- 2014年12月08日 10:00
早過ぎた警告の書『ボーダレス・ワールド』が今、眼前に
2/2自国企業から徴税できないアメリカ
ボーダレス・ワールドにおいては、国家と企業の関係も変容する。国境を自在に飛び越えて経済活動をしている多国籍企業は、どこの国でモノを作ればコストが安いか、どこの国でビジネスをすれば税金が安く済むか、といったマネジメントを当然のように行っている。アメリカで「ブルーチップ(優良銘柄)」と呼ばれるような企業の大半は、税率が著しく低いか、もしくは無税のタックス・ヘイブン(租税回避地)を利用している。
アップル、グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどIT系グローバルプレーヤーをはじめ、欧米のグローバル企業から租税回避先として重宝されているのがアイルランドである。アイルランドは多国籍企業を誘致するために優遇税制措置を講じていて、法人税率12.5%はEU最低だ。
しかも交渉次第では、さらに低くなり「一桁」の法人税率の企業も珍しくない。
たとえばアップルのアメリカ市場以外の売上比率は約60%。しかし海外で得た利益に対して課せられる税金の税率はわずか2%ほど。アップル本社がある米カリフォルニア州の法人税(法定実効税率)は40.75%、日本は36.99%だから、2%という税率は驚くべき低さだ。
連結ベースで見たグループ全体の実効税率は24~25%程度。それでもカリフォルニア州の法人税から考えれば格段に低い。これもせっせと企業収益を海外に移転して節税に励んだ賜物なのだ。
アップルの節税法は「ダブル・アイリッシュ、ダッチ・サンドウィッチ」と呼ばれている。「ダブル・アイリッシュ」は同社が開発して80年代から取り組んでいる節税スキームで、文字通り、アイルランドに2つの現地法人を設立するのが基本。簡単に言えば、その2つの法人間のお金のやり取りによって海外事業の利益を集約し、最終的にはタックス・ヘイブンである英国領バージン諸島などに利益を移転する節税法である。
さらにアイルランド法人間の取引に、オランダに設立した別法人を噛ませるのが「ダッチ・サンドウィッチ」で、こちらはアイルランドとオランダ(そしてアメリカ)が結んでいる租税条約の非課税特例に着目した節税法だ。
「ダブル・アイリッシュ、ダッチ・サンドウィッチ」はグローバル企業のタックスマネジメントの手法としてはもはや常識だ。行き過ぎた節税、租税回避の温床、という批判を受けて、先般、アイルランドは「ダブル・アイリッシュ」の仕組みが使えなくなるように税制改正を決めたほどだ。
しかし、理不尽な国家の規制、理不尽な税金からいかに逃れるかが、ここ数十年の企業戦略論の中心的なテーマであったことは間違いない。多国籍企業であれば各国の税率や法制度などをインプットした最適化プログラムを持っていて、どこの市場でどんなオペレーションをすればトータルで税金が一番安くなるかを常に計算している。
逆に国から見れば、国民や企業から取り立てた税金は国家経営の原資だ。しかし、国民国家の盟主であるはずのアメリカは自国の優良企業からまともに税金を徴収できない悲惨な状況に陥っている。
米上院の公聴会に呼ばれたアップルCEOのティム・クックは税金逃れとの指摘に対して「どこの国でも法律と納税義務を順守している」と否定し、「税負担が重過ぎるアメリカの税制こそ変えるべきだ」と平然と言ってのけた。
国境というボーダーの中で、国家が税金を取って行政サービスを提供するという仕組みが、アメリカでは成り立たなくなっている。予算が足りないから、手下の日本やオーストラリアに国防の出前を押し付けるのである。
国家運営の原資をどうするか、世界的な規模で組み直さなければアメリカのような国はやっていけなくなるだろう。「国家とは何か?」という問い掛けが込められているという点では、イスラム国よりもグローバル企業の巧妙なタックスマネジメントのほうが各国の為政者にとって深刻で悩ましい脅威なのだ。
出典:
『ボーダレス ワールド』(プレジデント社)
画像を見る[翻訳]田口 統吾
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