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ひきこもり問題は「当事者2.0」の時代に

■「ひきこもり」のインパクト

あれはもう15年以上前になるだろうか。斎藤環さんの『社会的ひきこもり』(PHP新書)が出版され、高校中退以降の「閉じこもり」問題が「ひきこもり」として教育問題の中で顕在化した(当時は「若者の就労問題」は顕在化しておらず、若者は働いて当たり前の価値だけか社会にあったため、子どもと若者には「教育」問題しかなかった)。

「ひきこもり」が現れたことで、子ども・若者の問題(といっても当時は不登校問題しかなかったが)の「不登校」という言葉だけでは問題の事象そのものを捉えることができていなかった状況が意味付けされた。

これ以降、ゆっくりと年齢を重ねていく社会参加できない若者たちとともに、「ニート」や「スネップ」や「無業者」等(「障がい」的側面では、「発達障がい」や「PTSD」や「境界性人格障がい〈ボーダーライン〉等もある)がそのたびに現れ、その状況ごとの社会からはみ出る若者たちを定義付けてきたことは、若者問題に関心がある方であればご存知のとおりだ。

その、定義付け(若者救済のための「ラベリング」)の歴史は、不登校以前には登校拒否や学校恐怖症などもあったが、現在まで続くインパクトでは、斉藤さんの「ひきこもり」に勝つものはあまりないだろう(玄田有史さんの「ニート」はそれに近いのの、ニートは力技のネーミングの裏にある政策的匂い~フリーター政策以降の若者予算の出所探し~が漂っており、若者やその親に与えたインパクトではひきこもりが強かったと僕は感じている)。

■訪問仕事ではタブーワードだった「ひきこもり」

そんな頃、1990年代の後半、ひきこもり体験を語る若者たちが出現し始めた。自分の体験をいろいろな集会で語ることで、同じような体験を持つ若者たちを結果として励まし(摩擦もあったが)、ひきこもりの子を持つ親やひきこもり支援をする支援者に対して、ひきこもる若者自身の思いを語る人たちがいた。

僕はその時すでに支援者になっていたが、そうした自分のことを語る若者たちに対して微妙な違和感を抱いていた。

基本的に僕は、その「語る若者たち」に共感している。が、僕の当時のメインの仕事は、家にひきこもり続ける若者たちに対して、「訪問支援」する仕事だった。

当時僕はまだNPOの代表でもなんでもなく(2002年から10年間、大阪の老舗NPO代表になるのだがそれはこの話の数年後)、一介のフリー支援者だった。

そのフリー支援者の僕は、毎日毎日、「ひきこもる若者たち」の家を訪問していた。多い時で週12人(1日2人×6日)も訪問し、ひきこもる若者たちと趣味の話をし(ひきこもる若者たちに対して、若者の家の中で、面と向かって「カウンセリング」はなかなかできない)、テレビゲームをし、僕が持っていったビデオ『新世紀エヴァンゲリオン』を一緒に見たりしていた(そうした行為を通して信頼関係を構築し、彼ら彼女らの「社会参加」をゆっくりと付き合う)。

そんな、完全に「ひきこもる若者たち」は、自分のことを「ひきこもり」とはなかなか自称できなかった(中学生であれば自分のことを「不登校」とは言えなかった)。ひきこもりという言葉を聞くだけでいじめ等のトラウマがフラッシュバックし、状態が悪くなることも普通だったので、訪問支援の仕事では「ひきこもり」という言葉はある意味タブーワードだったのだ。

■「当事者」と「経験者」を区別した

そんな時、自分の「ひきこもり」体験を語る若者たちが複数現れていた。上に書いたように、支援者である僕は基本的に共感したものの、その「名乗り」感にはずっと違和感を抱いていた。

なぜなら、日々の仕事で出会う「完全にひきこもる若者たち」は、自分がひきこもりであるとは決して語ることができなかったからだ。

だから、そうした感覚の中で僕は、僕の訪問仕事で出会う若者たちを「ひきこもり当事者」、そして人前で自分はひきこもりであると語れる若者たちを「ひきこもり経験者」として区別した(この背景には、哲学者スピヴァックの『サバルタンは語ることができるか』との出会いがあるが、ここでは割愛。関心ある方はこの僕の記事等を参照ください。誰が若者を「代表」するんだろう

その「区別」は、自分のひきこもり体験を語ることのできる若者(ひきこもり経験者)をずいぶん傷つけてしまった。自分はひきこもり「当事者」ではなく「経験者」なのだとして、当事者より経験者のほうが「元気」なのだとして、そうすると、こんな自分は人前で自分のことを語る権利はないのか、と。

せっかく必死の思いをしてこうして人前で自分たちのひきこもり体験を語っているのに、田中さんはそうした自分たちの思いを押しつぶすのか、と。

■当事者2.0

僕としてはまったく押しつぶす気はなかったのだが、当時は僕も、支援者として必死に理論を確立し食べていくことを必死に模索していたので、たぶん言葉遣いが未熟だった。だから本当に傷つけてしまったと思っている。そして反省し、まだ後悔している。

それ以来、僕は「当事者」議論を表立っては避けてきた(臨床哲学やスピヴァック哲学の学びはずっと続けてきたが)。

が、ここにきて、具体的には昨年あたりからだろうか、「当事者」の議論を、Facebookを通して見たり聞くようになった。これはまだ東京エリアだけの動きのようだが、当事者として、100人単位以上の若者が集まり、そこには僕のような支援者は存在せず(第三者は研究者やジャーナリストが応援しているようだ)、「ひきこもり大学」等の新しい概念とともにひきこもる若者たちの声を自ら発信しようとしている。

またそこには、ひきこもり分野の中でさらに抑圧・潜在化させられてきた「セクシュアルマイノリティ」や「女性」の声を反映させようという、僕にとって最も重要なテーマの一つも含まれている。

こうした、100人単位での「当事者」としての集まり、潜在的存在の「当事者」としての名乗り等は、15年前にはありえなかった。

厳密に言うと、ここには15年前に位置づけた「当事者」と「経験者(ポスト当事者)」の問題はあるだろう(当事者になればなるほど、その問題自体を語れなくなる、「サバルタンは語れ」なくなる)。

が、明らかに今、「当事者2.0」といってもいい動きが現れていると感じる。

だから僕も、当事者議論の封印を15年ぶりにとき、そうした集会にも出かけていこうと思っている。

※Yahoo!ニュースからの転載

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