記事

経済社会の「成長」と「衰退」について考えてみる

2014年11月17日に、7-9月四半期国内総生産(GDP)速報値の発表がありました。記者公表資料のポイントは、7-9月四半期の前四半期(4-6月期)に対する「成長率」は実質で▲0.4%(年率換算▲1.6%)名目で▲0.8%(年率換算▲3.0%)ということでした。この「成長率」の算出根拠となる(年換算した)7-9月四半期のGDPは実質で522.8兆円名目で483.2兆円でした。名目(額面・帳簿価格)より実質(価格変動分調整後)の方が随分大きい数字になっているのはかなり違和感があります。

日々刻々の株価など市場の動きを気にしている人々や毎四半期決算を気にしている人々にとっては、3ヶ月の僅かな変化もとても重要かもしれません。しかし、普通の生活者の立場からすると、目先の僅かな変化よりも、5年後10年後20年後の先々に向かって今からどうなっていくのだろうかということの方がずっと重要なはずです。残念ながら将来を予測したり思うようにコントロールしたりすることはできませんが、過去がどうだったのかはある程度数字で振り返ることができます。

内閣府が公開している四半期時系列データを使って、1994年1-3月四半期から2014年7-9月四半期までの20年間(83 四半期)の(年換算)名目(Nominal)国内総生産(支出側:季節調整済み)の内訳を積み上げ棒グラフ(左目盛り 単位:兆円)で、前年同四半期に対する年成長率を折れ線グラフ(右目盛り 単位:%)で、描いてみました。

無題.png

日本の名目GDPは過去20年にわたって500兆円を挟んで上下しているだけて、基調的にはずっと「横ばいないし停滞」の状態が続いています。② リーマンショック世界不況によって2009年1-3月四半期の(年換算)名目GDPは1年で一気に8.9%(45.1兆円)も縮小しました。③ 財貨・サービス貿易収支(ネット輸出)は、ずっと「黒字」(グラフのプラス側)で推移していましたが、リーマンショック「前夜」の2008年7-9月期に「赤字」(グラフのマイナス側)に転じ、2009年4-6月期から2011年1-3月期まで2年間(8 四半期)「黒字」に戻った後、また2011年4-6月期から「赤字」に大きく転じたままです。④ リーマンショック後の名目GDPの大幅な縮小からすでに5年以上を経過しましたが、財貨・サービス貿易収支要因を除く国内要因だけで見てもようやくリーマンショック以前の水準に戻りかけているところで足踏みしているようにみえます。

GDPは名目ではなく実質が重要なのだという考えもありますから、四半期年換算実質(Real)GDP(2005年基準連鎖方式)についても、上の名目GDPと同様に20年間(83 四半期)の推移グラフを描いてみました。

無題1.png

この四半期実質(Real)GDP時系列データは、平成17年(2005年)を基準年としてそこからの物価変動分を調整して算出されています(連鎖方式)。実質GDPは、2005年より過去に遡るほど名目GDPより小さく、逆に2005年より現在に近づくほど名目GDPより大きくなっています。これはこの20年間を通じて基調として物価が下がり続けていたためです。実質GDPは物価変動要因を除いた実質成長率を把握するために算出される数値であって、経済の実質規模を表す数値ではありません。したがって、上のグラフは、実質GDPは名目GDPと違って僅かながら右肩上がりに拡大していることを示すだけで、数値に意味があるのは実質成長率だけです。

名目GDP全体は20年停滞を続けてきましたが、その内訳構成はどう変わってきたのでしょうか。1994年1-3月四半期の名目GDPの支出側構成要素の値と2014年7-9月四半期までの20年間の変化量をグラフにしてみました。

無題4.png

名目GDPは500兆円から20年間で17兆円(3%)減少しました。民間消費支出は277兆円から20年間で16兆円(8%)増加して名目GDPに占める割合は55%から60%に上昇しました。また、政府消費支出は77兆円から20年間で27兆円(40%)増加して名目GDPに占める割合は14%から21%に大きく上昇しました。逆に、公共投資は43兆円から20年間で17兆円(40%)減少して名目GDPに占める割合は9%から5%に大きく低下しました。民間設備投資は71兆円から20年間で3兆円(6%)減少して名目GDPに占める割合は15%から14%に低下しました。そして、財貨・サービス貿易収支(ネット輸出)は、輸出が41兆円(93%)輸入が65兆円(105%)も拡大した結果、9兆円の黒字から24兆円減少して15兆円の赤字に転換し、名目GDPを2%増加させていたものが逆に3%減少させるようになっています。

これらの変化が時系列でどのように生じてきたかを確認するために、1994年1-3月四半期の値を100とした指数で支出構成要素の推移をグラフにしてみました。

無題2.png

名目GDPより上側で推移しているのはGDPを押し上げてきた要素で、下側で推移しているのはGDPを押し下げてきた要素ですが、ただし輸入だけは輸出と比較するために逆転してあります。

