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「新聞の時代」と超短ビデオニュースの台頭

NowThis News以下NT)というエラそうな名称の新興ビデオニュースメディアがあることを初めて知りました。TechCrunchのこの記事なのですが、なんでもベンチャーキャピタル(VC)からシリーズCの投資として新たに600万ドルを獲得したとか。これで初期からの投資額は約1500万ドルになりました。

シリーズCの投資というのは、商品開発が終わって製造・マーケティングに入る段階の資金だそうですから、投資家側からみれば、ビジネスとして成り立つ、いずれ上場してリターンが十分得られる、という判断を下したということでしょう。

創業者が、あのHuffingtonPostの共同創業者で、今はBuzzFeedの会長であるKen LererとHuffPoのCEOだったEric Hippeauというビッグネーム二人。そして今年初めにはNBCユニバーサルと提携を結んでいる。おまけに、Wall Street JournalのAll Thing DigitalではNTのことをCNN Killerとまで書いています。条件が揃い過ぎの感。惹かれました。

しかし、調べれば調べるほど憂鬱になってきました。それは、おそらく、同時並行的にノンフィクション作家、後藤正治氏の著書「天人ー深代惇郎と新聞の時代」を読んでいたせいです。

この本は、朝日新聞の1面コラム天声人語(略して天人)の筆者として名声を得ながら、46歳の若さで急逝した深代氏を軸にして、その先輩、同期生、後輩、さらに他紙の同年代の記者たちが気脈を通じ合い、伸び伸びと新聞記者生活を堪能したかを描いています。深代氏は昭和4年生まれなので、登場人物の多くは昭和1ケタ生まれ。当方とは1世代以上の先輩連で、社も異なりますが、名前だけは記憶にあるスター記者が次々登場するので、興味深く読みました。

なぜ、深代氏をはじめとする記者たちが、傍目にはやりたい放題のようにやりながら、それなりに結果を出し、多くの国民に読まれたか。それは、当時の新聞社に経営的な余裕があったからだと思い至りました。

余裕があるから、お金のかかる企画も出来る、腰を据えた長期取材も出来る。そこで上質な記事が仕上がるから読者も時間をかけて熟読し、支持も生まれる。支持があれ部数も増える。こんな好循環があったのでしょう。本の副題にあるように、深代氏とその同僚が活動した時代は、朝日新聞に限らず、まさに「新聞の時代」だったのです。

さて、そこでCNNを殺すかもとまで持ち上げられたNTのことです。第一の特徴は一つ一つのビデオクリップが短いことです。2年余り前のスタート当初は3分近いものもあったようですが、今は6秒もの、15秒ものが主力のようで、長くても1分あまりです。

第二に、スマホやタブレットで視聴する18−34歳のユーザー(何回か紹介したMillennials世代)を想定し、パソコンのページは、ビデオclipの画像が並んでいるだけで、他にはなんの機能もありません。それに対して、アプリをダウンロードして見るモバイル画面では、カテゴリー別にclipが選べたり、フィードバックが送れる機能があり、明らかに差別化しています。

第三は、ソーシャルメディアを重視していることです。NTのアプリで見られるビデオの秒数はバラバラで、中には1分を超えるものもありますが、Vineには6秒に、元は静止画投稿サイトのInstagramには15秒に編集し直したものを投稿しています。また、FacebookのNTのページTwitterでも見られます。そしてFacebookの「like」は45万、Twitterのフォロワーは18万、Instagramのフォロワーは14万になっています。

今年に入ってから、VineやInstagram向けにsuper shortなclipに力を入れたことで、視聴数は飛躍的に伸びたとのことで、Sean Mills社長によると、今年初夏段階では月間100万ビューだったものが、11月には4千万ビューに達したと、Capitalの記事にあります。40倍!

そのMills社長の弁を、Capitalの記事はこう伝えています。「私が今年1月に就任した時は、スタッフは伝統的なメディア出身者で占められていた。そこで、デジタルアーチストやクリエイティブな素養のある人を集めた。彼らはライターとビデオプロデューサーと机を並べて、密接に協力し合い、一つ一つのネタにどうアプローチするか一日中、話し合っている。これこそ、未来のメディア企業のあるべき姿を先取りしていると思う」

そして、Nieman Labのこの記事では、Mills社長は、こうも言っています。「よりクリエイティブで型破りなものに挑戦してきた。アートとニュースを衝突させる試みだ。それが進化の大きな要素だ」

う〜〜ん、分かります。シリーズCの追加投資も得て自信を深めているのは。しかし、いくら工夫を凝らしてニュースを加工していると言っても、所詮は忙しいモバイル族のニュース消費時間の中に、clipを極限まで短くして、いかに食い込んで視聴数を稼ぐかということでしかないような・・・・ニュースの王道ではない、なにか殺伐とした気がしないでもないのです。そんな行き方がジャーナリズムの進化と言えるのだろうか

とりわけ「天人」で、古き良き「新聞の時代」に思いが飛んだ直後だけに、その落差の大きさに愕然とするのです。新聞離れが進み、かってほどの余裕を失いつつあるかに見える新聞ですが、だからこそ超短ビデオニュースに負けない新機軸を編み出し、「新たな新聞の時代」に向かうことを期待したいものです。だって、みんながスマホで6秒か15秒ニュースしか見ないで満足するなんて恐ろしいですから。

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