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これでいいのか衆議院? 町村議長の誕生で、安倍内閣の属集団とされてしまう ‐ 南部義典

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。

憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」 そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、 「憲法」の観点から検証していきます。

町村・新衆議院議長の就任

 きょう、特別国会が召集されました。私は、総選挙の後、「誰が、次の衆議院議長になるのだろうか?」と、人選を密かに予想していましたが、まったく的外れとなり、町村信孝衆議院議員(安倍首相が所属する、自民党町村派の会長)が、新議長に就任しました。議長の任期は、憲法や法律で決まっているわけではありませんが、慣例により、衆議院議員の任期いっぱい(途中、解散が無ければ、最長で2018年12月まで)ということになります。

 議長は、衆議院という組織体、会議体の運営の最高責任者です。「全国民の代表」の代表として、衆議院を公正、中立に運んでいく責任を負っています。本連載でも何度も申し上げているように、国会の仕事は、法律を作ること以上に、政府を監視することです。議長とは名誉職の象徴で、一般的にその人事や動静にはあまり関心が向かないのかもしれませんが、町村議長の就任に対して、私は色々と異議を唱えたいと思っています。
 

“情報監視審査会”が設置されていない問題

 ことし2月から5月にかけて、自民党と公明党は、政府が行う特定秘密の指定などに恣意や不正が及んでいないかどうか、一定の権限を持って監視するためのチェック機関を、国会に置くことの検討を進めていました。町村議長は当時、自民党内の議論を取りまとめる責任者でした。6月になり、最終的には、「情報監視審査会」という名称で置くことが決定したわけですが、特定秘密保護法が施行され、政府は特定秘密の指定を進め、まもなく年も暮れようとしているにもかかわらず、衆議院にも、参議院にも情報監視審査会は設置されておらず、その見通しすら立っていないという問題があります(→第56回)。

 そもそも、町村議長は、特定秘密の監視機関を国会に常設することには反対の立場でした。政府が何か問題を起こしたときに、臨時的に(場当たり的に)置くことで足りると、自民党内の意見集約を主導していたのです。しかし、常設機関とする案をまとめていた公明党から強く押し返され、自民党案を撤回し、渋々、常設機関とする案を呑んだという経緯があります。
 本音のところでは、反対の立場はいまも変わっていないのではないかと思います。このような議長の下で、情報監視審査会は本当に設置できるのだろうか、来年設置できたとしても、特定秘密の運用を厳格にチェックできるような態勢になるのだろうかと、ますます疑念を強くしています。

 目下、政府と国会の関係は、非常にいびつな状態です。特定秘密保護行政を進める政府からすれば、町村議長こそ適任ということが、何とも皮肉です。

政権与党に厳しいのが、議長の矜持

 2006年、安倍内閣(第一次)として初めて迎えた通常国会では、当時、統一地方選挙を控えていて、政権としての実績づくりに焦ったためか、衆議院の委員会では法案の強行採決が連日のように行われていました。郵政選挙の後、衆議院で与党が議席を圧倒的に占有する中、数の論理と力で以て、参議院にどんどんと法案が送られていたのです。ねじれ国会になる前の状態だったので、とにかく、法案を参議院に送りさえすればよかったのです。

 当時の衆議院議長は、河野洋平氏でした。自民党出身であるにもかかわらず、強行採決が連日のように繰り返される事態に、公式の場も含めて、“不快感以上”と誰にも受け取れるコメントを発し、政権与党を戒めていました。
 合意形成を、議会が果たすべき役割はほとんど意味が無くなってしまいます。政権与党に厳しいのが議長の矜持であり(かつて、菅内閣のときに、西岡参議院議長(故人)が、厳しく対峙していたこともありました)、結果として議会の権威も守ることもできるのです。

 今回、町村議長が誕生した背景には、自民党町村派という派閥の運営の都合、さらにその裏側には、2015年の自民党総裁選挙に関わる都合があると、メディアが報じられているとおりのことを私も確信しています。(毎日新聞)「自民・町村派:細田派に衣替え 事実上の「安倍派」誕生?」閣僚や党役員人事のさい、「お友達人事」と揶揄されることはしばしばありますが、衆議院の議長人事も友達関係で決まってしまうというのは、少なくともこの10年、私も記憶にありません。「衆議院議長の人選は、首相(総裁)とは別派閥から」という暗黙の了解があったはずですが、これを破り、悪しき前例をはっきりと作ってしまったのではないかと思います。

憲法改正問題について

 2015年、主権者・国民として留意しておかなければならないのが、憲法改正問題です。ただし、政治論としては、憲法96条がハードルとして機能しているため、ウサギが飛び跳ねるようなスピードで一気に事が運ぶということではなく、カメのような動きで、休みながら少しずつ歩んでいくということにしかならないでしょう。
 国会の議決のうち、内容的に最も重いのが、憲法改正の発議です。少数の議席しかない野党にも配慮しつつ、公正、中立に議論を進めていく最終責任者が、議長に他なりません。憲法改正問題に対する内閣からの口出しをシャットアウトし、憲政を守る責任があるのです。

 カメのような動きではありながら、憲法改正があたかも、政府と議会の共同作業であるかのような過程を経て、じわじわと議論が進んでいく——私は、2015年の憲法改正論議をこのように予想しています。丁重の上にも丁重に、この問題を扱わなければ、「議会の何たるか」という根本が失われ、立憲政治の礎が崩れてしまいます。町村議長が、常識的理解の立憲主義とは反対の方向に憲法改正論議が向かないよう、正常に導くセンスと度量を持ち合わせているかどうか、私は疑問に思っています。同時に、安全保障関係の新たな法整備も予定されている中、事実上の違憲立法が横行し、崩れかかった憲法のカタチが固定化されてしまうことを恐れています。

 衆議院も参議院も、安倍内閣の属集団ではありません。言い方を変えれば、属集団と化すことは、自民党所属議員にとっても良くないことなのです。第三次安倍内閣の政権運営を、国会がどうチェックすべきか、野党第一党、第二党は早急に党勢を建て直し、憲政を守るための実を伴った活動をスタートするべきです。
 今年以上に、この国の立憲政治がなし崩しにならないよう、私も精一杯の論陣を張っていきます。
 読者の皆さま、どうぞ、よい一年をお迎えください。

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