- 2014年12月08日 17:58
米宇宙ロケットが抱える「ロシアリスク」 - 岡崎研究所
10月23日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された論説で、米空軍の退役中将デプテューラが、米国の国家安全保障関連衛星打ち上げがロシアのロケットに依存しているのは好ましくなく、依存をなくすための措置を講じるべきである、と述べています。
すなわち、この8月、ロッキード・マーチン社とボーイング社の合弁会社のUnited Launch Alliance(ULA)は、ロシアから5000万ドルでRD-180型ロケットエンジンを輸入した。RD-180は、現在米国で国家安全保障関連の衛星打ち上げに使われている2つのロケットの1つであるアトラスVロケットの重要な部分である。ULAはRD-180を米空軍、NASA国家偵察局に供給している。
米国が衛星打ち上げで軍事的にロシアに依存していることは、長らく居心地の悪い現実であったが、ロシアがクリミアを併合し、ウクライナに侵入するに及んで、ばつの悪い負担となった。ロシアは米国の制裁に対し、RD-180の供給停止で報復すると脅しているが、ロシアが知っているように、供給の停止は米国の軍事、情報能力に大きな害を与える。最近の国防省への一報告によれば、今から2020年までの米国の国家安全保障関連衛星打ち上げの56%に、ロシア製エンジンが使われる予定であり、ロシア製RD-180の供給停止の影響は「重大」で「影響を緩和する選択肢は限られている」とのことである。
米国の軍事、情報能力がロシアの機材に依存していることが賢明でないのみならず、RD-180の購入は、ロシア政府を財政的に支援することにもなる。
ロシアのウクライナ侵攻後の3月、ヘーゲル国防長官は議会に対し、米国によるロシアのロケットエンジン使用は再検討すべきであると述べ、8月には新たに空軍宇宙司令官に任命されたハイテン大将は米国は「宇宙へのアクセスにつきロシアに頼るべきでない」と述べた。
米国がロシアのロケットエンジンへの依存をやめるためには、より大胆な行動が必要である。
まず、軍用衛星打ち上げ市場にただちに競争を導入すべきである。
現在ULAは、国防省予算で4番目に大きい「発展型使い捨てロケット」(Evolved Expendable Launch Vehicle:EELV)計画の多年度契約のおかげで、市場を事実上独占しているが、競争は技術的突破口を促進し、国民の税負担を何億ドルも軽減するコスト削減に役立つ。国家安全保障上の意義と納税者の利益を考えれば、空軍がなぜ米国のエンジンメーカーとロケット提供者を排除しているのか理解に苦しむ、と述べています。
出典:David A. Deptula ‘The Russians Have Us Over a Rocket’(Wall Street Journal, October 23, 2014)
URL:http://online.wsj.com/articles/david-a-deptula-the-russians-have-us-over-a-rocket-1414105347
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米国の国家安全保障関連衛星打ち上げがロシア製ロケットに頼ることが、米国の安全保障戦略上好ましくないのは明らかであるにもかかわらず、実際頼っているのは、米ロ関係の現状を考えると驚きです。おそらくロシア製ロケットの購入を始めた2000年ごろは、米ロが対立関係になく、また対立関係になることが予想されていなかったからでしょう。
定着してしまったロシア依存を軽減、ないし廃止することは容易ではありません。RD-180の代替ロケットの導入には数年はかかるとのことであり、その上論説の提言のように競争を導入することには、現在独占的地位にあるロッキード・マーチン社とボーイング社の抵抗が予想されます。
しかし、米ロ間に近い将来信頼関係が確立される目途は立たず、米国の軍事、情報能力がロシアの機材に依存していることが賢明でないことは明らかであり、米国の安全保障政策上、依存の軽減ないし廃止に向けた努力が始められることが望ましいでしょう。
米空軍は、宇宙優勢の獲得を航空優勢の維持と並ぶ主要目的と位置づけています。2015会計年度における宇宙関連プログラムへの投資は72 億ドルに及んでいます。その中でも、EELVの取得には14億ドルと比較的多くの予算が振り向けられ、空軍の重点投資プログラムとなっています。空軍は、EELVの取得理由を「即応性の向上」と説明していますが、その意図をより深く読み解けば、敵の対衛星兵器により既存の衛星が破壊されるリスクを念頭に、平時からコストの安い単機能衛星を定期的に打ち上げておくことや、有事の際には予備の小型衛星を早期に再打ち上げする即応性を維持しておくことで、宇宙基盤システムの強靱性を高める狙いがあると考えられます。
ULAは、今年3月の時点で「アトラスⅤをあと2年間(2016年まで)製造するだけのRD-180エンジンのストックがある」としている他、現在2機種あるEELVのうち、国産エンジンを使用するデルタⅣの使用頻度を高めることで必要な打ち上げをカバーできると言っていますが、デルタⅣはアトラスⅤと比較して、打ち上げコストが高いという面も指摘されています。今後は、アトラスⅤへの依存を抑えつつ、上記論説のように競争の上での国産化を進められていくというのが堅実な選択肢なのでしょう。
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