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「現在の日本は民主主義国家ではない。“国会議員主権国家”だ」-「一人一票実現国民会議」発起人・升永英俊弁護士インタビュー

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12月14日投開票で行われる衆議院総選挙に向けて、「一票の格差」の問題がクローズアップされている。最高裁が前回の参議院選挙について、定数不均衡のため違憲状態で行われたという判決を下しているが、今回の選挙でも投票価値の差が最大で2倍を超える選挙区が存在するのが現状だ。そもそも「一票の格差」とはどのような問題なのか?そして、何故こうした状況は改善されないのか?「一人一票実現国民会議」発起人・共同代表の升永英俊弁護士に話を聞いた。(取材・執筆:BLOGOS編集部)

「国民の多数決」ではなく「国会議員の多数決」になっている


-最初にまず「一票の格差」とは、どういう問題なのか教えていただけますか?

升永英俊氏(以下、升永):この問題の深刻さがまったく共有されていないと考えています。あなたは、民主主義はどういうものだとお考えですか?

-大雑把ですが、選挙を通じて、代表者を議会に送り出し、そこで立法をするものというように理解しています。

升永:じゃあ今の日本は民主主義国家だと思っていますか?

-原則的には、民主主義だと思っています。

升永:あなたは、日本は民主主義国家だと思っているわけですね。いや、そうじゃないですよ。そこにまず掛け間違いがあるんです。

記者さんの話だと、「国民が選挙を通じて代表者を選んで、そこで法律を作る」と。それが民主主義だと。確かに今選挙をやっているし、代表者である国会議員が法律を作って首相を選んでいるから、その定義からすれば民主主義になるのでしょう。不十分ではあるけれども日本は民主主義国家だということになる。

しかし、そこには「主権者は誰か」ということが抜けているんですよ。民主主義の「民」というのは国民で、「主」というのは主権者なんです。じゃあ「主権者」というのは、何だと思いますか?

-制度を含めて国の方向性、あり方を決める人でしょうか。

升永:主権者というのは、国家権力の所有者です。主権というのは、国家権力の行使の仕方を決める決定権を言うわけです。

かつては王様や、江戸時代であれば徳川家が権力の在り方を決める力を持っていました。戦前は天皇が主権者で、国民は臣民ですから主権は持っていませんでした。戦前というのは、73年前ですからそれほど昔ではありません。日本は、72年前に戦争に負けて、無理やりアメリカから主権者にさせられたんです。

あなたの民主主義の認識は近いところまで行っているけれども、肝心な「主権者が誰か」ところが抜けているんです。「国民が選挙を通じて代表者を選んで、国の在り方を決める」というところまではいいのですが、ここで注目すべきなのは、最終的には多数決で決めているということです。

そして、その多数決は、現状「国民の多数決」ではなくて、「国会議員の多数決」になっているのです。そうすると、主権者は、国民ではなく国会議員になってしまいます。これが、私が、「今の日本は民主国家ではなく、“国会議員主権国家”だ」という理由です。

なんとなく国民が選んだ代表者が決めればいい。全部を国民が決めるわけにはいかないから、代表者に決めてもらうより仕方ないよねと。だけど、その多数の代表者が多数の国民の代表者になっているかに関心がないんですよ。一応、選挙をやっているからいいだろうという風になってしまっている。では、「一票の格差」とは何か。「一票の格差」の場合、選挙制度が人口比例(各選挙区が人口に比例して選挙区割りされた選挙)になってないことが問題なんです。

例えば、昨年、秘密保護法が話題になりました。その際、自民党と公明党だけが賛成して、それ以外の野党は少なくとも会期中に可決することには反対でした。あの時に参議院の比例代表、一人一票の人口比例で選ばれている議員の中で自民党の議員は42%しかいなかった。58%の国会議員は会期中にこの法案を通過させることに反対だったにも関わらず、秘密保護法は通過したわけです。

何故通過したかというと、選挙区選出議員というのが146人いるからです。人口比例で選ばれている比例代表は96人しかいない。96人の中の58%は、確かに自民、公明以外秘密保護法の成否を会期中に決議することに反対だった。しかし、現状で一票をもっていない、0.2あるいは0.4票しか持ってない人が存在する選挙区制の選挙制度で選ばれた人146人と96人の比例代表を合わせると、自民、公明で選ばれた代議士の数が多くなってしまう。

一人一票で選ばれている比例代表によって選出された国会議員であれば、会期中に秘密保護法を通すのに反対だという人が多かったのにかかわらず、この法案は参議院を通過してしまった。多数の国民から選ばれた代表の意見が、少数の国民から選ばれた代表の意見に負けてしまったわけです。

