記事

リベラルはLIBERALなのか?を考える

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.341 22 Dec 2014
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

最近、リベラルは使い方が難しい言葉になってきた。

手元にある電子辞書のランダムハウス英和大辞典で「LIBERAL」を引いてみると、名詞では「(政治・宗教上の)自由、進歩主義者」とか「慣習(伝統、因習、権威、偏見)にとらわれない人」といった訳語が並び、形容詞としては「個人の自由を尊ぶ」、「偏見のない」、「専門的でない」などの訳がある。

「LIBERAL」は、「社会の諸制度に制約されない」といった意味のラテン語「LIBER」を語源とする英語だが、近年、日本におけるこの言葉の使われ方が、本来の意味から離れているように思えてならない。英語の意味との乖離は政治の世界で顕著だ。昨今、マスコミなどでリベラルと呼ばれる政治家は、保守系よりも革新系の政治家が多く、イデオロギーを表す言葉にも近い。保守系政治家の中にも「自由主義者で偏見のない政治家」や「進歩的で因習にとらわれない政治家」は多いはずだが、なぜかマスコミは保守系や主流派の政治家にリベラルという形容詞を付けるのに消極的だ。

リベラルな政治家は、「ハト派」という括りで呼ばれることもある。平和で民主的なイメージが高まり有権者に好印象を与えるため、リベラルと呼ばれることを好む政治家も多い。だが、反保守というだけで原語通りLIBERALな政治家なのか、疑ってしまう人もたまにいる。

政治家は多様な考えを持つ国民の代表として選ばれるのだから、保守主義者もいれば社会主義者もいる。自分がどんなグループの代表者なのか、政治スタンスを明快に示すのが政治家の義務であり、リベラルという曖昧な外来語に頼って、旗幟を鮮明にしないのは国民を惑わす行為ともいえるだろう。

リベラルが革新、左派といった意味に使われることが多い一方で、保守である自民党の英語表記が「LIBERAL DEMOCRATIC PARTY of JAPAN」であり、宏池会のように自民党内リベラル派などと呼ばれる派閥があることも、国民を惑わせる一因だ。マスコミを含めてリベラルの意味を定義して、国民を惑わさないようにしたい。正確な日本語訳が難しいのなら、やっかいなカタカナは使わないほうが良いだろう。

ところで、ここまでは日本におけるLIBERALの用法に疑問を投げかけてみたが、近年、英語の国であるアメリカでもこの言葉の使用法が曖昧になっている。その一例は最近、しばしばアメリカのメディアに登場する「LIBERAL HAWK」という言葉だ。「LIBERAL HAWK」は、ロシアによるクリミア編入や、イスラム国の跋扈に対するオバマ大統領の対応に不満を持ち、強硬な政策を求める与党民主党の一部の議員たちを指すことが多い。

LIBERALな政党である民主党の中のタカ派(HAWK)ということだが、ハトに比喩される議員が多い民主党に、強硬な保守系政治家の代名詞にも使われるタカを付けるのは、明らかにミスマッチで形容矛盾としか言いようがない。

もう一つは「LIBERAL BIAS」という言葉だ。こちらは伝統的にリベラルとされてきたアメリカの一部マスコミ論調が、最近いっそう反保守に傾き、公正を欠いていると批判する際に使われる。「偏見のない」という意味もあるLIBERALに、BIAS(偏見)が組み合わさった言葉となると、こちらも立派な形容矛盾だ。

「LIBERAL BIAS」の批判を強く浴びているマスコミは、アメリカを代表する新聞であり、私も新聞社に入社以来、つねに手本としてきたニューヨーク・タイムズ紙だ。同紙はもとより民主党寄りで、LIBERALな論調が米国民ばかりか、世界の革新系の人々から支持されてきたが、近年はますます左派寄りの記事が増えているとされる。このため、共和党支持者や保守的な市民から偏向という批判が高まっているのだ。

同紙の保守嫌いの高揚は、アメリカの国内政治だけに止まらない。海外から保守政治家と見られることが多い安倍首相が率いる日本の政治にも、厳しい論調の記事が目立つ。12月4日付けの同紙は「日本の右派政治勢力は安倍政権に勇気づけられ、第二次大戦で日本が行った不名誉な出来事を否定するキャンペーンを実施しようとしている」などという一方的な視点の社説を掲載した。同紙は靖国問題などでも、たびたび日本に不利な印象を与える記事を掲載している。日本の外務省はこうした事実誤認の記事に対して、直接真実を説明する努力を重ねているが、今のところあまり効果はないようだ。

英語を母語とするアメリカですら、意味が曖昧になってきたリベラルという言葉の解釈に今後、日本人は慎重になるべきだ。少なくとも政治の世界においては、リベラルという言葉がポジティブな意味だけではないことを頭に入れておく必要がある。

転じて援助の世界においてリベラルという言葉は、どのように使われてきたのか。開発協力の根幹を成す理念は、相手国の主体性を尊重して、かつ受益者に偏りのない利益をもたらすことだ。つまり、英語のLIBERALは初めから体内に組み込まれた精神であり、わざわざ確認する必要がなかった。そのせいか、援助の現場でLIBERALという言葉をあまり聞いた記憶がない。

だが、近年、とてもLIBERALとは呼べない援助をする国も増えてきた。今更、援助にLIBERAL精神の深化を求めるのは残念だが、実情は無視できない。来年は世界の隅々で文字通りLIBERALな援助が展開されるようになることを祈願したい。

年の瀬にリベラル、LIBERALなどと、ややこしいことを記したが、今年1年、ずっと気になっていたので最後に書かせて頂いた。

あわせて読みたい

「政治」の記事一覧へ

トピックス

議論福島第一原発処理水の海洋放出は許容できるリスクか?

ランキング

  1. 1

    毎日の誤報「公正」は口だけか

    青山まさゆき

  2. 2

    NHK「しれっと」報道訂正に疑問

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  3. 3

    タクシーのマスク強制が嫌なワケ

    永江一石

  4. 4

    トランプ氏の側近3人 暗躍失敗か

    WEDGE Infinity

  5. 5

    JALの旅行前検査 医師が「ムダ」

    中村ゆきつぐ

  6. 6

    タワマン強盗の恐怖を被害者激白

    NEWSポストセブン

  7. 7

    橋下徹氏 毎日新聞は訂正すべき

    橋下徹

  8. 8

    田代まさし闘病で収監延期の現在

    SmartFLASH

  9. 9

    鬼滅旋風で頭抱える映画配給会社

    文春オンライン

  10. 10

    都構想リーク記事に陰謀の匂い

    青山まさゆき

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。