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ハードウェアの逆襲

Wedge 1月号(12月20日発売)の特集「シリコンバレーがかえる ものづくりの常識」で、「モノづくりの新潮流 始まったハードウェア・ルネッサンス」という記事の執筆を担当させていただいた。編集者の方との一週間ほどの現地取材で、ハードウェアにチャレンジするスタートアップ(日本でいうベンチャー企業)やその周辺の環境を構成する企業の人たちに行ったインタビューに基づいて書いたものだ。


これまでウェブサービスが中心であったスタートアップの対象が、ハードウェアの分野にも広がり始めた。その一つの理由は、 3Dプリンターなどによる新しい試作プロセスや、中国の深センなどのグローバルな製造インフラが、起業まもないスタートアップでも利用できるようになったことだ。
そしてもう一つの理由として、通信技術やセンサー技術の進化によってモノのインターネット(IoT)が実現可能になったことがあげられるだろう。あらゆるモノ(ハードウェア)はインターネットにつながって、モノに関係する情報やコンテンツをクラウドと交換する。そして人々が常に携帯しているスクリーンを備えたスマートフォンで、モノや情報をコントロールすることができるようになる。 それによって、これまでになかった新しい価値を顧客に提供し、既存のハードウェアを置き換えることができるのではないかというチャンスが見えてきたのだ。

取材先のベンチャーキャピタリストがハードウェア・ルネッサンスと表現した、このようなシリコンバレーの潮流に対し、記事中で次のような提言を行った。
一般消費者向けの製品をつくる日本の製造業がまず取り組むべきことは、自社の製品がインターネットにつながり、製品に関連する情報やコンテンツを、クラウドやスマーフォンのアプリケーションで扱うことができたら、顧客にどんな新しい価値を提供できるだろうかと考えることだ。
このブログの過去の記事で、アンゾフの成長マトリックにおける多角化について、製品と市場という軸を、それぞれの上位概念である技術とドメインという軸で表したイノベーションのマトリックスという考え方を紹介した。
①はアンゾフが水平型の多角化と呼んでいるものに近い。すでに獲得している経営資源やバリューネットワークの多くを活用してプロダクトのイノベーションを行う。写真というドメインにおいてカメラメーカーが新しいデジタル技術を導入し、フィルムカメラからデジタルカメラへのプロダクトイノベーションに成功した事例がある。
②は自社の既存の製品や保有技術に関連した新しい製品によって、別のドメインに参入するというアンゾフの集中型多角化だ。Appleが自社のコンピューター、OS、アプリケーションソフトウェアという製品・技術に関連したiPodという製品によって音楽という新しいドメインに参入したケースがあてはまる。(過去記事より)
Wedgeの記事中の「一般消費者向けの製品をつくる日本の製造業がまず取り組むべきこと」という提案は、このマトリックスの①に相当する。「カメラメーカーが新しいデジタル技術を導入し、フィルムカメラからデジタルカメラへのプロダクトイノベーションに成功した」ように、つぎは「モノのインターネットによってプロダクトのイノベーション」を行う必要がある。スマートフォンのカメラは、「モノのインターネット、すなわちカメラがインターネットにつながることによってデジタルカメラのイノベーションを起こした」と言うことができるだろう。「 カメラを再発明しよう」でも書いたように、既存のデジタルカメラはスマートフォン・カメラに置き換えられつつある。

Appleは保有技術の応用で「音楽」という新しいドメインに参入し②の例を示したが、すでに「音楽」というドメインにいたソニーが、コンピューターやインターネットとの連携によってウォークマンを進化させてiPod(のようなもの)を創ったとすれば①の例となった。

コンテンツや情報の媒体(メディア)がアナログからデジタルに変化するとき、デジタルシフトに遅れをとった企業が衰退し、新たなプレイヤーがその市場に参入してくる状況をデジタルコンバージェンス(産業融合)という。我々はカメラやiPodの例でそれを目の当たりにしてきた。そしていったんデジタルコンバージェンスの起きた市場は、さらなる変化を起こしやすくなることも見た。 フィルムカメラの時代は100年以上続いたが、デジタルカメラの成長は10年で止まった。ウォークマンを置き換えたiPodも、あっというまにiPhoneのアプリケーションに吸収されてしまった。カメラもiPodもゲームも、iPhoneのようなスマートフォンがあれば不要になってしまったように思える。それはネットに繋がらないハードウェアの運命だ。

しかし、イノベーションはそんなときに誰かが起こす。「カメラもiPodもゲームも、iPhoneのようなスマートフォンがあれば不要だ」「それはネットに繋がらないハードウェアの運命だ」と誰もが考えているとき、誰かが「あなたの顧客の諦めていること」に気づいて、それまでになかったまったく新しい価値を提供する。きっとそこにはモノのインターネットによって再定義された新しいハードウェアがある。前回も書いたようにハードウェアとは電気で動くモノに限らない。

D.A.ノーマンは"Technology First, Needs Last "の中で次のように言っている。
The technology will come first, the products second, and then the needs will slowly appear, as new applications become luxuries, then "needs," and finally, essential.

まず技術が最初に来て、次に製品、そして新しいアプリケーションが快適になるに連れて「ニーズ」がゆっくりと顕在化し、最後にそれが必要不可欠なものになる。
一般消費者向けの画期的な製品を生み出してきた日本の製造業は、この流れを実際に体験してきたはずだ。そのワクワク感こそが、モノづくりに関わる人々のモチベーションだと思う。それは、取材でインタビューしたハードウェア・スタートアップの創業者たちが求めているものでもある。
いま日本の製造業に必要なことは、一丸となって取り組むことができる明確な目標を自分たちでつくることだ。それを経営陣がコミットし、全社員が共有することができれば、一気呵成に技術的な課題を解決することは日本の製造業がもっとも得意とするところだ。(Wedge記事より)

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