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消費の主役は70歳以上の女性に 『L70を狙え!』 - 中村宏之

経済記者の一人として自らの不明に恥じる思いだ。70歳代の女性=L70が近年、実に旺盛な消費を展開しているという実態を本書から教わった。

 冷静に考えてみれば、自分も世の中でそうした動きを目にしていなかった訳ではない。だが大きなトレンドとしては捉えきれていなかった。

 ランチタイムともなると、おしゃれな店には女性客が集まり、70代前後の女性とおぼしき人たちで席がすぐにいっぱいになる。東京・東銀座の歌舞伎座に公演を見に来る人たちの多くは女性で、年齢層は70代前後の方々である。デパートの地下食品売り場も、国内外の観光地も、クラシックのコンサートもこうした世代の女性でにぎわい、その活発な消費行動には目を見張るものがある。自分の中におぼろげながらあったイメージが本書を読んで鮮明になった。

 70代の女性というのは、筆者(中村)が成人する以前に抱いていたイメージとは大きく異なる。自分の中で昔は、この年齢層には「おばあちゃん」というイメージが先行したが、今は全くそんなイメージではない。とても元気で若々しい。考えてみれば、戦後の高度成長時代に青春を送り、職場や家庭で一生懸命働き、子育てをした世代である。それを考えると、まだまだ身体や気持ちは元気だろうし、子育てや仕事から解放され、多少なりとも自由になるお金を持っている場合には、今こそ消費しようという気持ちになるのかもしれない。

食生活にもお金をかけられる層

 本書の指摘は一つ一つが興味深い。そもそも男女をあわせた70歳以上の人口は、人口減少社会の中にあっても2050年までは増え続ける。その中で女性の占める割合は大きくなってゆく。70代の8割は日常生活を送るのに支障のない健康状態であり、経済的には住宅費や教育費の負担から解放される。故に、食生活では一番高い肉を買っているのがこの層であるという。和食ばかりではなく、洋食も中華も食べる。コロッケ、カツレツ、ハンバーグなどの1人当たり支出金額も1位だという。著者は、パンなどで70代以上の年齢層を意識した商品開発を行えばもっと売れる、と指摘しているがその通りだと思う。

 著者はこれまで70歳以上の消費というのは注目度が低く、公的な統計でも「ぞんざいに扱っている」と指摘している。確かに従来の発想ではそうした面は否定できない。しかし寿命が伸び、今後、元気で学歴の高い女性が増えてくれば、これまでの70代女性とはライフスタイルが大きく変わってくる。それにあわせて、消費の「質」が変わっていくのも当然だろう。昨年ポール・マッカートニーのコンサートに行った時、若者に混じって70代前後の女性が多く会場にいるのを見てびっくりしたことを思い出した。

 L70に車を運転する層が広がる可能性がある、という著者の指摘も興味深い。高齢になって免許を返上する人がいる一方、若い時に免許を取って車の運転に慣れている人も多く、こうした層にうまくアピールすれば、若者に売れないとされる車が売れる可能性もあがるからだ。高齢女性が好みそうなデザインで、運転サポート機能が充実したような車が積極的に商品化されてもいい。

 L70はいろんな意味で選択的にお金を使う世代であり、安い買い物の仕方も知っている。一方で、濃密なコミュニケーションを提供すれば高い商品が売れる層でもあるという指摘も新たな発見だ。

高齢化が進む日本だからこその工夫を

 おしゃれや運動にもお金を使うという意味で、L70をもはや特別扱いするということはないのかもしれない。売り方を工夫さえすれば、若者や働き盛りの世代にアピールするのと同じような感覚でいろいろなモノが売れる可能性がある。日本は世界に先駆けて高齢化が進んでいるため、日本で成功する企業は世界各地で成功する可能性も秘めているという著者の指摘にもうなずける。

 L70を狙うために、どんな動きが具体的に産業界で出ているのか具体例をもっと知りたいという印象を持ったが、公的な統計を使うことで、かなりのことがわかるということに気付かされたことは収穫だった。

 一方で、男性の消費というのは女性ほど躍動的ではない様子も垣間見える。日本経済に活力を取り戻す原動力の一つは、年齢を重ねた元気な女性であるということをあらためて実感させてくれた一冊である。



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