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菅原文太さんの「遺言」と、「沖縄方式」の叡知 - 鈴木 耕

「マガジン9」の更新日は毎週水曜日。だから、原稿はいつも火曜日に書く。でも、火曜日に仕事がある日は、月曜日になるべく下書きを作っておく。今回も、そのパターン。
 で、月曜日(12月1日)、少し下調べをしようと思ってパソコンを開いたら、なんと、菅原文太さんの訃報。11月28日に亡くなっていたという。書こうと思っていたことが、一瞬で頭から飛び去ってしまった。

 文太さんは、ぼくらの青春の時代像の最も重要なおひとり。先日亡くなった高倉健さんとは違う意味で、揺れ動く時代を映し出した人だった。
 健さんがヤクザという様式美のカッコよさを体現したとすれば、文太さんは力でその様式を破壊しようとした。だから、健さんはあくまで日本刀で切り結び、文太さんは銃弾と血でカタをつける。健さんが「死んでもらいます」であれば、文太さんは「弾はまだ残っとるがよ」なのだ。
 ともあれ、ぼくらの青春のおふたりが、たった1カ月のうちに去ってしまった…。

 文太さんには、ぼくはことのほか思い入れがある。それには、つい最近の出来事も影響している。沖縄でのことだ。
 11月1日、いまからたった1カ月前、文太さんは沖縄にいた。沖縄県知事選での翁長雄志候補の応援のためだった。この日、那覇の野球場は1万3800人という人で溢れかえっていた。翁長候補支援の「うまんちゅ1万人大集会」だった。
 その大観衆の前で演説に立ったのが、文太さん。動画が残っている。ぜひご覧いただきたい。
 市民ネットTV局・デモクラTVの「沖縄タイムス・新沖縄通信」第11号(デモクラTVのアーカイブでいつでも視聴可)の約22分あたりに、その演説が収録されている。ぜひ、観てほしい。あまりのカッコよさに、震えがくる。
 いまから考えると、これはまさに、文太さんの「遺言」だったと思う。壮絶な、鬼気迫る演説である。
 演台に現れた文太さんは、背広がややダブついているように見える。かなり病気が進行していた状況だったのだろうか…。それを考えただけで、文太さんの決意がしのばれる。胸が熱くなる。
 少しだけ、文太さんの演説を引用しよう。

…沖縄の風土も、本土の風土も、海も山も空気も風も、すべて国家のものではありません。そこに住んでいる人たちのものです。
 辺野古もしかり。勝手に他国へ売り飛ばさないでくれ。
 そうは言っても、アメリカにも良心に篤い人々はいます。中国にもいる、韓国にもいる。その良心ある人々は、国は違っても同じ人間だ。みな、手を結び合おうよ…

 他国を貶めることで“愛国心”を煽り、それを政権の求心力にするような安倍首相への痛烈な批判である。“国家”のためには“国民”の犠牲も厭わない。それが安倍政権のやり方だ。
 冗談じゃない、国民あってこその国家ではないか。
 文太さんが言いたかったのは、きっとそういうことだ。だからこそ、「いま最も危険な政府」と安倍政権を断罪したのだ。
 こうも言っている。

 政治の役割はふたつあります。ひとつは国民を飢えさせないこと、安全な食べ物を食べさせること。もうひとつは、これがもっとも大事です、絶対に戦争をしないこと…

 安全な食べ物…。むろん、福島原発事故を念頭に置いての発言だろう。子どもたちに安全な食べ物を、という当たり前のことが果たして守られているか。福島は終わっていない。積極的に反原発の発言をし、運動にも加わってきた文太さんの想いだ。
 そして、沖縄はどうか。米軍基地の新設を“粛々と進める”などという安倍政権の姿勢に、戦争の臭いを嗅ぎ取った文太さんの、日本人全員へのメッセージが「絶対に戦争をしないこと」なのだ。
 文太さんはこの演説で、『仁義なき戦い』のセリフを引いて、ドキリとするような言葉を吐いた。

 仲井真さん、弾はまだ一発、残っとるがよ

 これは、最終的な闘いの宣言である。仲井真知事が「いま最も危険な政府」である安倍政権へひれ伏したことへの、怒りの戦闘宣言である。
 文太さんの言葉を受けて、沖縄の人たちはきっちりと投票でその意志を示した。翁長さんを、10万票もの大差で仲井真さんに圧勝させたのだ。「残っていた弾」を、これ以上ない形で使ったのだ。

 選挙である。
 本土でも沖縄に負けないような結果を示さなければならない。ぼくは痛切にそう思う。ぼくらにも「弾はまだ、残っとるがよ…」

 沖縄では4つの選挙区で、地滑りのような勢いで闘いのスタイルが出来上がった。翁長新知事の「辺野古への米軍新基地建設絶対阻止」を国政レベルで支援しようという「オール沖縄」態勢の構築だ。
 自民党の4人の候補はすべて、前回選挙で「普天間飛行場の、最低でも県外移設」を公約に掲げた。その結果の当選だった。だが、この自民党議員たちの卑屈な場面を、沖縄県民は目にしてしまった。石破茂自民党幹事長の恫喝に屈した場面である。
 前回のこのコラムで書いたので詳しくは触れないが、それは沖縄県民に「現代の琉球処分」として、屈辱の思いを刻み込んだ“事件”だったのだ。
 沖縄はいつまで政府に足蹴にされ続けなければならないのか、沖縄県民に自分のことを決める権利はないのか…。
 沖縄県民がとなえ始めた「自己決定権の回復」が、今回の翁長さんの圧勝という結果に表れたのである。
 それを引き継いだのが、今回の衆院選での「オール沖縄」態勢だ。すなわち、次のような布陣である。

