中央教育審議会は近く、大学入学者選抜と大学教育、高校教育を一体で改革する「高大接続」について下村博文文部科学相に答申します。どうしても大学入試センター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)など新テストの在り方に注目が集まりますが、先の記事でも紹介したとおり、文部科学省は新テストの創設を待たずに大学入学者選抜実施要項を改正し、随時各大学に入試改善を迫りたい考えです。なぜ国はこうも改革を急ぐのでしょうか。
答申案に付けられたスケジュール案によると、現在のところ、高校在学中に受ける「高等学校基礎学力テスト」(仮称)は2019(平成31)年度、大学入学者選抜のための学力評価テストは20(同32)年度から開始する予定です。いずれも今年度の小学6年生(2021<平成33>年度以降に大学入学)からが対象となります。いずれの新テストも年複数回の実施とし、1点刻みではなく段階別に成績を提供するとしています。これまでのように一発勝負のペーパーテストだけで合否を決めるような大学入試ができなくなるようにすることで、多面的・総合的な入学者選抜への転換を一気に図っていこうという意図が込められています。
ただ、年複数回の試験でどのようにすればレベルを一定にそろえた段階別評価ができるのか、学力評価テストで「合教科・科目型」「総合型」の問題をどう作るかなど、実現までには課題が山積みです。中教審でも問題例として全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題やPISA(経済協力開発機構<OECD>の「生徒の学習到達度調査」)、大学入試センター試験で思考力を問う問題などが紹介されましたが、「自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し成果等を表現するための力を評価する」(答申案別添資料)ような問題とはどういうものか、しかも段階別とはいえ大学入学者選抜にも使えるよう幅広い難易度を設定することが本当にできるのか、現時点では具体的な姿がほとんど見えていません。そのため早急に専門家を集めた具体的な検討に入り、2017(平成29)年度にはプレテストの準備に入りたい考えです。
新テストは、1点刻みという客観的な結果で優劣を判定するのが公正・公平だという日本人のテスト観に転換を迫るものです。それでもなお、こうした改革を断行しようとしているのは、日本が今も生産年齢人口の急減、労働生産性の低迷、グローバル化・多極化などの厳しい環境にさらされ、「将来は職業の在り方も様変わりしている可能性が高い」中で「これまでと同じ教育を続けているだけでは、これからの時代に通用する力を子供たちに育むことはできない」(答申案)という危機感があるからです。
学習指導要領を2020(平成32)年度から順次、全面改訂する検討も先月始まりました。新たな時代を見据えた教育改革が「待ったなし」(同)であることも事実です。既に2016(平成28)年度から東京大学が「推薦入試」、京都大学が「特色入試」の実施を公表しているように、危機感を持った大学側のほうが対応が早いかもしれません。
記事
- 2014年12月05日 15:00
なぜ国は入試改革を急ぐのか ‐ 渡辺敦司
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