記事

加工処理しきれない大量のサバを漁獲してしまう日本 資源管理も地方創生の機会も台無しに - 片野 歩

1/2

本コラム「日本の水産業は崖っぷち」の開始から2年半が経過しました。この間にも水産資源は減少し続け、今年の6月にはウナギが、そして11月17日には太平洋クロマグロが、国際資源保護連合(IUCN)により、絶滅危惧種(「レッドリスト」)に指定されました。「崖っぷち」の資源予備軍は、まだまだあります。

画像を見る
サバを主体とする水揚げで発展を続けるノルウェーの水産都市オーレスンド

 皮肉にも、日本が漁業の主体である太平洋クロマグロの親魚資源量は、歴史的低位置付近という深刻な減少を続ける一方で、大西洋クロマグロは資源が増加中。同じマグロなのに、なぜでしょうか。太平洋と大西洋で何か違うことが起こっているのか、というとそうではありません。これは環境の変化の問題ではなく、「人災」と言える結果です。魚を一網打尽にする大型巻き網船が問題かと言えば、それも違います。ノルウェーをはじめとする北欧では巨大な巻き網船の建造が進んでいます。それなのに水産資源は安定し、地方の水産都市は栄え(写真)、漁業は成長産業になっています。

 問題の本質は、船の大きさや漁法ではなく、科学的な根拠を基に資源管理を行ってきたかどうかにあるのです。世界と比べると日本の漁業は色々な問題が浮き彫りになります。この連載では、これからも皆さんにあまり知られていない、世界からの正しい情報をお伝えすることによって、問題の本質を明確にし、日本の取るべき方策を共有していきたいと考えています。

加工処理能力を超えて大量に水揚げ

画像を見る
「小サバ」や「赤ちゃんサバ」と呼ぶべきではないだろうか
http://www.suisannet.com/
拡大画像表示


 日本で一番水揚量が多いのはサバ類です。2013年までの過去10年で、年間平均約50万トンあり、日本の総漁獲の約1割を占めています。現在八戸~銚子にかけて大量のサバが水揚げされています。今年は、漁獲枠(TAC)が昨年の70万トンから90万トンに増加。水揚げ増が予想されています。実際、11月17日には約7000トン、11月21日には約9000トンという大漁水揚げがありました。しかし、一見大漁であっても、現在の漁獲状況には、科学的根拠に基づいた個別割当制度が適用されていません。このため、八戸、石巻、銚子他、かつてサバの水揚げで、その関連業種とともに栄えた地域の資源回復と地方創生の機会を台無しにしてしまっているのです。

 マサバの資源が増えている原因は、震災に関連すると考えられます。2011年3月に東日本大震災がありました。マサバの産卵は3~6月頃です(第20回参照)。この時期に漁獲を逃れたサバが大量に産卵。その時に卵からかえったサバが2013年春に大量に産卵したと考えられています(マサバは2年で約50%が成熟)。現在1歳魚の資源量が多いこととも一致します。その小サバが「ジャミジャミ」であったり、「ジャミポロ」(画像)と表現されたりしているのです。

 現在の早獲り合戦(オリンピック)方式や、実際の漁獲量より多い漁獲枠では、獲れる時に獲れるだけ獲ってしまうので、1日で加工処理できる量以上の水揚げとなってしまうことがあります。資源的にも経済的にも、実にもったいないやり方です。

 9000トンも水揚げせずに、たとえば加工処理能力に応じて毎日1000~2000トン程度に分散していけば、以下の(1)~(3)のようなメリットがあります。

(1)加工処理能力に応じた鮮度がよい状態で、ほぼ毎日生産ができる。

(2)鮮度が保持できるために、餌などの価格が安い用途向けを回避できる。輸出向けを含め、高い価格を出して買っても採算が合うようになる。これは水揚げ金額の上昇と、加工品の売上高増加という効果をもたらす。

(3)仕事量が一定になり、極端に残業がある日と仕事が無い日に分かれてしまうケースが減少する。

 一方で現在の状態は、

(A)一旦水揚げがまとまったら、とにかく早く処理しなければならない。

(B)1日で処理できず翌日に持ち越した原料は鮮度が落ちてしまう。たとえ加工できるサイズであっても、鮮度落ちで餌用など(通称ガンガン・第8回参照)に回して処理せねばなりません。

(C)いつ水揚げがあるかわからない。一旦獲れると大漁水揚げとなるので、現場の仕事時間は不安定で大変。

アフリカでは日本のサバは「安いから」売れる

 海外で個別割当制度を実際に長年見てきた立場からいいますと、水揚げの分散は、漁業者が率先して行います。理由は簡単で、その方が水揚げする魚の単価が高くなるからです。厳格な個別割当制度を実施しているノルウェー他の漁業先進国では、水揚げ金額が上がり、冷凍加工されたサバは世界各国に高値で販売されていき、国のブランド力が高まるという好循環が起きていきます。

 日本とノルウェーのサバの輸出価格を比較するとよくわかります。2013年のサバの輸出統計を見てみますと、ノルウェーが24.3万トン 約475億円 平均単価 キロ約195円。一方で日本は11.2万トン 119億円、問題の単価はキロ106円とノルウェーの約半分。

 日本の最大の輸出国であるエジプト向けには、日本からは2.8万トンとノルウェーの8000トンより多いのですが、価格が日本のキロ104円に対して、ノルウェーはキロ130円。エジプト向けの価格は、他国向けに比べて安いので、ノルウェーは輸出を敬遠しているだけなのです。一方で日本のサバは、概して評価が低く、他の輸出国への価格と大差ありません。日本のサバはアフリカ市場でも評価が高くはなく、価格が安いというだけで売れているのが実態です。アフリカ市場が日本に求めているのは「安い価格」なのです。これではMade in Japanが泣きますね。

 日本海でも「ローソク」と表現される子どものサバが餌用に漁獲されて境港などで水揚げされています。ノルウェーでは、30cm以下のサバを食用以外で漁獲することができません。また、漁業者も個別割当制度なので、小サバを獲って貴重な漁獲枠を使用することはしません。2012年~2014年にかけてのサバが食用に回る比率を調査した資料(Pelagic Fish Forum分析)によると、ノルウェーやEUは食用が100%。日本は約64%となっています。ちなみに来年度の予想も、ノルウェーやEUは、ほぼ100%です。

 サバを餌にしてはいけないとは言いませんが、大きく成長して旬である秋の良い時期に漁獲すれば価格が上がる魚を、わざわざ小さくて価格が安い時期でも獲ってしまう。しかも産卵できるまで成長する前に獲る。これでは資源は持続的(サステイナブル・前回参照)にはなりませんし、将来性もないことは誰でも気づくはずです。

あわせて読みたい

「漁業」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    大阪警官刺傷 子ども移動控えて

    橋下徹

  2. 2

    香港デモ 怒り背景に中国不信も

    BLOGOS編集部

  3. 3

    朝日の信頼度 今年も全国紙最低

    島田範正

  4. 4

    イランが日本船を狙うのは可能か

    木走正水(きばしりまさみず)

  5. 5

    雅子さまと明暗分かれた紀子さま

    NEWSポストセブン

  6. 6

    よしのり氏 なぜ休日増やすのか

    小林よしのり

  7. 7

    老後2000万円批判は大人の居直り

    AbemaTIMES

  8. 8

    老後2000万円 大本営発表状態に

    大串博志

  9. 9

    宮内庁楽部のNO.2が教え子と不倫

    文春オンライン

  10. 10

    報道のWEB有料購読 浸透せず苦境

    ロイター

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。