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「誰が作ったとしても『交響曲HIROSHIMA』が好きならそれでいいじゃないか」~佐村河内事件をスクープしたノンフィクション作家・神山典士氏インタビュー

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今年世間を大きく騒がせたニュースの一つに、「“全聾”の作曲家・佐村河内守氏によるゴーストライター騒動」がある。“全聾”“被爆二世”という物語を背負った作曲家の楽曲が別の人間によって作られたことが明らかになり、メディアは連日この騒動を大きく取り上げることとなった。

佐村河内氏は自身の虚構を、どのように築いていったのか。物語ではなく楽曲を評価するとはどのようなことなのか。今回の騒動の発端となるスクープを「週刊文春」誌上で発表し、ルポタージュ作品「ペテン師と天才 -佐村河内事件の全貌-」を上梓したばかりのノンフィクション作家・神山典士(こうやま・のりお)氏に話を聞いた。【永田正行、大谷広太(編集部)】

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「聴覚障害」「被爆二世」「クラシック音楽」という3つの迷宮

―現代音楽、クラシック音楽の曲の優劣を素人が判断するのは困難だと思います。神山さんは佐村河内氏の『交響曲第1番』(HIROSHIMA)を最初に聴いたとき、率直にどのように感じたのでしょうか?

神山典士氏(以下、神山):大阪のホールで大友さん(※大友直人氏。東京文化会館の初代音楽監督を務めた経験もある指揮者)の指揮で聞いたのが最初だったと記憶しています。

僕もクラシックには素人みたいなものですから、とにかく通常の交響曲より長いし、圧倒されました。あの曲に「スター・ウォーズ」の要素が入っているなんて、言われるまではわからないですよね(※新垣氏は、この曲に「スター・ウォーズ」や「ウルトラマン」の要素をちりばめたと話している)。純粋にすごいなと。

僕もその時は佐村河内氏を「守さん、守さん」と呼んでいたし、彼も「ノリオさん、ノリオさん」とメールをやり取りする仲でしたから、素直に「彼が作ったのか。すごいな」という風には思っていました。

―音楽学者・野口剛夫氏によって佐村河内氏の作曲を疑う記事が「新潮45」に掲載されたりもしていましたが、もし佐村河内氏の弟子で義手のバイオリニストとして注目を集めた「みっくん」の両親からの告発がなければ、ゴーストライターを使っていたことに今でも気づくことができなかったのでしょうか?

神山:それはその通りかもしれません。

これは後から取材をして、やり取りを見直して初めてわかることなのですが、当時中学一年生だった「みっくん」の果たした役割は大きいと思います。彼女が、まだ虚構が明らかになる前の全盛期の佐村河内氏から「こうしろ、ああしろ」と指示されたことに対して、「ノー」と言い続けた。音楽の師匠であり、NHKスペシャルにも出演しているような有名人からの要求に対して「いやだ、それは出来ない」と言い続けたわけです。

そして、理不尽な要求を続ける佐村河内氏に対して、最終的に「大人は嘘つきだ」というメールを送るのですが、それは2013年の秋のこと。そのメールが、この事件が明るみになるきっかけとなりました。13歳の女の子が、大人からの理不尽な要求に対して心を折らなかったということが、今回こうやって佐村河内氏の嘘がばれることになった最大のポイントだったと思います。

―「鬼武者」に関わったゲーム関係者や音楽業界関係者の中には、事実を知っている人達もいたように思います。ただ、「耳に障害がある」「被爆2世」といった問題は非常にセンシティブなので疑義を挟みづらい。確たる証拠があったとしても神山さん自身、告発することに怖さを感じたことはなかったのでしょうか?

「ペテン師と天才」(文藝春秋社刊)
「ペテン師と天才」(文藝春秋社刊)
神山:もちろん、そういう気持ちもありました。僕自身、「みっくん」のコンサートを佐村河内氏と一緒に鑑賞している際に、「『チーン』という鐘がなりますね」という彼の一言を聞いたことがあったんです。その時は、「あぁ聞こえてるんだな」という風に思いました。 しかし、まさかゴーストライターがいるなんてことは考えなかった。

今回の本の中で、「佐村河内は3つの迷宮によって自身の虚構を強固なものにした」というような表現をしているのですが、「聴覚障害」「被爆二世」「クラシック音楽」それぞれの評価が難しいという性質を彼はうまく利用していた節があるんです。「聴覚障害」という迷宮は怪しいなと思っても、別のところには「被爆2世」という迷宮もある。また、専門家であっても楽曲に疑義を呈すのが難しい、「クラシック音楽」という迷宮もあるわけです。

―それが関係者の中には、薄々気づいていたり、疑っている人間がいながらも、18年間明るみにならなかった理由なのでしょうか。

神山:そうだと思います。例えばクラシックの演奏家に聞くと、「この超絶技巧は耳が聞こえない人間には無理だろう。誰か他に曲を書いている人間がいるんじゃないか」と思っていた人もいるようです。

また、レコード会社の人間に対しては、僕の知る限りでは2人、「あれは怪しいよ」と進言した人間がいます。しかし、日本コロムビア(※佐村河内氏の楽曲のCDの販売などを手掛けた)としては、もうお金をかけてスタジオ録音もしてしまっているので、たった一人、二人の人間が疑義を呈しただけでは、すべてをひっくり返すのは難しかったのでしょうね。

今回の本の冒頭に、チェーホフの「嘘をついても人は信じる。ただし、権威を持って語ることだ」という言葉を引用しています。佐村河内という人間は、自覚的か無意識かはわからないものの、これが非常に上手なんですよ。

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