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「誰が作ったとしても『交響曲HIROSHIMA』が好きならそれでいいじゃないか」~佐村河内事件をスクープしたノンフィクション作家・神山典士氏インタビュー

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出版界にはゴーストライティングの“幸せな形”も存在する

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-著作の中では、今回の騒動から転じて、出版業界における「ゴーストライティング」についても触れています。出版業界では、著名人の主張をゴーストライターがまとめるというのは一般的な手法ですよね。

神山: 4月1日の朝日新聞に書かせてもらったのですが、僕自身もライターとして様々な著名人のゴーストライティングを行ってきました。新垣氏の告白を聞いたあと、「いや俺もゴーストライターじゃん」という思いは自分の中ではずっとわだかまりとしてあったんです。

ご指摘の通り、出版業界では一つのビジネスモデルになっているわけですから、別に悪いことだと思っているわけではありません。ただ、小説家、作家を名乗る人間の後ろにゴーストがいたら、これはまずいですよね。文章を専門としていないスポーツ選手、実業家、芸能人の裏にゴーストがいることは、暗黙の了解になっている部分もあるでしょう。

なので、今回のスピンアウト企画として、来年の3月をめどに「ゴーストライター文化論」という本を出そうと考えています。世の中的にも、「ゴーストライター」という言葉が改めて注目されているので、「出版界の現実はこうですよ」ということを伝えたいと思っています。

先程も指摘したように、新垣さんにしてみれば、たとえ人の名前で発表するにしても、作曲をすることで得られる音楽の喜びというのはあったわけです。僕らにしても、誰かの代作をやる時に、その人のことが本当に好きならば、すごく幸せな瞬間もありますから。

-その企画の中では、どんな事例が取り上げられているのですか?

神山:矢沢永吉氏の「成りあがり」という昔の本を取材しています。これは周知のことなのですが、この本は糸井重里氏が書いています。既に引退している担当編集者に当時のことを聞きました。

この本が企画された時、矢沢氏は28歳のノリノリの頃で、糸井氏も全国的には無名ですが業界では優秀だと評判でした。矢沢氏のファンだった担当編集がコンサートに通い詰めて、矢沢氏の言葉の魅力を伝えたいという思いから企画されたそうです。

いつもコンサート会場で見ている矢沢氏のファンはヤンキーばかりなので、「こいつらは本を読まないだろう」と考えた編集者は、短い文体で畳み掛けるように書ける奴は誰かと考えて糸井重里氏を指名しました。「糸井さん、これは文学じゃなくてコピーでいいから」と言って、矢沢氏に何回もインタビューをして作ったのが、「成りあがり」なんです。

これがもう売れに売れたのですが、印税方式ではなく買い切り契約だったため、糸井氏と表紙デザインを担当した浅葉克己氏という有名なデザイナーには当初の契約以上の金額は支払われないはずでした。しかし、あまりにも売れて申し訳ないからと担当編集が、「糸井さんも浅羽さんもこれから必ず成功する人だから、小学館としても買い切りは申し訳ないだろう」と社内で調整をして、改めて印税を発生させて二人に支払ったそうです。そんな編集者、今はいないでしょうね。

そういう幸せな成り立ちをするゴーストライティングの作品もあるわけですよ。矢沢永吉氏は、出来た本を最初読んだ時、「芥川賞とれるかな」と言ったらしいですよ(笑)。それぐらい三者三様に幸せになって、ちゃんと読者がつく作品もある。「成りあがり」の場合、「構成:糸井重里」というクレジットが入っているので、今回みたいな問題にはならなかったのですが。

-最後に、今回の事件から得られる教訓というのは、どういうものだとお考えですか?

神山:先程、物語を除いた音楽としてどうかという質問がありましたが、僕自身は、「佐村河内氏が作っていようが、新垣さんが作っていようが、『HIROSHIMA』という曲が好きなら好きでいいじゃない。『ソナチネ』が好きなら好きでいいじゃないか」と思うんです。

自分が選んだものの裏側にどんなことがあろうが、「僕は本当にこの音楽、この絵、この料理が好きなんだ」と。純粋に作品として好きなんだという覚悟というか、心構えが、必要なんじゃないかと思いますね。それはこの事件と出会わなくても必要だと思います。別に有名料理店で食べたから好きというのではなくて、その辺の定食屋で食べたものでも、美味しければいいじゃないかという自分の意志、世間に流されまいとする思いは、人間として一人一人が持つべきだと思います。

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もう一つ、ジャーナリストとしては「すべてを疑え」ということが鉄則なのだと思います。記者会見などでも、大手メディアの記者が質問した後で、たった一人でまったく違う質問をするのは難しかったりしますよね。今までの流れと違うことをするのは、すごく変わり者に見えてしまうし、孤独になってしまう瞬間があります。でも、勇気を持って、それを恐れていてはいけないんだと、改めて今回思いました。

ジャーナリスト一人一人も、改めて孤独になる覚悟とがんばりが試されていると思います。

プロフィール

編集部
神山典士(こうやま・のりお)1960年、埼玉県入間市生まれ。1984年、信州大学人文学部心理学科卒業。1996年、「ライオンの夢 コンデ・コマ=前田光世伝」で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞し、デビュー。2014年、週刊文春(2月13日号)に発表した佐村河内守のゴーストライター新垣隆氏への独占インタビュー記事「全聾の作曲家はペテン師だった!」で第45回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞。こうやまのりお名義で児童書も執筆。

「熱血」ライター神山典士がゆく - 公式サイト


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