この場合、主権はどちらにあるのでしょうか。国民の少数しか代表していない国会議員の多数決に国民の多数決が負けたわけです。負ける方が主権ということはありえないでしょう。民主主義という以上、多数が勝って初めて民主主義です。国会議員と国民が喧嘩した場合に、国会議員が勝ってしまうような制度は民主主義と言いません。それは国会議員主権、主権が国会議員にあるということになるわけです。つまり、現状の日本は民主主義とは言えないんです。

現状の住所差別は“是正”ではなく“撤廃”すべき

- 国民の多数決になっていないのが現状というわけですね。本来であれば、裁判所の判決を受けて、こうした状態は是正されるべきですが、国会での議論はなかなか進みません。これは何故なのでしょうか?

升永:私は「是正」という言葉は嫌いなんです。私のインタビューの時は使わないでほしい。何故かというと、「一票の格差」という言葉は「是正」という言葉とリンクしているんです。「是正」というのは、日本語としては「今より良くする」というような意味で使いますよね。

あなたは今どこの選挙区に住んでいて、そこの衆議院選の票の価値というのはご存じですか?

-東京10区は0.54票で半分ぐらいです。

升永:「一票の格差」と言う時に、「自分の票数が0.何票か」という発想がないんですよ。あなたは、一年前に自分の票が何票かなんて考えましたか。考えなかったでしょう。「一票の格差」というのは、人口が4倍だ、2倍だというだけで、何となく他人事なんです。

私は、「一票の格差」という言葉も禁句にしてほしいと思っています。何故なら「格差」 という言葉は必ず「是正」につながるからです。「2倍を超えて、2.5倍だから1.98倍にすればいい」というような「是正」を国会は今やっているからです。「衆議院は2倍を超えないように1.98倍にしよう」と。ところが、法律を作ったときは1.98倍だったけれども、実際に選挙やるときは2.1倍になってしまう。だから、2倍を超えないように是正した方がいいというような議論になってしまうと「撤廃」という発想がなくなってしまう。「是正」という日本語の中には、撤廃という発想がないことが問題なんです。

ですから、私の前では「一票の格差」と「是正」という言葉も使ってほしくない。「一票の住所差別」です。差別であれば、「2割がた差別をしない」なんてことはあり得ません。住所差別はゼロに、撤廃しなければいけません。

現状、国民の多数が国会議員の多数を選べないような仕組みなっているので、実際に秘密保護法の時のようなことが起きているわけです。だから、現状の日本は“国会議員主権国家”であり、民主主義国家であると、私は言いたくない。主権を国民が持っていないんですから。

こういう深刻な事態に陥っているというところから議論を始める必要があります。現状は「まぁまぁ民主国家だから、今を良くしよう」というのではなくて、「今民主国家じゃない」というところからスタートしなければいけないんです。それぐらい深刻なんです。

それともう一つの議論。裁判所は違憲状態判決をちゃんと出しているのに、国会はちゃんとやらない。現在のような状態になっている責任は、国会と裁判所でどれぐらいの割合だと思いますか?

-違憲判決が出ているにもかかわらず改めない国会7割、裁判所3割ぐらいでしょうか。

升永:それも誤解があります。裁判所が100、国会の責任は0%です。何故なら、国会は裁判所の言うとおりにしているからです。

具体的に言えば、裁判所は、「憲法は人口比例選挙を定めている」という判決を歴史上一回も出したことなかったんです。裁判所が、「憲法は人口比例選挙を定めている」といえばいいのに、それを言わずに、「国会に裁量権がある」と逆のことを言うわけです。「立法裁量権がある」と裁判所がいうものだから、国会は「立法裁量権があるから、2.5 倍にするかとか1.9倍にするか」ということを延々50年間やっているわけです。

そりゃそうですよ。あなたに裁量権があるといわれれば、裁量していいと思います。そういうことを皆さん知らないでしょう。これは感動をもって聞いてほしいぐらいです。100回ぐらい反芻するぐらいの気持ちで聞いてほしいです。

裁判所は、「人口比例を憲法が定めている」と言わずに「どうやるかは国会の裁量権に任される」としているんです。そして、「裁量に著しい不合理があったときに、それは違憲になると裁判所が判断する」としています。つまり、「不合理」でもよくて、「著しい不合理」であった時だけいけないと。これじゃあ国会は、「あぁ自分たちが人口比例にしなくていいんだな」と思ってしまいますよね。現在は、「著しく不合理」とまでは言っているのですが、「人口比例にしろ」とは言ってないんですよね。

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