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世田谷事件の悲しみをこえて

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入江杏さん

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『ずっとつながっているよ――こぐまミシュカのおはなし』(くもん出版)

世田谷事件のかなしみから14年、事件や事故で愛する人と永遠の別れを経験した人たちがつながり、ともに生きるサポートをする活動が始まっています。

 あの日、ヘリコプターがぶんぶん上空を飛び待っていたのを覚えています。報道陣が詰めかけている現場の近くを車で通り、「ここが事件現場なのか」と息苦しい思いをしたことを思い出します。

 2000年12月30日深夜から31日未明にかけて、世田谷区上祖師谷で一家4人が惨殺された「世田谷事件」。数多くの遺留品があったものの、犯人逮捕にはいたっていない未解決事件で、現在でも捜査は続いています。

 犯行当時、事件現場となった家屋の隣には、亡くなった母親の姉にあたる入江杏さんが住んでいました。入江さんは、日本中が騒然となるほど注目を集めた事件の渦中で、家族とともにひっそりと世田谷を離れ、6年後に「ミシュカの森」という活動を始めます。

 私が入江さんにお会いしたのは、2年前の犯罪被害者週間に開かれた講演会でした。テーマは「突然の別れと悲しみからの再生」でした。

 事件後、久しく世田谷区に足を踏み入れることができなかったという入江さんは、誰にもうかがい知ることのできない犯罪被害者遺族としての経験と、事件によって奪われた4人の喪失、やがて亡くなった母親、そして最愛の夫との死別について語られました。深い悲しみを受け止め、人はどうどう歩み始めることができるのか。入江さんの話は、事件後の心の軌跡をたどりながら深い共感を呼ぶものでした。

 その翌年、事件から7年後に入江さんは本を出しています。『この悲しみの意味を知ることが出来るなら 世田谷事件・喪失と再生の物語』(春秋社)をひもとくと、「喪失と再生」の狭間で揺れる事件後の記述があり、やがてグリーフ・ケアという社会的活動に近づいていく歩みが描かれています。

<グリーフ(悲嘆)とは、人が大きな喪失に直面した時に体験するさまざまな反応――精神的のみならず、身体的、社会的なあるゆる側面で起こる反応を総合してグリーフと言う。そのグリーフを乗り越えようとするのが、グリーフケアだ>

 入江さんは長年住んでいたイギリスにSAMM(殺人事件の被害者遺族をサポートする組織)を訪ね、長い沈黙をへて、『ずっとつながっているよ――こぐまミシュカのおはなし』(くもん出版)という絵本も出版しています。

 さらに、近著として、『悲しみを生きる力に~被害者遺族からあなたへ』(岩波ジュニア新書)を出版し、若い人たちにも「悲しみ」の意味を問いかけ続けています。

 私が「グリーフケア」の活動を知ったのは昨年のことでした。世田谷区で、悲しみに寄り添い、ともに癒しのひとときをすごすグループをつくり始めた皆さんの訪問を受けてのことです。「グリーフサポートせたがや」というグループは、連続講座を持つことから活動を始めています。

 1回目の講師は入江さんでした。さらに、区で取り組んでいる「空き家活用モデル事業」に応募して、助成対象となっています。昨年秋に、このコラムで「『空き家』でつながりを生む『三つのアイデア』」というタイトルで紹介しています。

 1人亡くなると、家族や友人を含めて7人がグリーフ(悲しみ)を抱える、と言われています。そこで、 空き部屋にグリーフサポートの場をつくり、経験者同士が語り合ったり、勉強会を開いたり、音楽療法を行ったりするなど、「寄り添い、ともに生きる」活動の拠点とする、とのことです。その拠点となる「サポコハウス」がこの夏、リフォームを終えてオープンしました。

 そして、10月12日(日)夜には、「サポコハウス」のオープンを記念して、入江杏さんと私が対談することになりました。催しについてのチラシにはこうあります。

<人は誰しも、日常生活の中で感じる小さな傷つきから、人生に重大な影響をもたらす大きな出来事まで、さまざま喪失を体験しながら生きています。喪失に伴う悲しみや苦しみを避けて通ることはできませんが、対処する力を誰もが自分の中に持っています。サポコハウスは、喪失を体験したひとりひとりが、安心して自分の気持ちにていねいに向き合える時間と場所を持てるようにとオープンしました>

 日常的な活動としてグリーフケアを続ける場が開かれるのは、サポコハウスが初めてのようです。入江さんの歩みに耳を傾け、私たちの社会が再生していく道を考えたいと思います。

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