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「実現可能性」に後押しされた「改革」の現実

「やってやれないことはない(はず)」というのは、とても理解されやすいとらえ方です。可能性が努力によって開かれることをイメージさせる、勢いをもった精神論は、「甘え」に対する批判と自戒と期待感をともなって、多くの人に受け入れられていきます。そして、もちろん一部にでも「やれている」現実があったとすれば、それは「実証性」という力を得ることにもなります。

 ただ、一面、私たちはこのとらえ方には、よほど慎重に臨まなければならないことも実は知っています。ともすれば、このとらえ方によって、「無理」の見積もり方を誤るからです。「やれること」に、現実的にはどの程度の「無理」が課されるのか、その「無理」を担える条件は何なのか。それ如何によっては、あたかも努力次第で機会が保証されているかのような話が、実はだれでも「やれる」話じゃない現実が浮き彫りになっていきます。

 そして、もう一つ肝心なことは、この「無理」な状態が、本当に望ましいのかどうかという問題も見誤りがちです。個人に置き換えてしまえば、「無理」ができない奴が消えれば済む話になりますが、社会とってそれは最終的に望ましいことなのかも考える必要があるはずです。とりわけ、社会的に影響力のある存在を語るうえでは。

 この司法「改革」をめぐる慎重論や懸念論に対しても、局所局所でこのとらえ方が登場し、駒が前に進められてきた印象があります。その分かりやすい例としては、弁護士の増員という問題があります。「やってやれないことはない(はず)」というとらえ方は、「3000人」方針に太鼓判を押した日弁連会長の姿(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」)に象徴されるように、「改革」当初の推進ムードのなかで言われたことですが、多くの人は今になって、その「実証性」そのものに疑問を投げかけています。しかし、それでも一部の「やれている」人の存在や、依然、努力と期待感によって、この立場を崩していない人たちは今でもいます。

 ただ、もう一つ、このとらえ方に振り回されてきた存在として、忘れてはならないのが、法曹志望者です。「プロセス」強制化によって、彼らが背負う形になる経済的負担は、各種の支援策によって「やってやれないことはない(はず)」というのが、「改革」推進派の基本的な立場。しかも、法科大学院生に対する経済的支援は、授業料減免、無利子・有利子(低利子)で最長20年間で返済する日本学生支援機構の奨学金制度など、既に充実しているという見方もあります(法曹養成制度検討会議取りまとめ)。

  「給費制」から「貸与制」への議論も、この「やってやれないことはない(はず)」で終わった観があります。ここでは前記支援策の有効性とともに、「稼げる弁護士」ということが決定打になりました。「法曹の養成に関するフォーラム」が実施した調査結果から、「1年目の収入は平均約780万円、5年目で2千万円超」というような数値がマスコミによって流され、その数値の正確性や「過払いバブル」後の状況などを考慮しないまま、「無理」というテーマは後方に押しやられる結果となりました。

 日弁連・弁護士会は、「給費制」存続を主張しましたが、それ以前に経済的負担を課す法科大学院制度の「無理」を問題にしませんでした。その結果、皮肉なことに、対象となる修習生は、法科大学院での多額の負担が可能だった人たちということになり、さらにその彼らの修習期間たった1年という問題の矮小化が、「給費制」存続への社会的共感の足を決定的に引っ張ったという見方があります。「やってやれないことはない(はず)」での決着は、およそ現実的にその「無理」が何を排除するのかや、そのことの意味にまで社会的な理解が行かず終わるという結果を生みました。

 この経済的支援に救われたという体験者の声もありますし、彼らのなかにも「やってやれないことはない(はず)」という立場の人がいるのも事実です(「司法試験3回落ちたけどいつか必ず弁護士になるブログ」)。しかし、好きこのんで「無理」をしたり、リスクを抱え込む人はいません。いわば、いくら「支援」と銘打っても、その後に待ち受けている弁護士の経済事情による返済不安を含めて、その現実的救済効果と「無理」の程度を志望者たちが見抜いている結果が、現在の法科大学院離れ、法曹界離れという現象であることは誰の目にも明らかです。

 大学院生の4割以上が奨学金を利用し、その4分の1に近い利用者が借入金総額500万円以上、利用者75%に返済不安という「全国大学院生協議会」の調査結果を報じた11月27日付け朝日新聞朝刊の記事は、こう括ります。

 「奨学金が経済的支援ではなく、事実上の『借金』として重荷になっている」

 「事実上」と付す意味がどこにあるのかという気もしますが、8割近い利用者が返済不安を感じる「支援」をどう評価するべきでしょうか。「ご利用は計画的に」というのが、「借り手」への最低の配慮としての、施行者側メッセージだとすれば、一も二もなく、彼らはそれに従って利用すべきではなかった人たちということになってしまいます。

  弁護士に関しても、法曹志望者に関しても、「成功バイアス」に寄りかかっているような、「やってやれないことはない(はず)」という見方を一度取り払い、仕切り直さない限りは、社会にとって、その「無理」が本当に価値あることなのかどうかの議論にたどり着けないのではないか、という気がしてきます。

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