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IoTはすでにハイプではない

新しいアイデアやテクノロジーが生まれた時、メディアの過剰な煽りなどによって市場の期待が急激に高まることがある。それをハイプという。しかし、その新しいアイデアやテクノロジーの未成熟さから、なかなか実際の製品やサービスとして実現されないと、その期待が一気に幻滅に変わる。そして、そのなかから成熟したものが生き残り、実際の製品やサービスとして市場に提供されていくという流れを、ガートナーはハイプ・サイクルと呼んでいる。


ウィキペディアによると「ガートナーの唱えるハイプ・サイクルの目的は、現実から誇張(ハイプ)を切り離すことにより、CIOやCEOが特定技術の採用可否を判断できるようにすることである。」とされている。

IoT(モノのインターネット)


現在、テクノロジーの世界ではIoT(モノのインターネット)、ウェアラブル、そしてビッグ・データが次のイノベーションを生み出すトレンドとして注目を集めているが、8月にガートナーが発表した「先進テクノロジのハイプ・サイクル」をみると、この3つはまさにハイプ(誇張)の頂点にある。とすれば、これらの技術はCIOやCEOが採用を慎重に考えるべき段階、あるいはまだ採用しない方がよいという段階だ。

この3つはまとめて論じられることが多い。
  1. ウェアラブルから情報を自動的に収集する
  2. そのビッグデータを分析し業務的に使用する
  3. 消費者の利便性を向上する新ビジネスを開発する
という考え方のステップが、特にマーケティング業界の「過度な期待」をあおっている。さらにITベンダーも同様のシナリオでクライアント企業にシステムの導入を迫る。
このような面をみると、確かにCIOやCEOは眉に唾をつけて考える必要があるだろう。IoTによって人々にどんな価値が提供できるかという視点が欠けている。ウェアラブルやIoTによってビックデータが収集できれば、何か(わからないけど)きっと素晴らしいことができるという。そこには、その情報で顧客にあった何かを提案できれば、きっと顧客も嬉しいに違いないというマーケティング業界の思い込み(思い違い)がある。

「モノのインターネット」"Internet of Things" という概念自体はRFIDの標準化を推進したKevin Ashtonが 1999年に提唱した。常時オンのRFID(無線自動識別)チップを埋め込むことで、すべてのもがインターネットにつながり遠隔操作やデータ共有が可能になるというものだ。それがクラウドや通信技術やセンサーの進歩によってユースケースが拡大した。
衝撃的だったのは、2006年にNike(とApple)が「Nike+iPod」を発売したことだった。ゴムと皮と布でできているランニングシューズが(iPod nanoとパソコンのiTunesを介してではあるが)インターネットにつながったのだ。まさにモノのインターネット(Internet of Things)だった。
これは過去記事「温故知新:経験経済とモノのインターネット」で書いたものだ。IoTは、すでにハイプではない。IoTによってモノに新しい価値を与えることができる。

市場のルールが変わった


リーマンショック以降、不振が続いていた電気産業を中心とした一般消費者向けの製品をつくる日本の製造業は、大幅な円安による業績の回復が伝えられている。しかし、それはリストラによる人件費などの固定費の削減効果と、円安による輸出製品の利益率の向上によるものであり、売上高や製品数量が伸びたわけではないようだ。単純に言ってしまえば、海外での販売価格を下げなければ利益率は向上する。
リーマンショックや円高による不況に隠れて、実は日本の製造業の競争力が落ちていたのだ。円安で海外での製品価格を引き下げて競争しようとしても、すでに製品やその製品市場自体が力を失っていては意味がない。エネルギー輸入量の増加や、生産の海外シフトなどがその原因とされている貿易収支の悪化も、根は同じなのではないだろうか。

図は経済産業省の 「2014年版ものづくり白書」の「携帯電話の貿易収支の推移」だ。

画像を見る

それまで黒字だった収支が、 2008年にiPhone 3Gが発売されて赤字になって以降は急激に悪化している。こちらも国内メーカーのスマートフォンの多くが海外生産されるようになったという理由もあるが、それにしてもiPhoneが日本経済に与えた影響がいかに大きいかがわかる。これは貿易収支の赤字が拡大している原因の一つでもあるが、それ以上に、日本の製造業に大きなダメージを与えた。スマートフォンが一般消費者向けの製品市場のルールを変えたことに気づかなければならない。

パーソナルコンピュータの時代にモノのデジタル化がすすんだ。市場のルールが変わり、産業融合が起こり、デジタル化に遅れをとった多くの製造業が窮地に陥った。
そしてiPhoneの登場によって、スマートフォンがパーソナルコンピュータに取って代わった。また市場ルールが変わった。モノのインターネットの時代だ。モノはインターネットにつながり、モノに関係する情報やコンテンツをクラウドと通信し、常に携帯しているスクリーンを備えたスマートフォンでモノや情報をコントロールする。 
IoTの時代においては、すべてがサービス化すると考える必要があるという。テクノロジーの会社はどうしてもテクノロジーばかり考えてしまう。ハードウェアがインターネットにつながり、クラウドやスマートフォンのアプリケーションと連携することによって、どのようなサービスを生み出すことができるかという視点で考えるべきだ。そして、個別のインタフェースデザインだけでなく、全体を通してユーザーが感じるコネクテッド・エクスペリエンスをデザインすることが重要だ。(前回記事)

ハードウェア・ルネッサンス



月刊誌Wedgeの1月号で特集を組むために、シリコンバレーとサンフランシスコのハードウェア・スタートアップと、それを取り巻く環境について取材を行った。これまでウェブ・サービスなどのソフトウェアを武器にしたスタートアップが、多くの変革を世界にもたらしてきた。
スマートフォンの爆発的な普及とクラウドや通信技術やセンサーの進歩によって、モノのインターネットが実現可能になり、第二のAppleを目指すハードウェア・スタートアップがシリコンバレーとサンフランシスコに雨後の筍のように生まれている。その状況を取材先のベンチャーキャピタリストが「ハードウェア・ルネッサンスが始まっている」と表現した。

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