにおっしゃった。
「自動車は何年かごとに買い替えることが前提だと思いますが、私は、着物は『一生もの』だと考えています。だから、最初の一着から最高の品質のものをお売りしたいのです。可能な限りお手頃な価格で提供できるよう工夫はしたいですが、価格を下げるために品質を犠牲にすることは絶対にしません。」ということだ。
また、千谷さんは「最初の一着目で中途半端なものをお客様が手にとって、『なんだ、着物ってこんなものなのか』と思わることは不本意です。」ともおっしゃっていた。
だから、「いせよし」の店頭に並んでいる商品に、「妥協」という言葉は無縁であるし、商品の価格差は、素材の希少性や、かかる手間に応じた合理的なものだ。
予算を伝えて相談すれば、予算の許す範囲で常に最高品質の着物や小物を買うことができる。そういう安心感が、顧客の信頼をつかんでいるのだ。
■結び
以上、「いせよし」が着物を売らないとはどういうことなのか、ということを説明させていただいたが、その根底には、お客様の目線に立ち、「お客様のために役立つことをしたい」という精神が常に息づいているとお感じいただけたのではないだろうか。そのような誠心誠意の積み重ねが、今日の「いせよし」の評判につながっているのであろう。私自身も、社労士として開業する際に先輩の先生から「目の前のお客様への誠心誠意のサービスが最大の営業活動だよ」ということを教えられたことがあるが、「いせよし」も、きっと同じ気持ちで商売をなさっているのだと思う。
事業計画を立て、数字を積むことも、ビジネスを行う以上不可欠であるが、財務諸表には現れない「ハート」の部分こそが、むしろ本当の意味での商売の屋台骨になるのではないだろうかと思ってやまない。
《参考記事》
■“myamya”の眼鏡が1本5万円でも次々に売れる理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41144431-20141003.html
■「クラウドママ」を普及させて、働く女性が子育てをしやすい国にしよう! 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41752066-20141106.html
■銀座久兵衛式!?社員に黙々と仕事をさせないから繁盛するステーキ屋さん「然」の秘密 榊 裕葵
http://sharescafe.net/42065984-20141125.html
■日テレ内定取り消しの笹崎さんに必要なのは「指原力」だ 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41885958-20141114.html
■ライフネット生命は「保険」を「貯蓄」という足かせから解放した。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41835101-20141111.html
あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵
- シェアーズカフェ・オンライン
- 専門家が情報発信をするマネー・ビジネス系のウェブメディア



