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原油価格暴落の主要因 - 中東勢復権の可能性

原油価格の暴落は、ロシア経済に飛び火し「逆オイルショック」とも言うべき信用不安の連鎖を想起させたが、中銀の政策金利引き上げや、為替介入、FOMCにおけるハト派的な文言の継続などにより、一旦は落ち着きを取り戻した。今後の動きが気になるところだが、その行く末を考えるにあたっては、今回の騒動の要因を「金融」と「実需」という2つの側面から見る必要がある。

まずは金融だが、リーマンショック後の先進国の度重なる量的緩和により、行き場を失ったマネーの一部は、原油先物市場に流れていた。事実、NYMEXとICEの原油先物市場における買い建玉(期近物)は、リーマンショックの前の約10倍に当たる50万枚まで積み上がっており、FRBが量的緩和策の終了を模索し始める中で、同市場は破裂寸前の風船のような状態となっていたのである。

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次に実需だが、政情が落ち着いたイラクとリビアが原油の増産を開始してきたため、この一年だけで世界の原油の供給は2.7%も増加した(需要は0.8%の増加のみ)。両国とも採掘のキャッシュコストは$40と、競争力の高い油田を保有しており、増産をすればするほど儲かる状況にある。近年の米国のシェールオイルに加えて、中東勢が増産をしたことで、世界の原油は供給過多に陥ってしまったのである。

このように量的緩和の逆回転リスクと、需給バランスの崩れが決定的となったことで、投機家にとっての絶好の攻撃のチャンスが出現したことが、原油価格の暴落を招いた主要因である。メディアは、世界最強の油田を有するサウジアラビアが、敵国やシェールオイルを潰すために減産を拒否していることが要因であると報じているが、それは勝手な想像に過ぎず、真偽のほどは明らかでない。

サウジアラビアの油田は、世界最大の埋蔵量を誇るだけでなく、それ自体が巨大な貯蔵庫のようになっており、圧力を変えることで、自在に産出量を調整できる。同国のキャッシュコストは$24と桁違いに安く、それ故にOPECや他の産油国は、サウジアラビアに原油価格をコントロールする責務があると主張するのだが、サウジアラビアとしてはそのような声に耳を傾ける経済合理性は、もともとない。

一方で、米国のシェールオイルのキャッシュコストは$70と推定されるため、現在の原油価格では事業を継続できない。EagleFordやBakkenのような有力なシェール田であっても、コスト効率化には限界があり、$50台の原油価格では赤字は免れない。また、シェール田は、一般的な油田と異なり、一度操業を止めてしまうと再操業することができない。このため、彼らは難しい判断に迫られている。

同様に、キャッシュコストの高いカナダ、メキシコ、ブラジルなどの油田も間違いなく赤字であり、このままだと存続が危ぶまれる。また、これらの国々が産出を止めた後でも、ロシア、北海、米国の油田はもともと埋蔵量が残り少なく、増産する能力はない。つまり、世界のエネルギー勢力図は、キャッシュコストも埋蔵量も余裕がある中東諸国、特にサウジアラビアの存在感がより大きくなる可能性があるだろう。

話を冒頭に戻すと、原油価格の下落は、これで一件落着とするには時期尚早である。原油先物市場の建玉は、投機目的である期近物の消化はまだ終わっておらず、あく抜け感はない。長期の価格均衡点である$80よりも下にある期間が長引けば長引くほど、世界のエネルギーの勢力図を変える力となるため、注視が必要となる。大国や中東勢の板挟みに合い、被害を被るのは力のない新興国であり、今回のルーブルの暴落は、その一端に過ぎないと言えるだろう。

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