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共働きを題材にした「炎上例」と「成功例」に見る社会を動かす動画の作り方 - 山本莉会

「妻の家事ハラ」と「サイボウズ動画」
前者に批判が集まったのはなぜ?

 今年公開された、共働きを題材にした2つの動画がどちらも話題を呼んだ。

 一つは7月中旬に公開された「へーベルハウス」(旭化成ホームズ)の「妻の家事ハラ」。
http://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/kajihara/index.html/

 共働き家庭で、今まで妻に任せきりだった家事に参加しようと奮闘する夫の様子を描いたショートムービーだ。不慣れな手つきで洗濯やそうじをする夫に対し、妻が「早く終わったね。ちゃんとやってくれた?」「いいのよ、頼んだ私のミスだから」など、夫から見て「傷つく」ような言葉をかけたせいで夫がより一層家事から遠ざかるという内容だが、公開から間もなく批判が相次いだ。

 この理由は「家事ハラ」という言葉(※)を誤用し「家事を行う夫のやる気を失わせる妻からの言葉」としたせいでもあるが、家事を互いに負担しあうべきところを「手伝う」と表現していたことなどにも批判が集まった。

※「家事ハラ」とは『家事労働ハラスメント―生きづらさの根にあるもの』(竹信三恵子著、岩波書店)の中で「家事労働を担う人びとを蔑視・無視・排除していく社会システムによる嫌がらせ」と定義されている

 その詳しい内容は

 「妻の家事ハラ」炎上から見えた少数者の言葉を無力化する「装置」 竹信三恵子(ウィメンズアクションネットワーク)
http://wan.or.jp/reading/?p=14247

 や「妻からの家事ハラ」に女性たち+まともな男性が怒る理由。このままだと“逆マーケティング”に(Yahoo!ニュース: 個人)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/jiburenge/20140727-00037723/

 などで論じられているが、twitterでも

 「何でもほめてくれなきゃヤダ!とか、どんなおこちゃまですかヽ(`Д´)ノ働きながら家事もする女性に対する「家事ハラ」の方がひどいわ(#゚Д゚)」

 「『家事ハラ』って言葉は『夫が家事をしなくていい免罪符』にしかなっていない。」

 「完全なるオス目線。これ出す前に社内の「女性の意見」は聞かなかったの?(−_−#)」

 といった意見が噴出した。

 なお、その後旭化成はキャンペーンサイト上に「家事ハラ」の定義を掲載。誤用の件について竹信三恵子さんへ「お詫び」文を渡し、竹信さんも受け入れているようだ。

 一方、最近公開されたサイボウズの動画「大丈夫」。
http://cybozu.co.jp/company/workstyle/mama/

 育てながら働くことを選んだワーキングマザーが、子育てと仕事の両立に思い悩み自問自答する様子が描かれている。

 動画を見たユーザーからは、

 「私は未婚ですが、動画を見てより一層結婚出産が怖くなったよ。今の社会が大きく変わることはないだろうし、自分の生き方、子供を育てるという大仕事、どう両立させるのか…」

 「噂のサイボウズ動画をようやく見た。確かにリアリティーあると思うけど、これ見てみんなママ達頑張ってるよねと言いたかったのか、こんなにタスクあるんだよと夫達に知らせたかったのか。え、で?な感想だった…。確かに涙腺は緩むんだけど。」

 といった批判的な意見もあったものの「家事ハラ」にあったような炎上は見られず、むしろ、

 「今さらだがサイボウズのCMに心から共感するし、考えさせられる。そしてこの状態は全く大丈夫じゃない。」

 「混ざりたい。一緒に考えたい動きたい。」

 という意見が出るなど、比較的暖かく受け入れられたように思う。

問題解決の一案に「子連れ出勤」「育休2年半」

社会を動かす動画を作るには

 いずれの動画も共働き家庭の日常を描いたものだが、片方は批判にさらされ、片方は「考えさせられる」という意見が出た。その違いはどこにあるのだろうか。

 「家事ハラ」は「夫が家事を手伝う」ことに主軸を置いた動画。共働きなのに「手伝う」と表現し、その上で「妻からハラスメントを受けた」としている。本来の「家事ハラ」の意味と真逆の意味で言葉を使ってしまったことも炎上ポイントだったが、このキャンペーンの最終着地が「家事ハラを回避するためにヘーベルハウスの家に住もう」というPRであり、商品購入が解決策という内容になってしまっているのも批判が集まった理由だったのではないだろうか。

 一方でサイボウズが作成した動画は、「働くママの現状を描くこと」に主軸を置いている。夫の育児参加への意識の低さを嘆く声もあったが、動画では子どもが熱を出した際に夫も会社での仕事を抜けられず、夫婦共に「他に方法のない世の中で働き育てている」とも言える。

 先ほど挙げたtwitterの意見では「動画を見たが解決策が明示されていない」という意見もあったが、サイボウズの自社メディアでは問題解決の一案として「子連れ出勤」や「クラウドワーク」などの働き方、「育休2年半」などの制度を紹介している。

子連れ出勤しています!──「小1の壁」に直面した社員発、新しいワークスタイルの試み
http://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m000331.html

自由な働き方でうまくいくのか? ──ランサーズとサイボウズに敏腕プロデューサーが切り込んだ(1)
http://cybozushiki.cybozu.co.jp/?p=15823

「育休2年半」からの復帰はどんな感じ?──時短勤務で高まるスキル、感じるギャップ-
http://cybozushiki.cybozu.co.jp/?p=10059

 「家事ハラ」動画のゴールが商品販売だったとしたら、「大丈夫」動画のゴールは「社会への気付きを与えること」だったのではないだろうか。動画を見た人が「働くママが抱える現状」に気づき「子どもを育てながら働ける社会にするために何を変えるべきか」を考えるきっかけになったのなら、この動画は成功だったと言えるだろう。

 この2つの動画、違いは「そこにある問題を直視したか」と「訴える目的」にあったように思う。「家事ハラ」はバズる動画にはなったが、社会を動かすどころかむしろ逆効果になった。社会を動かす動画を作るためにはこの2つをよく考える必要がありそうだ。

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