名目GDPを押し下げてきた最大の要因は財貨・サービス貿易収支(ネット輸出)の赤字化です。輸出と輸入がともに大きく拡大しているのは、日本企業の生産拠点が海外にシフトして資本財や部品の輸出と完成品輸入の両方が増えていること、また、化石燃料価格の上昇や円安による輸入価格上昇に原発停止に伴う輸入量増が相乗的に影響しています。価格や為替の先行きは予想できませんが、財貨の輸出入「数量」が名目GDPを「継続的に」拡大するほど著しく増減する可能性はあまりないのではないかと思われます。他方、旅行収支や知財収支などのサービス貿易収支は、ビザの緩和やコンテンツ輸出などによってまだまだ改善していける可能性はあるのではないかと思われます。

名目GDPを押し上げてきた最大の要因は政府消費支出の継続的拡大でした。これはいうまでもなく社会保障給付費の増加に伴って公費負担部分(政府現物消費支出)が拡大してきたからです。その推移データをグラフにしてみました。



社会保障給付費は、実質的には目的税に相当する社会保険料とその積立金の運用益や取り崩し、そして政府一般会計からの「公費」補てんによって賄われています。政府消費支出の増加は名目GDPを押し上げますから、それ自体はあながち悪いことではありません。問題はその財源がどう確保されるかです。社会保障給付費の財源となる社会保険料(実質目的税)と一般税は保険料率や税率が変わらなくても名目GDPに連動して増減します。他方、名目GDPが増えなければ、増加する社会保障給付費に連動して社会保険料率と税率を引き上げる必要がありますが、税率引き上げは民間の消費や投資を減少させて名目GDPを縮小させてしまいます。

名目GDPが持続的に拡大してこなかった最大の要因は、55-60%を占める民間消費支出がほとんど増加してこなかったからです。消費は実質では増加してきたが物価が低下してきたので名目(額面・帳簿価格)では増えなかったということもできますが、物価が低下したのは消費力が潜在供給力に対して一貫して弱かったからということもできます。消費力が伸びなかったのは雇用者報酬が減り続けたからです。いわゆるデフレスパイラルです。

最初のグラフに戻って名目GDP成長率(折れ線グラフ)の推移をみると、1994年から1997年まで名目GDPはその後の17年間のどの時期よりも順調に拡大していました。ところが、1997年4月に一般消費税率が3%から5%に引き上げられた後、名目GDPは縮小に転じてむしろ税収は減り、景気対策を行ったので財政赤字はより拡大してしまいました。その後17年の間名目GDPが持続的な拡大を続けることはなかったので、社会保障給付費が拡大を続ける中で一般消費税率の引き上げはずっと見送られ続けてきました。2014年4月に17年ぶりに5%から8%に一般消費税率が引き上げられましたが、やはり引き上げ後(2 四半期)は名目GDPの縮小が拡がる傾向にあるため、予定されていた2015年4月の8%から10%の引き上げは先送りされることとなりました。過去の経験から見て当然の判断と思われますが、同じく過去の経験に踏まえると消費税を安心して引き上げられるような状況はもう永遠に来ないのではないかという悲観論もいっそう現実味を帯びてきたように思われます。

過去20年間の推移を見てくると、日本の経済社会は、一時的な景気刺激策で「持続的な成長」に戻れるような潜在的な活力が失われており、逆にちょっとした景気減速要因の影響が何年も長く後を引いてしまうような脆弱な体質に陥っているようにみえます。こういう活力のない脆弱な体質は経済社会そのものが「衰退」しているためだと認識するのがやはり妥当なではないでしょうか。衰退している経済社会を立て直して5年10年20年後の将来になんらかの希望を見いだせるよう転換していくには、相当の痛みや危険を伴うような経済社会の「抜本的な革新」がどうしても必要なのではないかと思います。

あわせて読みたい

「日本経済」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    クロ現「日本の防衛」報道に驚き

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    加計で総理批判する国民に疑問

    青山社中筆頭代表 朝比奈一郎

  3. 3

    笹子トンネル事故に"新事実"判明

    週刊金曜日編集部

  4. 4

    小林麻央 2年8ヶ月ガンとの戦い

    渡邉裕二

  5. 5

    田原氏語る共謀罪強行採決の理由

    田原総一朗

  6. 6

    石破氏 自民党は議論の自由ない

    『月刊日本』編集部

  7. 7

    "保守化"を認められない老人たち

    城繁幸

  8. 8

    麻央さん死去 報道の姿勢に苦言

    中村ゆきつぐ

  9. 9

    中田宏氏 私も秘書に暴言吐いた

    中田宏

  10. 10

    外務省は韓国の告げ口外交許すな

    tenten99

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。