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投票に行く気がない人が欲しいと思うものについて

衆議院選挙なのに、全然盛り上がっていない。

世間一般的には選挙なんか行ってもどうせ無駄なんだから、行く気はない、という意見が大勢であるように見える。

投票率はおそらく低いだろう。

例えば、生活保護費の減額は止めてほしいので、共産党に入れる、という動機の人がいたとしても、共産党が政権与党になる可能性はほぼゼロなので、その投票は無駄な行動になる。

例えば、地方経済のポテンシャルを発揮するためには維新が掲げる既得権益の打破が必要だ、と信じている人がいたとしても、維新が政権に関与して既得権益を打破し地方経済が活性化する可能性はほぼゼロなので、その投票は無駄な行動になる。

例えば、要支援高齢者の医療サービス充実を希望するので民主党に入れようとする人も、社会保障費の圧縮という大きな問題を投げ出したままでは、自信を持って投票することは出来ないだろう。

投票に行くまともな動機を持つ人々が、(政治家個人の影響力が発揮できる)予算分配の恩恵にあずかる、あるいは政策の恩恵にあずかる業界団体の関係者に絞られるのは、ごく自然の成り行きだと言える。

今回のような国民生活に直接に関わる(例えば消費増税や徴兵制など)論点のない選挙では、無党派層に投票しろというのは無理な注文だ。

さて、一体業界団体とは何だろうか、と考えた場合、つらつら挙げると・・・

農協、日本道路建設業協会、経団連、医師会、電気事業連合会、全国銀行協会、全日遊連、日教組・・・

これらの団体は、社会学的にはロバート・パットナムがいう結束型(あるいは排他型)の社会関係資本という。

これらの勢いは一時期に比べて衰えた(構成員数は減少している)とはいえ、まだ影響力を保っているのに比べ、もう一つのタイプ、橋渡し型(あるいは包含型)の社会関係資本の凋落は目を覆わんばかりである。

橋渡し型社会関係資本とは、(米国の例だと)公民権運動、青年組織、世界教会主義、PTAなど職業的な利益ではなく「トピック」を中心に集合する団体だが、この種の団体の会員数は60年代初めをピークに軒並み急落している。
(ロバート・パットナム「孤独なボーリング」より)

日本の事情をパットナムほど詳しく分析した研究は知らないが、民生委員や町内会や消防団などの社会関係資本の組織率は米国同様に急落している。
(在特会や中核派もこのカテゴリーに所属する。)

従来は、橋渡し型社会関係資本構成員には結束型ほどの強固な集票能力はないものの、地域社会の再生や貧困層の救済などといった一定の理念に沿った投票行動が期待できたが、近年、構成員の減少とともにその機能は大幅に劣化している。

(ただし、橋渡し型の主要なプレーヤーである宗教団体には強い政策意思があり、一部では影響力は大きい。)

さて、現在の状況の大きな特徴は、多くの人間がこの結束型、橋渡し型どちらの社会関係資本にも所属しておらず、投票する基準すらわからない状況に陥っているところにある。

彼らはいかなる社会関係資本にも関与せず、個々に分断されているので、結束型社会関係資本の構成員のように経済的利益を基準にするわけでもなく、橋渡し型社会関係資本の構成員のように理念を基準にするわけでもない。

敢えて言えば、彼らは個別で判断した理念(左翼型)か民族的アイデンティティ(右翼型)によって投票行動を決定するが、どちらにしてもその動機は強くはない。

強すぎる動機は公共的善(公平な再分配)を歪める、ということを知っているからだ。

まとめると、これまで集票の多くを引っ張ってきた社会関係資本(その中心人物が職業団体の会長、労組の組合長、町内の実力者たち)が劣化、その結果無党派の人たちが急増したが、かれらには投票するための動機がない。

このような状況では投票率が伸びるわけはない。

多くの無党派の人たちが社会関係資本に参加することをためらうのは、参入コストが高いと感じるためだ。

職業団体に所属して活動するためにはそれなりの社会的地位が必要だし、労組の組合員になるには会合やデモにでなければならない。町内会で活動するためには、夏祭りや餅つきなどのイベントに関与し、接点のない人たちとコミュニケーションをとる必要がある。

従って、彼らの欲望は、(理念や経済的利益の共有ではなく)面倒なことをしなくても個人的な承認願望を満たせる方向に伸長する。

具体的には、民族へのアイデンティティやスポーツ球団の応援、アイドル活動への追いかけなどの参入コストが低く、個人的承認願望の拡大を可能にする装置を欲望する。

従来の社会関係資本はこれらの欲望に応えられない限り、衰退の道が避けられないだろう。

唯一、個人的承認願望の拡大を提供できる「宗教」の実力は強くなっていく可能性は十分にある。

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