 沖縄一区 国場幸之助(自民)vs 赤嶺政賢(共産)    
 沖縄二区 宮崎政久(自民) vs 照屋寛徳(社民)
 沖縄三区 比嘉奈津美(自民)vs 玉城デニー(生活)
 沖縄四区 西銘恒三郎(自民)vs 仲里利信(保守系無所属)

 見事なものではないか。
 従来の保守革新の枠を軽々と飛び越えた。一区では先の県知事選で大敗した下地幹郎氏も出馬するなど、ほかの立候補者もいるけれど、まずは上に挙げた「自民vsオール沖縄共闘」の一騎打ちとみて間違いないようだ。
 この「沖縄方式」が、沖縄選挙区をとても分かりやすいものにしている。「辺野古米軍新基地建設」をもっとも重要な争点に掲げて、反自民陣営は共闘体制を組んだのだ。
 ぼくは、この方式を編み出した沖縄県民の叡知に尊敬の念を抱く。
 政府が地方の苦しみに目をつぶるならば、自分たちの手に政治を取り戻す。最近、沖縄でよく耳にする「自己決定権」という言葉は、まさにその意味だ。そして言葉どおり、沖縄の人たちは自ら決定するための「沖縄方式」を編み出した。
 共産党は、全国のすべての小選挙区に候補者を擁立する方針だったが、ここ沖縄では一区以外は候補者を見送って「オール沖縄」に乗った。沖縄の共産党は中央とは一味違うということなのか。

 沖縄のように、重要な争点を設定して、それを反自民統一候補のスローガンにする、という方式は全国では不可能か?
 たとえば、鹿児島や福井、福島などでは原発問題を最重点課題に押し出す。火山と原発も議論の対象になるはずだ。北海道や農業生産地域ではTPP問題で統一戦線を組む。過疎化対策を前面に押し出す共闘があってもいい。被災地では放射能汚染物質の中間貯蔵施設問題を大きく取り上げる。米軍基地のあるところの騒音問題も共闘課題になるだろう。中小の製造企業の多い地区では、それこそ円安による不況(アベノミクスの失敗)を突けばいい。
 各地方・地域で、野党が最重要課題を論議してまとめ、それを基に統一候補を模索する。各地方には、その土地特有の重要問題が必ずあるのだから、そんな試みは不可能ではないはずだ。
 巨大与党に挑むには、沖縄のように争点をひとつに定めて「腹一分でも手を結ぶ」ことが必要だった。でなければ、組織票に乗る自民・公明の堅陣を破ることは難しい。

 ところが安倍は、アレもコレもソレも、みんなごった煮にぶち込んで争点隠しを図った。ことに「アベノミクスの成果を問う」などと、自分の手で国民生活を破壊しておきながら、あたかも経済問題を解決できるのは安倍政権以外にはない、という幻想にもならない絵に描いた餅を振り回して、国民の目を眩まそうとしている。
 だが、そんなものが争点か? 
 安倍の存在、つまり、文太さんの言うところの「いま最も危険な政府」こそが争点なのだと、ぼくは思う。
 アベノミクス、原発再稼働、集団的自衛権、秘密保護法、TPP、さらには改憲…。ひとつひとつがキナ臭い。それらを一挙に持ち出してきたのが安倍“戦前への先祖返り政権”なのだ。
 ここで安倍政権を勝たせてしまえば、少なくともあと4年間は、これらキナ臭い政策の具体化を強行する時間を、安倍に与えてしまうことになる。それを阻止するためには、安倍の存在そのものを争点にしなければならない。
 それぞれの地方での野党共闘のための争点設定は、今からではもう間に合わない。ならば、安倍を問え!
 マスメディアは、個々の問題をそれなりの視点で分析してくれる。だが、分析すればするほど、安倍のキナ臭さが霞んでいく。

 安倍を問え!
 ぼくは、そう訴えたい。

 文太さんの妻・菅原文子さんのコメントには、こうある。

…「落花は枝に還らず」と申しますが、小さな種を蒔いて去りました。ひとつは、先進諸国に比べて格段に生産量の少ない無農薬有機農業を広めること。もう一粒の種は、日本が再び戦争をしないという願いが立ち枯れ、荒野に戻ってしまわないよう、共に声を上げることでした。すでに祖霊の一人となった今も、生者とともにあって、これらを願い続けているだろうと思います。
 恩義ある方々に、何の別れも告げずに旅立ちましたことを、ここにお詫び申し上げます。

 長年連れ添った夫婦は、顔かたちから心まで似てくるものだというが、この文章の端麗な寂しさに、文太さんの想いがそのままに浮かぶ。
 文太さんの「遺言」を無にしてはならないと、強く思う。

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