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「親に恵まれない子ども」のうち、9割が施設に。「子どもを社会で育てる」ってそういうことなの?

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「赤ちゃんポスト」の前で立ち尽くす母親

「明日ママ」といえば、主人公につけられた「ポスト」というあだ名が問題になった。「赤ちゃんポスト」(正式名称は「こうのとりのゆりかご」)を運営する熊本の慈恵病院などが、「人権侵害のおそれがある」などと抗議していたのを覚えている人も多いだろう。

シンポジウムでは、慈恵病院の相談役を務める田尻由貴子氏が講演。赤ちゃんポストの実態を、データで報告した。

慈恵病院で相談役を務める田尻氏
慈恵病院は、病床数98の小さな施設。2007年に「こうのとりのゆりかご」を設置してから14年3月までに、101件の利用があったという。全国から利用者が訪れており、病院がある熊本市からは8%にすぎない。ポストの前で立ちすくみ、助けを求めるかのような母親も少なくないそうだ。



「民間病院が対応できる数には限界がある」

病院の立場としては、「困った母親に手を差し伸べることが目的であり、赤ちゃんを預けるのは最終手段」。ゆりかごの横に、ナースステーションへと繋がるインターホンがあるのはもちろん、全国から24時間365日、電話相談を受け付けている。助産師や保健師の資格をもつ相談員が、女性からの「思わぬ妊娠」や「暴力による妊娠」、「今、破水したがどうすればいいか」といった緊急度の高い相談にも対応する。相談数は年々増加しており、7年間で合計5000件を越えた。

「この件数は、いち民間病院が対応できるキャパシティは、明らかに超えています。それでも困っている女性たちには、相談し『病院へ行けば助かる』と思ってほしい」(相談員の田尻氏)。

相談の結果、「自分で育てる」と決意する女性も多い。が、どうしても育てられない場合は、特別養子縁組を勧めることもある。慈恵病院では、7年間で204人の養子縁組を実現した。

「こうのとりのゆりかご」の実践からは、現代の若者の「性意識の低下」や「自己責任の欠如」などが見えてくる……と田尻氏はおっしゃっていたが、昔も今も、一定の割合で「性意識が低く、自己責任が欠如した若者」はいただろう。問題は、こうした若者たちから生まれた子どもを支える、社会的なインフラが圧倒的に足りないということだ。

もちろん田尻氏も、「社会的育児支援」は問題であると語っていた。子どもを社会で育てるという点からいえば、慈恵病院による「24時間365日対応」の相談活動が果たす役割は大きい。貧困や暴力など、困難な環境で妊娠する女性が、いなくなることはない。そういう女性たちが、産んでから「どうしよう、産まなければよかった」となってしまわないよう、「産む前からの支援」が何より重要だと思う。今は相談機関が圧倒的に少ないし、困難な状況で、行政を頼ることのできる母親は少ない。

児童養護施設への「補助金」が、子どもを施設に閉じ込めている?

親に恵まれない子どもを、「施設ではなく、養子縁組で家庭へ」という動きは、なかなか進まない。その一因が、「施設への補助金」だ。児童養護施設には、国から「子ども1人あたりいくら」という形で補助金が支払われる。預かった乳幼児を養子縁組に出すと「経営が立ちいかなくなる」施設もあるのだ。福祉関係者は、児童養護施設との関係維持も大切らしい。そういう事情があるために、施設に対して「子どもたちを養子縁組に出してください」とは言えないのだ。里親になりたい人たちのニーズを掘り起こす活動も後手に回る。

親が行方不明で「同意」が得られないから、養子には出せないケースも

施設から子どもを養子に出そうと思っても、上手くゆかないケースはまだある。民法では、特別養子縁組の際、「実親の同意」が必要と定めているが、福岡市こども総合相談センターの福田峰之氏によれば、親が行方不明になっている場合などは、同意を得ることが難しい。

「とにかく、子どもが施設ではなく、家庭で育つことのメリットを広める必要がある。里親が失敗したケースなど、悪い例ばかり見る人が多い」と指摘するのは、里親養育を推進するNPO法人「キーアセット」の渡邉守氏。

里親支援の関係者などが集まり、ディスカッション
そもそも「施設で育てること自体が虐待」とすらいえる現状もある。国際NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の報告書によると、施設では、10代後半の子どもでも1人部屋がないのは当たり前。プライバシーが確保されていない環境で、フラストレーションがたまり、感情のコントロールができなくなる子どももいる。大きな施設で起きるいじめや暴力に関して、子どもたちからの「苦情申し立て制度」はない。さらに、一般家庭であれば、家族との行動を通して自然と覚える「社会的なスキル」が身につかない子どもも多い。「電車の切符の買い方が分からない」「マクドナルドの注文の仕方が分からない」子どももいる。

千葉県で養育里親をつとめる吉成恵里子氏は、「もっと気負わず、里親を経験する人が増えてほしい」と訴えた。

養子縁組で、生後3ヶ月の赤ちゃんと対面して感じた「子どもがもつ力」

特別養子縁組を通して、現在1歳8ヶ月の娘を育てている女性は、次のように語る。
「不妊治療の末、夫と話し合い、養子という選択肢を考えた。迷いはありましたが、何度も研修を受けて、意志が固まりました。この子と対面した時、とても強い『力』を感じたんです。子どもの持つ力は大きいと感じます。娘が大人になったら、本当のことを話そうと思う。そして、世の中には自分と同じ境遇の子がいるんだっていうことを、理解できる子になってほしい」

「社会で育てる」=支援のもと、家庭で育てるということ

そもそも「子どもを社会で育てる」とはどういうことか。里親支援の関係者や、慈恵病院の方々の話を聞いて感じたのは、「社会で育てる」といえば聞こえはいいが、そこまで立派な「社会」は、日本にはもう存在しないのではないかということだ。今、恵まれない子どもたちは、「社会=“国が面倒を見る”」ということになっている。それはすなわち「施設」という、名ばかりの「社会」に閉じ込めることを意味する。施設で育った子どもたちは、「社会生活に必要なスキル」が身につかないために、職を転々とし、最終的に生活保護を受ける場合すらある。再び「国が面倒を見る」わけだ。これが本当に、「すべての子どもを社会で育てる」ということなのか?

一般的に、「子どもを社会で育てる」という場合の「社会」とは、「地域社会」のことだと思う。より狭義には「地域社会とつながった『家庭』で育てる」という意味だろう。まず家庭があって、家庭を包む地域社会があって初めて、子どもは社会性を身につけることができる。里親など「家庭養育」への支援策を充実させないまま、児童養護施設に補助金を出し、閉鎖的な環境に子どもを集めておく育て方が、本当に「社会で育てる」ということなのだろうか。「子どもが育つ権利」を第一に考えるのであれば、答えは「家庭」というところに戻ってくるのではないかと思う。(了)

(取材協力:日本財団)

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