- 2014年12月05日 10:48
豚肉輸入問題で米台関係を損ねるな - 岡崎研究所
米台商業協会会長のハモンド=チャンバースが、10月22日付ウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説にて、米国は台湾の豚肉禁輸のような細かいことに拘るべきではなく、戦略的見地に立って、米台二国間投資協定の交渉に直ちに応じるべきである、と述べています。
すなわち、米国は、台湾に対し、長年、緊密な軍事関係と強固な経済・商業関係を同時に追求してきた。米国は、台湾に武器を売り、台湾に米国市場へのアクセスを提供し、WTOなどの国際機関への台湾の加盟を支持してきた。こうした支持が、中台関係にバランスをもたらしてきた。それは、米台双方にとり利益である。
しかし、最近、中国は、台湾の最大の貿易パートナーとして、米国を凌駕し、台湾の輸出の43%以上を占めている。一方、米国は、台湾の貿易パートナーの中では第三位に転落している。
一方、台湾は、TPPへの参加に先立ち、米国との二国間投資協定の交渉を望むことを示唆している。台湾の目標は、台湾が経済的に活発で安全であることであり、これは米国の利益と一致する。なぜ、豚肉をめぐる問題で、ワシントンが、米台関係を拡大する機会を無駄にしようとするのか、理解に苦しむ。豚肉は、米台貿易全体の0.06%に過ぎないのに、米国の貿易交渉担当者と議会は、二国間投資協定の交渉の前に、台湾の豚肉貿易の体制を変えるよう要求している。
今こそ、米国が台湾に関する国益を増進させる機会である。2016年には、米台で大統領選があり、双方の新政権が落ち着くまで、米台関係を進展させるのは困難になろう。中国は、それを、自らの国益の更なる追求のために用い、両岸の緊張は高まるであろう。
中国は、最終的には台湾を統一するという目標を立て、台湾を経済的には引き付け軍事的には威嚇する政策を取っている。台湾人が統一を拒否し続けているのに、台湾が中国の経済的勢力圏にさらに取り込まれることは、紛争のもとである。米国は、台湾海峡の平和を望んでいるが、米国がそれを維持するために何をする用意があるのか、明らかではない。
米国は、豚肉と米台二国間投資協定をリンクさせることを止め、直ちに交渉を開始すべきである。米国は、成功する見込みのない狭い利益を追求し、より広い利益をリスクに晒している。こうしたやり方は、台湾をさらに中国の抑圧的な体制の中に追いやり、台湾海峡の緊張を高めるリスクを増大させることは確実である、と述べています。
出典:Rupert Hammond-Chambers, ‘Pork Politics Threaten the Taiwan Strait’(Wall Street Journal, October 22, 2014)
http://online.wsj.com/articles/hammond-chambers-pork-politics-threaten-the-taiwan-strait-1413997589
* * *
米国は、米台間の貿易自由化交渉については、これが経済的にも戦略的にも重要であることを認めています。一方、台湾の保護主義や特異な規制に関しては、それを改めるよう強く求める意見が根強くあります。米国産豚肉の禁輸問題は、米国側から、特に厳しい批判を受けています。
それに対し、この論説は、米国と台湾の関係を考える時、豚肉のような一分野の貿易問題によって、安全保障を含む関係全般が停滞している、として米国側の戦略的行動を促しています。米国側にも台湾側にも農産物、食肉等をめぐる保護主義は存在しますが、大局的見地から、米国側がより多く譲歩すべきであるという主張です。これは、米台商業協会会長として米台間の経済関係を知悉している論者が、中国の対台湾政策への危機感に対する的確な認識を背景にした、見識のある意見であり、論者の地位を考えれば、重みを持つものと思います。
米国にとっても、日本にとっても必要とされるのは、台湾を早期にTPPに加盟させることによって、台湾の対中経済依存度(現在、台湾の総輸出の43%が中国向け)を低下させ、台湾を、価値観を同じくする米国、日本、ASEAN、豪州等に、より接近させることです。
馬英九政権はTPPに参加したいとの明確な意思表示をしています。しかし、具体的にそのような動きが出てきたときに、中国がこれを黙認するか、あるいは牽制したり反対したりしないかという点については、今の段階では判然としません。
香港の民主化活動への馬英九総統の支持表明に対して、中国の人民日報系の『環球時報』は、強い不快感を示し、「一地方の頭目は発言を自重して、台湾世論を間違った方向に誘導するな。馬英九に対しては中国には何らの借りもない」との異例の脅迫めいた警告をしています。こうしたことを考えると、台湾のTPP参加に対して、中国が妨害をする可能性は低いとは言えないでしょう。それに対して、ハモンド=チャンバースは、中国の考え方とは無関係に、台湾のTPP参加を推進することを含め、米台間の通商関係を強化すべきである、と言っているわけです。
■関連記事・台湾の対中経済依存度を低下させるために米国ができること
・台湾の行方占う選挙 国民党・馬英九凋落で民進党にも擦り寄る中国
・米中の間で揺れる韓国
・中国に対する台湾の「世代間認識ギャップ」
・激しさ増す中国による台湾へのサイバー攻撃
- WEDGE Infinity
- 月刊誌「Wedge」のウェブ版



