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相続税を減らせる「二世帯住宅」「賃貸暮らし」

マネージャーナリスト 有山典子

二世帯住宅で相続税対策って?

ただいま育児休暇中の郁恵さん(35歳)は、マイホームの購入を検討中。ところが、実家に帰ったときに両親にこう言われました。

「この家を二世帯住宅にして一緒に住むのはどう? お兄ちゃんはマンションを買っちゃったしね……そうすれば、相続税対策にもなるらしいのよ」

父が相続のセミナーに行って聞いてきたそう。都心部の新築マンションで暮らすことを夢見ていた郁恵さんは、思わぬ展開にかなり戸惑っています。

相続税改正で普通の家にも相続税がかかる!?

郁恵さんの実家は都心から電車で30分以上かかるし、大して広くもありません。サラリーマンだった父がそれほど貯金を持っているとも思えません。それなのに、なぜ相続税の心配を?

その理由は、2015年から相続税が増税になることにあります。相続税には非課税枠(基礎控除額)がありますが、この非課税枠が6割に下がります。現在の非課税枠は「5000万円+1000万円×法定相続人数」ですが、2015年からは「3000万円+600万円×法定相続人数」になります。

郁恵さんの場合、もし父が亡くなったときの法定相続人は母と兄、郁恵さんの3人。この場合の非課税枠は、2014年までは「5000万円+1000万円×3人」=8000万円ですが、2015年以降は「3000万円+600万円×3人」=4800万円に下がります。

郁恵さんの父の財産は自宅が約3000万円(土地の相続税評価額)、預貯金などその他の財産が約3000万円で、合わせて約6000万円。2015年以降は非課税枠の4800万円を超えるので、両親は相続税の心配をしているのです。

小さな自宅の評価額は8割も下げられる

では、なぜ二世帯住宅が節税対策になるのでしょうか?

相続税では、小さめの自宅については大幅な優遇策があります。それが「小規模宅地等の特例」で、条件に合えば、自宅の土地について評価額を8割下げられるというもの(2014年まで240平方メートル以内、2015年以降は330平方メートル以内)。郁恵さんのケースでこの特例が使えれば、自宅の土地3000万円の評価額を2割の600万円に下げられます。その他の財産3000万円と合わせても3600万円となり、非課税枠の範囲内に納まるので相続税がかかりません。

自宅に「小規模宅地等の特例」を適用できるのは、大まかにいえば下の3つのうちどれかにあてはまる場合です。

<小規模宅地等の特例が使える条件>
条件1 亡くなった人の配偶者が相続する
条件2 亡くなった人と同じ建物で同居していた親族が相続する
条件3 亡くなった人に配偶者も同居していた相続人もいない場合に、亡くなる3年以内にその人またはその人の配偶者の所有する家に住んだことのない親族が相続する

もし郁恵さんの父が亡くなったとき、母が自宅を相続すれば条件1にあてはまります。つまり、このまま何もしなくても、母が相続すれば相続税はかからないということ。「な~んだ」と思うかも知れませんが、その後、母が亡くなったときには、やはり相続税の心配が出てきます。それを見越した対策が二世帯住宅なのです。

二世帯住宅は、条件2にあてはまります。自宅を二世帯住宅に建て替えて郁恵さんが住めば同居とみなされ、その家を郁恵さんが相続すれば特例が使えるので、相続税がかからなくなります。

同居といっても台所もお風呂も一緒ではお互い気をつかって大変ですが、同じ建物内で居住スペースが2つに分かれた二世帯住宅ならずっと快適。以前は同居とみなされる二世帯住宅の条件が厳しかったのですが、2014年からは玄関が別々で、中で行き来できないような建物でも認められるようになりました。このこともあって、最近は住宅メーカーも熱心に二世帯住宅をアピールしているようです。

賃貸暮らしが相続税対策になる

親としては、可愛い孫の顔をいつでも見られるし、老後も安心。子としても、住宅購入の負担を減らせるし、子どもの世話もしてもらえる。うまくいけばいいことづくめの二世帯住宅ですが、郁恵さんには気がかりなこともたくさんあります。

「実家は通勤に不便だし、何かとマイペースな母と一緒に暮らすのはちょっと面倒。それに夫は長男で、賛成するとは思えない……」

さて、小規模宅地等の特例が使える条件3を見てみましょう。これは少々わかりにくいのですが、要は「持ち家に住んでいない人が相続すると特例が使える」というもの。ただし、自分が持っていなくても、夫が所有する家に住んでいれば特例は使えません。

たとえば郁恵さんの場合だと、こんなときに条件3があてはまります。「郁恵さん家族がこのまま賃貸暮らしを続け、実家は両親が二人暮らし」→「父の死後、母が自宅を相続して一人暮らし」→「母の死後、郁恵さんが自宅を相続」。持ち家に住んでいる兄が自宅を相続すると特例は使えませんが、賃貸暮らしの郁恵さんが相続すれば特例が使えて、土地の評価を2割に下げられます。

つまり、相続税対策だけを考えれば「賃貸暮らしを続ける」という選択もあり、ということ。賃貸でなくても、たとえば夫の親が所有する家に住んでいる場合なら特例が使えます。もちろん、親の老後の世話をどうするか、という問題は別に考える必要がありますが……。

この条件3は、働く独身女性にもあてはまるケースが多いかもしれません。マンションを買おうかどうか迷っている「おひとりさま」は、親の家の相続のことも検討項目の一つにしたほうがよさそうです。

相続は家族全員の話し合いが大切

自分と家族がどこでどう暮らすかは、人生を左右する大きな問題です。それを相続税対策だけで決めることはできません。

とはいえ、親の老後の面倒を誰がどう見るか、というのも避けて通れない問題。それに、たとえ相続税がかからなくても、親の財産をどう分けるかも大きな問題です。兄弟姉妹のうち誰か一人が自宅を相続すれば、ほかの人がもらう分はずっと少なくなるかもしれません。将来、ケンカにならないためには「親の面倒を見た人が自宅を相続する」といったことをあらかじめ家族で話し合い、全員が納得しておくことが必要です。そのうえで、親に正式な遺言書をつくってもらえばさらに安心といえるでしょう。

もし郁恵さんの兄が二世帯住宅の話を知らなければ、兄だって面白くないはず。もしかしたら兄は「いずれはマンションを売って親と一緒に住もう」と考えているかもしれません。たとえ悪気はなくても、勝手に話を進めるのは厳禁です。

結婚している女性なら、夫の両親の老後についても考える必要があるでしょう。マイホーム購入は、将来のことを考えるチャンスです。夫とも、実家の家族とも、十分に話し合ったうえで、わが家にとってベストの方法を検討しましょう。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。

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